妊娠前からタバコを吸っている人は「妊娠中に喫煙しても大丈夫かな?」と考えるかもしれませんが、答えはNOです。タバコは、妊婦さん自身にもお腹の赤ちゃんにも悪影響を与えます。喫煙していると様々なリスクを抱えて妊娠生活を送ることになるため、妊娠がわかったらすぐに禁煙するように努力しましょう。今回は、妊娠中の喫煙が妊婦さんや胎児に与える悪影響についてご説明します。
タバコは、がんのリスクを高めるの?

タバコの煙には、タールやニコチン、一酸化炭素、カドミウムなどの有害物質がたくさん含まれており、喫煙や副流煙によって、それらが体内に取り込まれてしまいます。
タバコは、体中のすべての臓器に影響を及ぼします(※1)。タバコの煙に含まれる発がん性物質は、なんと60種類以上(※2)。
煙を吸いこむことで、口や喉、肺といった煙の通り道のほか、唾液に溶けて運ばれる食道や胃、血液中に入りこんだ状態で流れる肝臓や腎臓、尿路系など、様々な器官におけるがんのリスクが高まります。
なお、女性では、喫煙によって子宮頸がんのリスクが高くなることも報告されています(※3)。
厚生労働省によると、喫煙者と非喫煙者の健康状態を比較すると、肺がんによる死亡率が約4.5倍、心筋梗塞や狭心症などの心臓疾患による死亡の危険性は約1.7倍、脳卒中のリスクも約1.7倍になります。また、慢性気管支炎や喘息などの呼吸器疾患や歯周病の原因にもなると考えられています(※4)。
このように、喫煙による健康被害は大きなものです。タバコの成分の一つであるニコチンは依存性が高いので、なかなかやめられないかもしれませんが、病気にかかるリスクを少しでも下げたいのであれば、禁煙することが望ましいでしょう。
妊娠中の喫煙は、妊婦にどんな影響を与えるの?

日本産科婦人科学会のガイドラインには、妊娠中の喫煙は妊娠や出産、赤ちゃんの健康に影響を及ぼす可能性があるため、「禁煙を指導する」と明記されています(※3)。
まず、母体について次のようなトラブルを引き起こすとされています。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
妊娠中の喫煙は、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床してしまう「異所性妊娠(子宮外妊娠)」を引き起こすリスクを約2倍に高めます(※3)。
異所性妊娠のうち、最も多いのは卵管妊娠です。受精卵は狭い卵管内で正常に発育することができないので、妊娠を継続できません。異所性妊娠の場合は、妊娠が起こった部位を薬や手術で取り除く必要があります。
早産・流産
タバコを吸う妊婦さんは、吸わない妊婦さんに比べて、早産リスクが27%高いという研究報告があります(※1)。また、タバコの本数が増えるほど早産率が上がることもわかっており、1日に30本以上吸うヘビースモーカーだと、約3人に1人が早産になります(※5)。
そのほか、分娩前にママの子宮から胎盤が剥がれてしまう「常位胎盤早期剥離」や、胎盤の位置が低く、子宮の出口を塞いでしまう「前置胎盤」の頻度も増え、自然流産してしまうリスクも高くなります(※3)。
妊娠中の喫煙は、胎児にどんな影響を与えるの?

妊婦さんが喫煙していると、自分自身だけでなく、お腹の赤ちゃんにとっても次のようなリスクがあります。
先天異常
妊婦さんが喫煙を続けると、一酸化炭素やニコチンなどの有害物質によって、胎児に十分な酸素と栄養が届かなくなったり、DNAの損傷や奇形が促されたりする恐れがあります。そのため、胎児の器官が正常に形成・発達せず、様々な先天異常につながります(※1)。
たとえば、口唇口蓋裂や先天性心奇形、手足の欠損、腹壁の破裂などが起こるリスクが高まることがわかっています(※1,3)。
低出生体重児
喫煙の頻度や本数が増えるほど、胎児発育不全の重症度が高くなります。一般的に、喫煙している妊婦さんから生まれた赤ちゃんの体重は、そうでない赤ちゃんよりも約200g軽く、ヘビースモーカーの場合は約450g軽くなります(※5)。
なお、妊婦さん自身がタバコを吸っていなくても、受動喫煙によっても、赤ちゃんの出生体重が35~90g軽くなることがわかっています(※3)。
近年では、医療技術の進歩により超低出生体重児の死亡率は改善されてきていますが、一般的には出生体重が少なすぎると赤ちゃんの死亡率が上がります(※5)。
妊娠中の喫煙が、出産後の赤ちゃんにも悪影響を与える?

無事に赤ちゃんを出産できたとしても、妊娠中に喫煙していることで赤ちゃんに悪影響をもたらすことがあります。その一つが「乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome:SIDS)」です。
これは、何の予兆も病気もないまま、赤ちゃんが突然死してしまう疾患で、日本では約6,000~7,000人に1人の割合で発症します。厚生労働省によると、妊娠中の喫煙は赤ちゃんの呼吸中枢に悪影響を及ぼし、乳幼児突然死症候群を引き起こすリスク要因となります(※6)。
そのほか、妊娠中に喫煙をしていると、生まれてくる子供が「ADHD(注意・欠陥多動性障害)」などの発達障害や、肥満、糖尿病などを発症する確率が高まるという報告もあります(※4,7)。
妊娠中の喫煙は厳禁!タバコの受動喫煙にも注意しましょう

妊婦さんがタバコをやめないと、妊娠中の母体リスクが高まるだけでなく、お腹の赤ちゃんの正常な発育にも悪影響を及ぼします。また、無事に生まれてきても、新生児や乳児期に亡くなってしまったり、成長後の健康が損なわれたりする恐れもあるのです。
妊娠前に喫煙の習慣があった人は、急に禁煙するのはつらいかもしれませんが、タバコをやめなかったせいで赤ちゃんに悪影響を及ぼしてしまうことになる方がもっと悲しいことです。母親になるんだという自覚を持って、禁煙しましょう。
また、自分が煙草を吸っていなくても、周囲にタバコを吸う人がいると副流煙の影響を受けてしまいます。夫など同居する家族にも禁煙してもらうか、それが難しければ近くでタバコを吸わないように配慮してもらいましょう。