癒着胎盤とは?原因と治療方法は?帝王切開だとなりやすいの?

監修医師 産婦人科医 渡邉 京子
渡邉 京子 産婦人科専門医。長門クリニック勤務。女性特有の月経や更年期にまつわる悩みの助けとなること、また、妊娠出産期を安心安全に過ごすお手伝いすること、を念頭に置いて日々診療しています。 監修記事一覧へ

妊娠週数が進み、赤ちゃんに会える日が近づいていると思うと嬉しさがこみあげてきますよね。ただし、妊娠や出産には様々なトラブルも存在します。そのうちの一つである「癒着胎盤」は、妊娠中は特に症状がないものの、産後に大量出血を引き起こすことがあります。リスクを事前に知っておくためにも、今回は癒着胎盤の原因や治療方法などについてご説明します。

癒着胎盤とは?

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通常、出産を終えると胎盤はママの子宮から剥がれ落ちて、胎児と一緒、あるいは胎児の後を追うように、子宮の外に出てきます。これがいわゆる「後産(あとざん)」です。

しかし、胎盤の一部である絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤が子宮壁に癒着すると、出産後に子宮からスムーズに剥がれ落ちないことがあります。この状態を「癒着胎盤」といいます(※1)。

特に、子宮口付近に胎盤が形成されてしまう「前置胎盤」に伴って起きることが多くあります。これまでの研究によると、前置胎盤が見られる妊婦は、そうでない妊婦よりも癒着胎盤の発生リスクが2000倍高いという報告もあります(※2)。

ただし、癒着胎盤が起こる確率は妊婦さん1万人あたり1~2人ときわめて稀なので、過度に心配しないでくださいね(※3)。

癒着胎盤の原因は?予防はできるの?

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妊娠すると、子宮内部には「脱落膜」という特殊な膜が形成されます。通常、胎盤はこの脱落膜にくっついているので、分娩後に子宮から剥がれやすくなるという仕組みです。

しかし、何らかの原因で脱落膜がうまく作られないと、絨毛が脱落膜の内側にある子宮筋層にまで侵入し、胎盤と子宮筋層が過度に密着してしまうため、癒着胎盤の状態になるというわけです。

脱落膜の形成が不十分で、癒着胎盤を引き起こす原因は、主に次のとおりです(※1)。

癒着胎盤の主な原因

● 前置胎盤
● 子宮の手術による傷あと(帝王切開、筋腫核出術など)
● 子宮内膜の過度なひっかき(人工妊娠中絶など)
● 内膜の損傷や炎症(病気や化学薬品など)
● 子宮奇形
● 先天的な子宮内膜形成不全

妊娠期間中に癒着胎盤を診断することは難しく、予防する方法はありません。

ただし、前置胎盤など、癒着胎盤のリスクが高いと診断された場合には、より慎重に分娩が行われることになります。

癒着胎盤は帝王切開の後になりやすいの?

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先ほど挙げたとおり、癒着胎盤になる原因の一つに、子宮の手術による傷あとがあります。

過去に帝王切開で出産したことがある人は、子宮壁を切開した部分の子宮内膜が抜け落ちていたり、薄くなっていたりするため、前置胎盤や癒着胎盤になりやすいとされています(※2)。

特に、一度でも帝王切開の経験がある人で、前置胎盤とすでに診断されている場合には、癒着胎盤である可能性を想定して、輸血などの準備を整えたうえで分娩を行うことがほとんどです。

帝王切開の経験や前置胎盤があったとしても、適切な対処をすれば無事に分娩を終えることができることが多いので、焦らず落ち着いてお産に臨みましょう。

癒着胎盤はいつ診断される?MRIを使うの?

癒着胎盤と診断されるのは、ほとんどが分娩のときです。妊娠中は症状があまりなく、出産前に診断するのは難しいとされます(※1)。

妊娠中に前置胎盤だとわかったときに、超音波断層検査やMRIなどによって、分娩前に癒着胎盤のリスクがあるかどうかある程度予測することはできますが、100%確実ではありません。

多くの場合、次のように分娩のときになってはじめて癒着胎盤が判明します(※3)。

帝王切開で出産する場合

妊娠後期になっても前置胎盤が治らない場合、帝王切開での分娩となるケースが多くあります。帝王切開の手術時に、胎盤が子宮壁と癒着を起こしていると、癒着胎盤が疑われます。

自然分娩の場合

経腟分娩(自然分娩)の場合、赤ちゃんが取り出された後、30分ほど経過しても胎盤が子宮の外に出てこない場合、癒着胎盤が疑われます。

いずれにせよ、分娩してみないと癒着しているかどうかはっきりわからないため、その可能性があることを妊娠中から認識し、判明したときの治療法については産婦人科医と事前に確認しておきましょう。

癒着胎盤の治療方法は?剥離手術が必要?

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癒着胎盤が起きた場合の治療方法は、癒着の程度や症状によって異なります。

胎盤が子宮壁から剝がれかけている場合、完全に剥離させるための「用手剥離」という処置を手で行います。しかし、胎盤が部分的に剝がれた状態で子宮壁に癒着していると、子宮収縮がうまく行かずに大量出血を起こす可能性があるので、止血や輸血を優先することもあります。

また、手で胎盤を剝がすことができない、無理に剥がすと子宮壁を傷つける可能性があるなどの場合は、開腹手術に切り替えることがあります。

今後も妊娠・出産を希望する場合は、子宮動脈の血流を遮断し、止血がうまく行ったら自然と胎盤が剝がれ落ちて出てくるまで待つ方法をとることもあります。

ただし、癒着の程度があまりにも強いときや、止血が難しいときは、やむを得ず子宮を摘出することもあります(※1)。

子宮を摘出することは女性にとってショックが大きいことです。しかし、母体の命を優先するために手術が必要になる可能性があることを、事前に認識しておきましょう。

癒着胎盤を知ることで、気持ちの準備を

事前の診断も予防も難しく、分娩してはじめてわかることが多い癒着胎盤は、母体の命に危険が及ぶ可能性もあるので、出産を控えた妊婦さんは心配になるかもしれません。

もちろん、出産にあたってリスクを知っておくことも大切ですが、妊婦さんにとってもお腹の赤ちゃんにとっても精神的な安定が一番大事です。

癒着胎盤が見られる頻度は0.01~0.02%とまれなので、過度に不安を抱かず、落ち着いて日々を過ごしてくださいね。

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