妊娠・出産において、母体と胎児に影響のある症状の一つに「低置胎盤」というものがあります。胎盤が通常よりも子宮に近い位置にある状態を示し、大量出血などのリスクを伴います。発症する確率はそれほど高くはありませんが、安全な出産のためにも内容を知っておきましょう。今回は、低置胎盤について、原因や症状、発症した場合安静が必要なのかや、帝王切開になるのかなどをまとめました。
低置胎盤とは?
胎盤は通常、風船のような形をしている子宮の上側にくっついています。しかし何らかの理由で、胎盤が子宮下部にある「子宮口」の付近に付着してしまうことがあります。この状態を「低置胎盤」といいます。
低置胎盤の定義は、「胎盤が正常より低い位置に付属しているが、子宮口を覆ってはおらず、子宮口と子宮口に最も近い胎盤の端が2cm以内であること」で、これと似たものに「前置胎盤」があります(※1)。
「前置胎盤」は、胎盤が子宮口にかかってしまっている状態です。低置胎盤と前置胎盤は混同しがちなのですが、胎盤が子宮から離れているほどトラブルが少ないとされているため、前置胎盤より低置胎盤のほうがリスクが低いといえます(※2)。
低置胎盤の原因は?なぜ位置が低くなるの?
低置胎盤の原因ははっきりと分かっていませんが、受精卵の着床が通常より下の方で起こったときに発症します。
また、流産や帝王切開、子宮手術、人工妊娠中絶の経験がある人や、喫煙習慣がある人、高齢出産の妊婦さんや経産婦さんなどは、様々な原因で子宮内膜が傷ついたり、炎症を起こしたりすることがあり、低置胎盤が起こりやすくなるのではないかと考えられています。
原因がはっきりしないため予防も難しいのですが、喫煙の習慣をやめることは予防につながります。妊娠がわかったら、早いうちから禁煙するようにしてください。
低置胎盤になると出血がある?リスクは?
低置胎盤は痛みなどの自覚症状を感じることが少なく、多くは妊婦健診時に行う超音波検査で判明します。
自覚症状がなかったとしても、突然出血するリスクがあるため注意が必要です。特に分娩時の出血に気をつけなければならないのですが、普段の生活のなかで出血が見られることもあります。
出血は、最初は少量ですが、だんだんと量が増えてきたり、長時間続いたりすることがあります。出血が多いとそのまま早産になることもあるので、自己判断せず、少量であってもできるだけ早く産婦人科を受診するようにしてください。
低置胎盤と診断されたときの過ごし方は?
低置胎盤は、薬などで治療をする方法がありません。普段の生活をやや穏やかに過ごしながら、お腹の張りや出血がないように、経過を見ることになります。
仕事も、基本的には普通に行えますが、どの程度なら働けるかを医師と具体的に相談してください。症状によっては急に入院になることもあるので、職場の人にもきちんと説明して理解してもらいましょう。
また、突然の大量出血や早産を起こす危険性もあるので、妊娠30週頃になると、突然の出血に備えて、出産まで入院が必要になる場合もあります。
入院すると、基本的には病院のなかで穏やかに過ごすことになります。窮屈に感じることもあるかもしれませんが、妊婦さんと赤ちゃんにとって、低置胎盤による出血や早産はリスクを伴うものです。出産までだと割り切り、ゆったりと過ごしてください。
低置胎盤は帝王切開になる?自然分娩も可能?
前置胎盤ではほとんどが帝王切開での出産になりますが、低置胎盤は自然分娩が可能な場合もあり、帝王切開か自然分娩かは、状態をみて医師が判断します。
判断のポイントは、子宮口から胎盤の端までの距離です。帝王切開になる確率は、この距離が0.1~2.0cmだと75%、2.1~3.5cmだと31%程度との報告があります(※2)。
できるだけ経膣での自然分娩をしたいという思いもあるかもしれませんが、自然分娩での成功率は、子宮口と胎盤の端までの距離が0.1~2.0cmだと10%程度、2.1~3.5cmだと63%という報告もあります(※2)。
妊婦さんや赤ちゃんの身体のことを最優先で考えて、帝王切開での出産も視野に入れておきましょう。
低置胎盤が治る確率は?
低置胎盤は、妊娠中期頃の妊婦健診で疑いを持ち、妊娠31週末までには診断が行われることが多いようです(※3)。ただし、赤ちゃんが大きくなるにつれて子宮も広がっていくため、その広がりに合わせて胎盤が子宮口から離れている事例も多くあります。
以下は日本産科婦人科学会が報告している前置胎盤が治る確率のデータです(※3)。低置胎盤ではありませんが、参考にしてください。
- 妊娠15~19週:12%(88%は前置胎盤ではなくなる)
- 妊娠20~23週:34%
- 妊娠24~27週:49%
- 妊娠28~31週:62%
- 妊娠32~35週:73%
低置胎盤は、医師の指示に従って経過観察を
「大量出血」や「早産」などと言われると心配になってしまうかもしれませんが、低置胎盤は医師の指示にしたがって対処を行えば、妊婦さんも赤ちゃんも元気に出産を終えられることが多いものです。必要以上に恐れず、しっかりと知識をつけておきたいですね。
そうはいっても、リスクがないわけではないため、NICUなどが整った高次医療機関を紹介されることもあります。かかりつけの医師とよく相談し、必要があれば大きな病院で診てもらうようにしてください。