新生児仮死とは?後遺症は残る?成長への影響は?

監修医師 産婦人科医 永瀬 絵里
永瀬 絵里 産婦人科専門医。2001年、東海大学医学部卒業。神奈川県内の病院で産婦人科医としての経験を積み、現在は厚木市の塩塚産婦人科勤務。3児の母。「なんでも気軽に相談できる地元の医師」を目指して日々診療を行っ... 監修記事一覧へ

分娩は、ママにとっても赤ちゃんにとっても命がけのイベントです。ママの子宮の中で育った胎児が、狭い産道を進んで外へ出て肺呼吸を始める劇的な瞬間。ただ、その道のりの間に予想外のトラブルが起こることもあります。「新生児仮死」もその一つで、赤ちゃんが生まれたあとの成長に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。今回は、新生児仮死の原因や症状、対処法のほか、予後や後遺症についてご説明します。

新生児仮死とは?

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新生児仮死とは、生まれたばかりの赤ちゃんが呼吸、循環、中枢神経系の不全状態に陥ることをいいます。低酸素による臓器障害へと進展することを防ぐため、すみやかに蘇生処置を行う必要があります。

生まれる前の胎児は、へその緒を通してママから栄養や酸素をもらったり、二酸化炭素や老廃物を戻して処理してもらったりしています。分娩時には、それまでへその緒を通じて行われていた呼吸が、赤ちゃん自身の肺による自発的な呼吸へと切り替わります。

通常なら、産後すぐに赤ちゃんの肺に空気が入り、自発呼吸が始まって大きな産声を上げるのですが、最初の呼吸が上手くいかなかったり、循環不全で酸素が体を巡らなかったりすると、低酸素状態に陥ってしまうのです。

新生児仮死の原因は?

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新生児仮死の原因はいくつか考えられますが、約90%のケースで分娩前に「胎児機能不全」が見られます(※1)。胎児機能不全とは、妊娠中などに「胎児が正常であると確信できない状態」という広い定義です。

そのほか、分娩前の段階で、胎盤機能不全、胎児発育不全、常位胎盤早期剥離、前置胎盤、母体ショックなどが起こり、新生児仮死に陥ってしまうこともあります。そのため、妊娠中から母子の健康状態をしっかりと把握しておくことが肝心です。

分娩時に起こるトラブルでは、子宮内での胎児の位置に異常がある「胎位異常」や、破水時にへその緒が赤ちゃんより先に腟の外に出てしまい、血行が止まってしまう「臍帯脱出」などが新生児仮死の原因として挙げられます。

また、新生児仮死の状態で生まれた赤ちゃんには、肺の拡張障害や、先天性の心疾患が見つかることもあります。

新生児仮死の症状は?仮死状態をどう判断するの?

チェック ポイント

新生児仮死の赤ちゃんは、生まれてしばらく経っても産声を上げず、手足もぐったりで反応がないといった特徴があります。

生まれた直後の新生児の呼吸、循環、中枢神経系の状態を評価する方法として、「アプガースコア」といわれる5つの観察項目と採点基準があります。これは60年以上前にアメリカで発案されたもので、現在でも一般的に用いられています。

生後1分と5分の2回ずつ、それぞれ10点満点で評価します。7点以上であれば正常、4~6点で軽症の新生児仮死、0~3点だと重症の新生児仮死と判断されます(※1)。

アプガースコアの観察項目と点数

皮膚の色

0点:全身がチアノーゼ、蒼白
1点:体幹はピンクで手足がチアノーゼ
2点:全身ピンク

心拍数

0点:なし
1点:毎分100回未満
2点:毎分100回以上

刺激に対する反応(鼻へのカテーテル挿入時)

0点:反応なし
1点:顔をしかめる
2点:泣く、咳・くしゃみをする

手足の筋肉の動き

0点:だらんとしている
1点:少し曲げる
2点:活発に動かす

呼吸

0点:なし
1点:不規則な呼吸、弱い泣き声
2点:強く泣く

新生児仮死の対処法は?

NICU 新生児

上でご説明したアプガースコアは、新生児仮死の状態を客観的に判断するには適しています。

しかし実際は、生まれた直後に「早産児である」「呼吸や泣き声が弱い」「筋肉の緊張が低下している」という3項目のうちいずれかに当てはまる場合は、生後1分のアプガースコアをつけるより先に蘇生処置が行われるべきとされています(※2)。

初期の蘇生処置として、赤ちゃんの体温が下がらないように皮膚刺激や保温を行い、吸引したり、チューブを口の中に入れたりして気道確保を行います。低酸素状態に陥ると、低酸素性虚血性脳症や心不全、腎不全などの合併症を引き起こすリスクがあるので、迅速な対処が必要になります。

また、呼吸と心拍の状態によっては、人工呼吸や胸骨圧迫を実施したり、アドレナリンなどの薬物投与を行ったりします。

新生児仮死と判断され、人工呼吸以上の処置が行われた赤ちゃんは、回復したあともしばらくは、NICU(新生児集中治療室)で全身管理をする必要があります。

新生児仮死の予後は?後遺症は出る?

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新生児仮死によって真っ先に影響を受けるのは、赤ちゃんの脳です。脳細胞は酸素不足が続くと壊死し、二度と本来の姿に戻ることはありません。

新生児仮死の状態が長引き、酸素が足りない時間が長くなるほど、赤ちゃんの脳細胞の壊死が進み、予後に後遺症が現れる可能性が高くなります。脳のどこが壊死したかで現れる障害も異なり、知能障害や運動障害など様々です。

新生児仮死の後遺症の一つである脳性麻痺を発症する確率は、アプガースコアが3点以下の時間が5分未満であれば1%ですが、10分だと5%、15分では9%、20分続くと57%と高くなっていきます(※2)。

新生児仮死は早期の処置が大切

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たとえ新生児仮死状態で生まれてきた赤ちゃんでも、適切な対処や治療が行われれば、後遺症も残らず健康に成長できます。分娩前から過度に心配しすぎず、リラックスして出産までの日々を過ごしてくださいね。

ただし、新生児仮死の原因になりうるトラブルをできるだけ予防することも大切です。たとえば、妊娠高血圧症候群になると、常位胎盤早期剥離や胎児発育不全などを引き起こすリスクが高まってしまいます(※1)。

妊娠高血圧症候群の原因はまだはっきりしていない部分もありますが、危険因子として肥満が挙げられます。新生児仮死を起こさないためにも、妊娠中に体重が増えすぎないよう注意しましょう。

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