妊婦は母子感染に注意!妊娠中に気をつけたい感染症とは?

監修医師 産婦人科医 藤東 淳也
藤東 淳也 日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長... 監修記事一覧へ

妊娠中は免疫力の低下やホルモンバランスの変化で感染症にかかりやすくなります。感染症は母体の健康を損なうだけではなく、「母子感染」によって赤ちゃんにうつる恐れがあるため注意が必要です。

今回は、妊娠中に気をつけたい感染症と母子感染についてご紹介します。

母子感染とは?

妊婦 お腹

ウイルスや細菌などの微生物が、母体から赤ちゃんへ移行して感染することを「母子感染」といいます(※1)。

妊娠前からウイルスや細菌等の微生物を持っている妊婦さん(キャリア)もいれば、妊娠中に感染することもあります(※2)。

母子感染の経路は感染症の種類によって異なりますが、主に以下の3つのパターンがあります。

● 胎内感染:赤ちゃんがお腹の中にいるときに感染する
● 産道感染:分娩が始まり、赤ちゃんが産道を通って出てくるときに感染する
● 母乳感染:授乳中に母乳を飲むことで感染する

胎内感染の場合、流産や早産など胎児へ影響があるものが多いため、早期の治療と予防が不可欠です。

妊婦健診で調べる母子感染に注意したい感染症とは?

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これから紹介する8つの感染症は、妊婦健診のときに感染症検査をして感染の有無を調べることができます(※1)。

早期発見・治療により、母子感染や将来的な発症を予防できるので、きちんと妊婦健診を受けましょう。

【目次:妊婦健診で調べる感染症】
1. 風疹
2. B型肝炎
3. C型肝炎
4. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
5. ヒトT細胞白血病ウイルス-1型 (HTLV-1)
6. 梅毒
7. B群溶血性レンサ球菌(GBS)感染症
8. 性器クラミジア感染症

1. 風疹

症状・赤ちゃんへの影響

風疹ウイルスに感染すると、発疹・発熱・リンパ節の腫れ・関節痛などの症状が現れます。

妊娠中にはじめて風疹ウイルスに感染し、赤ちゃんに胎内感染すると、先天性心疾患や視覚・聴覚障害などの「先天性風疹症候群」を招く恐れがあります(※1)。

予防・対策

ワクチンの予防接種によって防ぐことができますが、妊娠中はワクチンを接種できないため、妊娠を考えた段階で受けておきましょう。

同居しているパートナーや家族も一緒に予防接種を受けておくことをおすすめします。なお、風疹ワクチンの接種後、2ヶ月間は避妊が必要です。

先に風疹抗体価を検査してから、ワクチンを接種するかどうかを検討する方法もあります。しかし、すでに風疹の抗体を持っている人がワクチン接種をしても、副反応などのリスクは特にないので、できるだけ早く妊娠を希望している場合は、先にワクチン接種をしておくと良いでしょう。

風疹は飛沫感染するので、人混みの多い場所へ出かけるときはマスクを着けておくと予防につながります。

2. B型肝炎

症状・赤ちゃんへの影響

B型肝炎ウイルスは、肝臓に炎症を引き起こし働きを低下させるウイルスです。感染時期や感染したときの健康状態によって、一過性で終わるものと、ほぼ生涯にわたって感染が継続する慢性のものに分かれます。

母子感染の場合、赤ちゃんの免疫機能が未熟なため、慢性肝炎になることが多くなります。自覚症状はほぼありませんが、乳児期に重い肝炎を発症したり、将来的に肝硬変や肝がんを発症したりするリスクがあります。

予防・対策

妊娠初期に「HBs抗原検査」をいて保菌者であることが判明した場合は、さらに現在の感染状態を調べるために「HBe抗原検査」を行います(※3,4)。

B型肝炎ウイルスに感染していることがわかった場合は、生まれた直後の赤ちゃんにワクチンを接種して感染を予防します。

3. C型肝炎

症状・赤ちゃんへの影響

C型肝炎ウイルスも、肝臓に炎症を起こし、肝臓の機能を低下させるウイルスです。分娩時の血液で産道感染する可能性があります。

赤ちゃんに感染しても無症状であることがほとんどですが、将来的に肝炎や肝硬変、肝がん(肝細胞がん)を引き起こすリスクがあります(※1)。

予防・対策

C型肝炎の産道感染を防ぐために、予定帝王切開が選択されることもあります。

4. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)

症状・赤ちゃんへの影響

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とは、体を細菌やカビ、ウイルスなどから守る免疫細胞に感染し、増殖していくウイルスです。赤ちゃんに感染すると、エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)を発症してしまいます。

