「妊娠中に水疱瘡(みずぼうそう)にかかるのはよくない」という話を聞いたことはありませんか?妊婦さんが水疱瘡になると、ママの体だけではなく、お腹の赤ちゃんにも危険が及ぶ可能性があるからです。そこで今回は、妊娠中の水疱瘡の危険性と予防法についてご説明します。
水疱瘡(水痘)とは?原因と症状は?
水疱瘡は、「水痘・帯状疱疹ウイルス」に感染して全身に発疹や水疱(水ぶくれ)ができる感染症です。正式には「水痘(すいとう)」といいます。
水痘・帯状疱疹ウイルスは感染力が強く、空気感染や飛沫感染、接触感染などあらゆる方法で広がります。
感染後は2週間程度の潜伏期間を経て発症し、発疹あるいは水疱が出る1〜2日前から感染力が強くなるため、知らないうちに他の人と接触して感染が拡大する可能性があります。
38℃前後の発熱とともに赤い発疹が全身に広がり、その後かゆみをともなう水疱に変わります。水疱は膿を含んで大きくなった後、3~4日すると乾いたかさぶたへと変化して1週間程度で治ります。
水疱瘡(水痘)は大人にもうつるの?
水疱瘡は、9歳以下の子供に多い感染症です(※1)。
水痘・帯状疱疹ウイルスに感染したことがあり、抗体ができていれば、二度と感染することはありません。子供のときに水疱瘡にかかっているか、予防接種を受けている人がほとんどなので、大人になってから初めてかかることはまれです。
しかし、抗体がない人は大人になってからでも感染する可能性はあり、子供よりも重症化する傾向があるので注意が必要です(※1)。
ちなみに、一度水疱瘡にかかったことがある人でも、大人になってから水ぶくれのような発疹が現れることがあります。これは「帯状疱疹」といいます。
水疱瘡が治っても、水痘・帯状疱疹ウイルスは体内に潜伏するため、なんらかの理由で免疫力が低下したときにまた活性化し、帯状疱疹が出ることがあるのです(※2)。
妊婦の水疱瘡は危険なの?
「妊娠中にはじめて水疱瘡にかかると危険」といわれるのは、症状が重症化しやすいだけではなく、お腹の赤ちゃんにも感染し、様々な障害を引き起こしたり、流産になってしまったりすることもあるからです(※2,3)。
ただし、妊娠中にはじめてウイルスに感染したわけではなく、2度目以降で帯状疱疹が現れただけであれば、赤ちゃんに感染する恐れはほとんどないといわれています(※2,3)。
妊婦の水疱瘡(水痘)が胎児に与える影響は?妊娠初期・妊娠後期で違う?
では、妊娠中に水疱瘡にかかると、お腹の赤ちゃんにはどのような影響があるのでしょうか?
水疱瘡に感染した妊娠週数によって、胎児への影響も次のように変わってきます(※2,3)。
妊娠初期〜中期
妊娠初期から中期に水疱瘡にかかった場合、まれですが、胎盤を通じて胎児に感染し、「先天性水痘症候群」を発症することがあります。
先天性水痘症候群の発症率は1〜2%とされ、特に妊娠13〜20週の妊婦さんが水疱瘡にかかると起こりやすいので注意が必要です(※4)。
先天性水痘症候群の症状にはいくつか種類があり、赤ちゃんの皮膚に傷あとや目の異常が見られたり、手足が短く生まれてきたり、精神発達の遅れなどが現れたりします。
分娩前後(周産期)
周産期に水疱瘡を発症した場合、赤ちゃんが産道を通るときに感染することがあり、生まれたあとに「新生児水痘」を発症することがあります。
特に分娩前5日~分娩後2日までの時期にママが水疱瘡にかかると、新生児水痘の発症率が最も高くなります。感染した赤ちゃんのうち30〜40%が生後5〜10日に新生児水痘を発症し、死亡率は30%に及びます。
なお、出産予定日近くでママが水疱瘡を発症した場合、母体から赤ちゃんに抗体が移行するのを待つために、子宮収縮抑制剤を投与して出産を遅らせることがあります(※5)。
周産期に水痘を発症したママから生まれた赤ちゃんは、生まれたあとすぐに治療が必要になります。
妊娠中の水疱瘡の治療法は?
妊娠中に水疱瘡にかかったら、まずかかりつけの産婦人科に電話で連絡を入れてから受診しましょう。場合によっては皮膚科を紹介されることもあります。
症状が軽度であれば、発疹のかゆみがひどいときに塗る軟膏だけを処方されます。発疹が目の結膜にまで広がることがあるので、目のかゆみや痛みもあるときは、眼科を受診することをおすすめします。
ただし、妊娠中にはじめて水疱瘡に感染すると重症化することもあるので、「アシクロビル」などの抗ウイルス薬を投与される場合があります。日本産科婦人科学会の産科ガイドラインによると、アシクロビルで赤ちゃんの奇形が増えることはないとされています(※5)。
また、分娩が5日以内に起こる可能性が高いか、分娩が終わって2日以内の妊婦さんが水疱瘡を発症した場合は、母子ともに重症化する恐れがあるため、母体には「アシクロビル」、生まれてきた赤ちゃんには「免疫グロブリン」や「アシクロビル」を投与します(※5)。
妊婦は水疱瘡の予防接種を受けられる?
妊娠を望んだ時点で、過去に水疱瘡にかかったかどうか確認できない場合には、抗体検査を受けることをおすすめします。検査の結果、抗体がなければ妊娠する前に予防接種を受けましょう。
ワクチン接種前の約1ヶ月間と、接種後の約2ヶ月間は避妊してください(※4)。
ただし、水疱瘡の予防接種は生ワクチンなので、妊娠中は受けられません。抗体がないことが妊娠後に判明した場合には、水疱瘡に感染した疑いのある子供などとの接触を避けるなど、感染しないように気をつけてくださいね。
また、家族にも抗体検査を受けてもらって、必要があれば予防接種を受けてもらいましょう。ひとつ屋根の下で暮らす家族同士では感染率が高くなるので、周囲の人にも協力してもらうことが大切ですよ。
妊婦は水疱瘡の抗体検査を受けましょう
日本では子供の頃に水疱瘡の予防接種を受ける人が大半なので、妊娠中に初めて水疱瘡に感染するケースは多くありません。しかし、自分が抗体を持っているかどうかわからない場合は、親に聞いたり、内科で抗体検査を受けたりすることをおすすめします。
もし抗体がなかった場合、妊活中の人は避妊したうえで予防接種を受けましょう。すでに妊娠中の人は、水疱瘡にかからないよう人混みではマスクをして、手洗いうがいを徹底してくださいね。