吸引分娩とは?どんなときに行われる?赤ちゃんへの影響は?

監修医師 産婦人科医 浅川 恭行
浅川 恭行 1993年東邦大学医学部卒業。2001年同大学院医学研究科卒業後、東邦大学医学部助手、東邦大学医療センター大橋病院講師を経て、2010年より医療法人晧慈会浅川産婦人科へ。東邦大学医療センター大橋病院客... 監修記事一覧へ

お産には、様々なトラブルがつきもので、思い描いていた通りに進まないこともあります。分娩をスムーズに進めるための「吸引分娩」も、そういったトラブルが起きたときの対処法のひとつ。一体どんな状況で、どのように行われるのでしょうか?今回は、吸引分娩が行われる状況や方法、気になるリスクについてご説明します。

吸引分娩とは?

吸引分娩  イラスト

吸引分娩とは、お産で赤ちゃんがなかなか出てこない場合に、シリコンもしくは金属製の吸引カップを赤ちゃんの頭につけて、吸引圧をかけて体全体を引っ張り出す分娩方法です。

このように介助が必要な分娩としては、他にも「鉗子分娩」があり、こちらは大きなスプーンを2枚合わせたような器具(鉗子)で赤ちゃんの頭をはさみ、引き出します。

吸引分娩をするのはどんなとき?

疑問 クエスチョン

分娩時には、子宮口が約10cmまで開きます。しかし、赤ちゃんの体勢(胎位)などによっては、赤ちゃんがスムーズに産道を通り抜けることができず、お産が滞ってしまう場合があります。

お産に時間がかかりすぎてしまうと、ママにも赤ちゃんにも影響が出る可能性があるため、吸引分娩で迅速に赤ちゃんを取りあげる必要があります。吸引分娩を行うことができる条件と、実際に行われる状況には、次のようなものがあります(※1,2)。

吸引分娩の条件

・子宮口が全開大
・すでに破水している
・赤ちゃんが元気で、十分に成熟している
・赤ちゃんの頭が見えるくらいまで降りてきている
・ママの骨盤と赤ちゃんの頭の大きさが釣り合っている

これらの条件をすべて満たしたうえで、以下のような場合に吸引分娩が行われます。

吸引分娩が行われる状況

・微弱陣痛や産道の伸びが悪く、お産が進まない場合
・赤ちゃんの体がうまく回転せず、お産が進まない場合
・赤ちゃんの状態が良くない場合(胎児機能不全)
・母体疲労や合併症で、分娩を長引かせるのが危険な場合

基本的に、吸引分娩を行っても赤ちゃんが出てくる目途が立たないときは、鉗子分娩または緊急帝王切開に切り替えます(※1,2)。

以下、こそだてハック読者アンケートに寄せられた、吸引分娩を経験したママの声をご紹介します(※)。

なかなか生まれなかったので…

何時間たっても規則的な痛みが来なかったので促進剤を使いましたが、「なぜ促進剤を使っているのに生まれないの?早く楽になりたいのに…」と思っていました。いきむときもうまくできず、なかなか生まれなかったので吸引分娩になりました。看護師さんにお腹を思いきり押され、3回ほどいきんで叫んだら、するんと赤ちゃんが出てきました。

yukikkumaさん(20代)

緊急帝王切開で出産

子宮口全開、陣痛は2分おき、痛みのピークを迎えました。しかし、吸引分娩や鉗子分娩をしてもなかなか赤ちゃんが出てこない。どうもお腹の子の顔の向きが上を向いてしまっていて、心拍も弱まっているよう。「お腹の子を無事に出してあげましょう」という医師の判断で、緊急帝王切開により、無事2,726gの元気な男の子を出産することができました。

そうまママさん(30代)

吸引分娩のリスクは?障害や後遺症は出ない?