予防・対策

妊娠初期にHIV抗体検査を受け、感染の有無を調べます。感染している場合、HIVの増殖を抑える治療を行います(※5)。

分娩時の母体感染を防ぐため、陣痛が来る前(妊娠37週頃が目安)に予定帝王切開を行います。生まれた赤ちゃんに対しては、HIVの増殖を抑制するシロップを投与し、母乳感染を防ぐためにミルクで育てます。

5. ヒトT細胞白血病ウイルス-1型 (HTLV-1)

症状・赤ちゃんへの影響

ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)に感染することで起こる病気です。赤ちゃんに感染しても無症状であることがほとんどですが、稀にATL(白血病の一種)やHAM(神経疾患)を発症するケースもあります(※1)。

予防・対策

HTLV-1は主に母乳によって感染するため、母乳ではなくミルクを与えることで、感染率を下げることができます。

しかし、原因ははっきりしていませんが、母乳をあげていなくても約2〜3%で母子感染が起こります(※6)。

6. 梅毒

症状・赤ちゃんへの影響

梅毒は、梅毒トレポネーマによって起こる細菌感染症で、性行為によって感染します。近年、感染者が急増しているので注意が必要です。

梅毒トレポネーマは胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、神経や骨に異常をきたす先天性梅毒を引き起こす恐れがあるため、早期治療が必要です(※3)。

予防・対策

妊娠13週までであれば、胎児への感染率は低く、治療の効果が出やすいので、妊娠初期のスクリーニングで早期発見につなげることが大切です(※5)。梅毒と診断された場合、すぐにペニシリンという抗生物質で治療していきます。

赤ちゃんに母子感染していたとしても、先天性梅毒は生後数週間~数ヶ月経ってから発症するため、油断せずに検査を受けることが大切です。

7. B群溶血性レンサ球菌(GBS)

症状・赤ちゃんへの影響

B群溶血性レンサ球菌は、膣の中に普通にいる常在菌であり、全妊婦のうち1~3割から検出されます(※5)。

母体が菌を保有していたとしても、母子感染して赤ちゃんがGBS感染症を発症する確率は約1%と低いですが、まれに肺炎や敗血症、髄膜炎などを発症し、予後が悪いことがあるため、出産前に治療を行わなければなりません。

予防・対策

B群溶血性レンサ球菌は常在菌であることから、保菌者も多く、感染自体を予防することは困難です。

ただし、母子感染により赤ちゃんが重症に陥る危険性があるため、妊婦健診で感染が確認された場合は、ペニシリン系の抗生物質を分娩中に点滴投与します。陣痛がはじまったら点滴を投与し、分娩が終わるまで続けることで、赤ちゃんへの感染を予防します。

8. 性器クラミジア

症状・赤ちゃんへの影響

性器クラミジア感染症は、性行為で「クラミジア・トラコマチス」に感染することで発症する性感染症です。子宮頸管炎を起こすものの、自覚症状がほとんどないため、妊婦健診で初めて感染に気づくケースも少なくありません。

妊娠中に感染すると、流産や早産のリスクが高まることもあります。また、生まれてくる赤ちゃんが10~20%の確率で肺炎に、25~50%の確率で結膜炎にかかる恐れもあります(※5)。

予防・対策

クラミジアは淋菌などと合併して感染することが多いため、性器クラミジア感染症の診断を受けたら、他の性感染症の検査も受けることが重要です。パートナーも一緒に検査を受けるようにしましょう。

感染が確認された場合は、抗生剤を服用するなどの治療を行い、再検査で陰性を確認したうえで出産に備えることが大切です。

妊婦健診で調べる感染症以外で母子感染に気をつけるべきものは?

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妊婦健診で調べる感染症以外にも、母子感染に気をつけたいものがいくつかあります。

9. 伝染性紅斑(りんご病)

症状・赤ちゃんへの影響

ヒト・パルボウイルスB19に感染することで発症します。約1~3週間の潜伏期間を経て、頬がりんごのように真っ赤になり、体や手足に網目状の発疹が出て、発熱・咳などの症状を引き起こします。

子どもの頃に抗体が作られていないと、大人になって感染することもあります。妊娠中に感染すると、胎盤にうまく血液を送れなくなって胎児貧血を起こしたり、全身がむくむ胎児水腫を引き起こしたりする危険性があります(※5)。

予防・対策

子どもの頃に伝染性紅斑(りんご病)にかかったことがない女性は、妊娠がわかったらすぐに抗体検査を受けましょう。抗体がない場合は、マスクを着けて外出し、家に帰ったら手洗い・うがいをしっかりして感染しないように気をつけてください。

もし妊娠中に感染した場合、発熱や頭痛をやわらげる対症療法を行いながら、自然治癒を待つしかありません。感染後、数週間は超音波検査で赤ちゃんの様子もチェックしていきます。

10. リステリア症

症状・赤ちゃんへの影響

リステリア菌は食中毒を引き起こす細菌で、ナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモン、パテなど、加熱殺菌されていない食品に潜んでいる可能性があります。

