安産を望んでいても、出産では何が起きるか分かりません。スムーズに分娩が進まない場合に、赤ちゃんが出てくるのを助ける処置のひとつに「鉗子分娩」があります。あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、いざというときのために知っておくと、冷静にお産に臨めるかもしれません。今回は、鉗子分娩について、こそだてハック読者アンケート(※)に寄せられた経験談も交えながらご説明します。
鉗子分娩とは?
鉗子分娩とは、出産がうまく進まないときに、「鉗子(かんし)」というトングのような金属製の器具で赤ちゃんの頭を挟み、体全体を引っ張り出す分娩方法のことをいいます。
分娩が進まないときの応急処置として、一般的に「吸引分娩」の方がよく行われますが、鉗子分娩の方が吸引分娩よりも引っ張る力が強いので、より確実であるというメリットがあります(※1)。
鉗子分娩が行われるのは、どんなとき?
一般的な分娩では、子宮口が全開になったあと、妊婦さんのいきみに合わせて赤ちゃんが下りてくるのですが、微弱陣痛などの様々な原因によって出産に長時間かかる場合があります。
その過程で、赤ちゃんの心拍が低下してしまうなどの緊急事態が起きた場合に、赤ちゃんがいち早く出てこられるように行う処置のひとつが、鉗子分娩です。
ただし、分娩で問題が起きたらすぐに鉗子分娩が行われるというわけではなく、以下の条件を満たしている必要があります(※1)。
鉗子分娩の条件
・子宮口が全開、またはほぼ全開である
・すでに破水している
・赤ちゃんが生きていて、十分に成熟している
・赤ちゃんの頭が見えるくらいまで降りてきている
・ママの骨盤と赤ちゃんの頭の大きさが釣り合っている
これらの条件を満たしたうえで、次のような場合に鉗子分娩が行われます。
どのくらいまで鉗子分娩を続けるかは状況にもよりますが、一般的には赤ちゃんのおでこから眉間が見えるまで引っ張ります(※2)。
母体の状況
母体合併症
心疾患や高血圧などの母体合併症により、妊婦さんがいきむと危険な場合にも、お産の時間を短縮するために鉗子分娩を行うことがあります。
微弱陣痛・母体疲労
陣痛が弱く、十分に子宮が収縮しない「微弱陣痛」によってお産が長引いてしまったり、妊婦さんが疲れてしまっていきめなくなったりすることがあります。
そのような場合、赤ちゃんに酸素が十分に供給されなくなり、赤ちゃんの心拍が低下して、仮死状態に陥る恐れがあるため、鉗子分娩が行われることがあります。
上手にいきめず…
無痛分娩を選択したため、途中までは麻酔で陣痛は緩和されましたが、出産3時間前になり陣痛と私のいきみのタイミングが合わず、麻酔を抑えることになりました。すると、陣痛が急に強くなり、体力が奪われて上手にいきめず、最終的には鉗子分娩で出産となりました。
さくらこ母さん(40代)
胎児の状況
臍帯下垂・臍帯脱出
ママと赤ちゃんを繋ぐ「臍帯(へその緒)」は、お産の間も赤ちゃんに酸素と栄養を送っています。へその緒が赤ちゃんよりも先に下りてきてしまう「臍帯下垂」や、先に子宮口から出てきてしまう「臍帯脱出」になった場合、赤ちゃんに酸素や栄養が届けられなくなるリスクが発生します。
その場合は、一刻も早く赤ちゃんを娩出する必要があるので、鉗子分娩が行われることがあります。
回旋異常
赤ちゃんは狭い産道を通り抜けるために、体を少しずつ回転させながら出てきます。
これがうまく行かない「回旋異常」が起こると、赤ちゃんが産道をなかなか通過できなくなってしまうので、鉗子分娩によって赤ちゃんを引っ張り出すことがあります。
お産では何が起こるかわからない
陣痛促進剤を3回投与されても娘の頭が出てこず、結局鉗子分娩となりました。 私自身が健康優良児でスポーツも万能だったため、みんなから安産だろうと言われていましたが、お産では何が起こるか本当にわからないと思いました。
ゆっこりあんさん(20代)
鉗子分娩は後遺症や障害のリスクがある?
「赤ちゃんの頭を器具で挟んで引っ張るなんて、危険性はないの?」と心配になる人もいると思います。医師はママと赤ちゃんの様子を見ながら慎重に鉗子分娩を行いますが、次のような影響が及ぶリスクも考えられます(※1,2)。
これらのリスクも含めて、異常分娩に至った際の対処方法を、医師に事前に確認しておき、不安な点があれば相談しましょう。
ママへの影響
子宮頸管や腟、外陰部などが裂ける「軟産道損傷」や「会陰裂傷」がかなりの頻度で起こります。
ただし、鉗子分娩を行わないお産でも会陰裂傷が起こることはあります。裂傷が深いと大量出血をきたすこともあるので、それを避けるためにあらかじめ医師が「会陰切開」をするケースもあります。
赤ちゃんへの影響
器具で赤ちゃんの頭を引っ張るときに、顔に傷がついたり、鉗子で圧迫された痕(あと)が残ったりする可能性があります。
また、「赤ちゃんの頭の形が伸びてしまうのでは?」と心配するママも多いですが、基本的には時間が経つと自然に戻っていくので、心配しすぎないようにしましょう。
鉗子分娩の深刻なリスクとして、頭蓋内出血や硬膜下血腫が起きることがあります。ただし、これらは胎児の頭を引っ張る行為そのものが原因というよりも、お産が滞り、胎児が低酸素状態に陥った結果だと考えられています。
鉗子分娩から帝王切開に切り替わることもあるの?
鉗子分娩に至るまでには、微弱陣痛の場合には陣痛促進剤やバルーンなどで陣痛を促すなど、スムーズにお産を進めるためにさまざまな処置が施されます。
こうした処置を行ったうえで、経腟分娩が可能であり、かつ、一刻も早く赤ちゃんを取り出す必要があると判断された場合に、鉗子分娩や吸引分娩の処置が取られます。また、陣痛のタイミングに合わせて助産師が妊婦さんのお腹を圧迫する「クリステレル胎児圧出法」が併用されることもあります(※3)。
しかし、それでも分娩が進まず、このまま時間をかけると妊婦さんと赤ちゃんに危険が及ぶと判断された場合には、緊急帝王切開に切り替えられることもあります。
無事に生まれました!
子宮口は全開で、陣痛が2分間隔になり、痛みのピークを迎えました。しかし、吸引分娩や鉗子分娩をしてもなかなか赤ちゃんが出てこず、お腹の子の顔が上を向いてしまっていて、心拍も弱まっているよう。医師の判断で、緊急帝王切開により、無事2,726gの元気な男の子を出産することができました。
そうまママさん(30代)
鉗子分娩の知識をつけ、心の準備を
出産時には、どんなトラブルが起こるか分かりません。鉗子分娩を急きょ行うことになってもパニックに陥らず、落ち着いて処置を受けられるよう、必要最低限のことは知っておきたいですね。不明な点があれば、医師に確認しておきましょう。
そうは言っても、お産が始まる前からあれこれ心配しすぎるのも良くありません。
不安で頭がいっぱいになりそうなときは、「赤ちゃんと会えるまで、もうひと頑張り!」と前向きに考え、体調管理や入院の準備など、いま自分にできることをやって気持ちを落ち着かせてくださいね。
※アンケート概要
実施期間:2017年5月26日~6月4日
調査対象:陣痛・出産の経験がある「こそだてハック」読者
有効回答数:369件
収集方法:Webアンケート