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吸引分娩は、鉗子分娩と比べると母体への負担が少ない方法ですが、赤ちゃんの頭を引っ張るときに圧力がかかるため、次のような影響が出る場合があります(※1,2)。

母体への影響

軟産道損傷

子宮頸管や腟、外陰部の一部が裂ける「軟産道損傷」が起こることがあります。

なお、吸引分娩を行わないお産でも、会陰裂傷が起きることが多く、それを防ぐために医師があらかじめ会陰を切る「会陰切開」を行うケースもあります。

赤ちゃんへの影響

頭血腫

赤ちゃんの頭を吸引するときに、骨膜が頭蓋骨から引き剥がされ、骨膜のすぐ下を通る静脈が破綻することで頭に血が溜まって「頭血腫」ができる場合があります。生後数週~数ヶ月たつと自然に消えるので、基本的には経過観察となります。

帽状腱膜下出血

骨膜と、骨膜の外側にある帽状腱膜が引き剥がされ、2つの膜の間にある静脈が破綻することで、「帽状腱膜下出血」が起こる可能性があります。

生後1~2ヶ月で解消されますが、大量出血が起きるリスクもあるので、輸血などの処置を行います。

頭蓋内出血

吸引分娩の場合、鉗子分娩や帝王切開と同じくらいの頻度で、頭蓋骨の中で出血することがあります。

ただしこれは、赤ちゃんの頭を引っ張る行為そのものによる影響ではなく、分娩が滞り、胎児が低酸素状態に陥ることによる合併症と考えられています。

吸引分娩以外にお産を促す方法はあるの?

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吸引分娩のほかにも、スムーズなお産を促すために行われる方法がいくつかあります。

母体と赤ちゃんの状態やタイミングを見て医師が判断するものなので、妊婦さん自身が自由に選べるわけではありません。あくまでも参考としてください。

陣痛促進剤(陣痛誘発剤)

出産予定日を過ぎても陣痛が来ない、陣痛が来たけれど子宮口がなかなか開かない、といった場合に薬を投与して陣痛を起こす方法です。

陣痛促進剤には、子宮収縮を促す「オキシトシン」もしくは「プロスタグランジン」というホルモンが含まれており、産科ガイドラインに沿って点滴や飲み薬で投与し、陣痛を促します。

メトロイリンテル(バルーン)

陣痛促進剤と同じく、正期産の時期を過ぎても赤ちゃんがなかなか出てこない、または陣痛が弱すぎてお産が進まない場合に使われる、誘発分娩方法のひとつです。

「メトロイリンテル」というゴム風船のような医療器具を子宮内に入れ、滅菌食塩水を注入し、バルーンをふくらませることで子宮口を広げ、分娩時間を短縮します。

クリステレル胎児圧出法

クリステレル胎児圧出法とは、赤ちゃんの頭が降りてきているにもかかわらず、陣痛が弱く、陣痛促進剤が効かず、会陰切開をしても赤ちゃんを取り出せないなど、緊急時のみ行われる方法です。

助産師が分娩台に乗り、妊婦さんにまたがった形で、陣痛のタイミングに合わせて妊婦さんのお腹を圧迫します。強く圧迫しすぎると赤ちゃんの状態が悪化する恐れもあるため、慎重に行う必要があります(※1,3)。

吸引分娩や鉗子分娩と、クリステレル胎児圧出法を併用するケースもあります。

吸引分娩になっても慌てないように、心の準備を

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分娩では、何よりも赤ちゃんと母体の安全が優先されます。どんなに妊娠期間を順調に過ごしていても、分娩の状況によって吸引分娩が必要になることもあります。

自分のお産のときにどんな方法が取られるかを事前に知ることは難しいですが、何があってもできるだけ冷静に、医療スタッフや赤ちゃんの力を信じてお産を進めたいですね。バースプランを書いて、医師としっかりと話しておくことも大切ですよ。

※アンケート概要
実施期間:2017年5月26日~6月4日
調査対象:陣痛・出産の経験がある「こそだてハック」読者
有効回答数:369件
収集方法:Webアンケート

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