リステリア菌に感染すると、発熱や筋肉痛、吐き気、下痢などの食中毒症状を引き起こします。妊娠中は抵抗力が低下しているため、重症化する恐れがあるので注意が必要です。

また、胎盤を通して胎児に感染すると、流産や早産を起こしたり、生まれてくる赤ちゃんが髄膜脳炎になることがあります(※7)。

予防・対策

リステリア菌の予防には、生の乳製品や肉、魚介類を食べることは避け、加熱した食品を食べるようにしましょう。

万が一、妊娠中に感染した場合は、早急に抗生物質を投与することで母子感染を防ぎます。

11. サイトメガロウイルス(CMV)感染症

症状・赤ちゃんへの影響

サイトメガロウイルスは、ヘルペスウイルスの仲間で、多くの人は乳幼児期に感染して抗体が作られます。しかし、妊婦の抗体保有率は70%ほどまで低下しており、妊娠中に初めて感染する女性の数が増えています(※3)。

母子感染すると、生まれたときは無症状でも、のちに難聴や発達障害などを引き起こすケースもあります。

予防・対策

感染予防のため、妊娠初期は特に衛生対策が必要です。赤ちゃんや小さな子供は友達同士でウイルスをうつし合っているので、妊娠中は子供の食べ残しを食べたり、スプーンやコップを共有したりするのを控えましょう。

12. 水痘(水ぼうそう)

症状・赤ちゃんへの影響

「水痘・帯状疱疹ウイルス」に感染することで起こります。全身に痒みを伴う赤い発疹が広がり、水疱に変わります。子どもがかかりやすい病気ですが、ごく稀に大人になってから感染する人もいます。

未感染の妊婦が水痘にかかると重症化しやすく、妊娠後期に合併症として水痘肺炎を引き起こす危険性があります。また、胎盤を通して胎児に感染し、先天性水痘症候群を発症すると、神経障害などを引き起こす恐れがあります(※8)。

予防・対策

一番の予防法は、妊娠する前に水痘ワクチンの予防接種を受けることです。生ワクチンなので、妊娠してからでは接種を受けられません。

妊娠中に感染した場合は、抗ウイルス薬のアシクロビルを投与し、重症化を防ぐことが望ましいとされています(※8)。

水痘・帯状疱疹ウイルスは潜伏期間が長いことから、知らぬ間に保菌者になっている場合があります。妊娠中は、感染の疑いがある人との接触は避けるようにしましょう。

13. 麻疹(はしか)

症状・赤ちゃんへの影響

麻疹ウイルスに感染して起こる病気で、風邪のような症状の後に発疹が出現します。子どもに多い感染症ですが、ワクチン接種歴がなかったり、持っている抗体が少なかったりすると、大人でも成人麻疹にかかることがあります。

妊娠中に感染すると、流産や早産を引き起こすリスクがあるので、予防策を講じることが重要です。

予防・対策

水痘と同じく、妊娠すると予防接種を受けられないので、妊娠前にワクチンを打ちましょう。感染を防ぐため、麻疹が流行している時期はなるべく外出を控えましょう。

14. 性器ヘルペス

症状・赤ちゃんへの影響

性器ヘルペスは、性行為などによって単純ヘルプスウイルスに感染することで起こります。陰部やお尻に発疹や水ぶくれができますが、軽症だと気づかない場合もあります。

妊娠中に性器ヘルペスにかかると、胎内感染と分娩時の産道感染が起こるリスクがあります。胎内感染すると胎児発育不全など、産道感染すると新生児ヘルペスを発症する恐れがあります(※3)。

予防・対策

性器に病変が見られる場合など、状況によっては帝王切開を行い、産道感染を防ぎます。

15. トキソプラズマ症

症状・赤ちゃんへの影響

トキソプラズマ症は、病原性原虫に感染した動物の生肉を食べたり、猫のフンや、フンに汚染された土に触れたりすることで感染する病気です。ほとんどの場合は無症状です。

妊婦さんがはじめてトキソプラズマに感染した場合のみ、胎盤を通じて赤ちゃんに感染します。約90%は目立った症状が現れませんが、約10%に「先天性トキソプラズマ症」を引き起こし、脳・神経や目、皮膚に障害が現れます(※5)。

予防・対策

妊娠中は、生肉を食べないようにしてください。ガーデニングなど土壌をいじることはできるだけ避け、もし行う場合は手袋を着けるようにしましょう。

母子感染を防ぐために予防・対策しよう

母子感染を防ぐために、妊婦健診で受けられる検査は必ず受けてください。それ以外の感染症についても理解を深め、できるかぎりの予防策をとることを心がけましょう。

ママと生まれてくる赤ちゃんの命を守るために大切なことなので、日常生活での注意点を守りながら、出産までの日々を過ごしてくださいね。

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