生まれたばかりの赤ちゃんが、先天性疾患の一つである「高アンモニア血症」と診断されることがあります。高アンモニア血症を発症するのは稀ですが、赤ちゃんの命にかかわる病気です。今回は、高アンモニア血症について、原因や症状、治療法などをご説明します。
高アンモニア血症とは?
高アンモニア血症とは、アンモニアを体内でうまく分解できず、血液中に蓄積されてしまう病気です。
アンモニアは人体にとって有害な物質なので、血中濃度が高まると意識障害などを引き起こす危険性があります。高アンモニア血症は、生まれたばかりの赤ちゃんに限らず、大人でも発症します。
高アンモニア血症の原因は?
体内では日々たくさんのものが消化・吸収され、有害なものが排出されています。その代表がアンモニア。たんぱく質がアミノ酸へ分解される過程でアンモニアは発生しますが、「尿素サイクル」と呼ばれる様々な酵素の働きによって、有毒なアンモニアが無害な尿素へと変換されているのです。
ところが、先天的に尿素サイクルの酵素の一部が欠けてしまうなどの異常があると、生まれてきた赤ちゃんはアンモニアを無害化することができないために、生後数日後に高アンモニア血症を発症することがあります。
尿素サイクル異常を持っている場合、感染症、カロリー摂取不足、タンパク摂取不足・過剰摂取、化学療法、薬物などの誘因によって高アンモニア血症をきたすことがあります(※1)。
高アンモニア血症は検査で発見できるの?
高アンモニア血症を引き起こす尿素サイクル異常は、検査によって生後すぐに診断される場合があります。
具体的には、生後5日前後の赤ちゃんが受ける新生児マススクリーニング検査で、尿素サイクル異常症のうち「シトルリン血症Ⅰ型」と「アルギニノコハク酸尿症」を発見できることがあります(※3)。
新生児マススクリーニング検査で疑いがあるとされた場合、血中アンモニアや血糖の値を調べる検査、遺伝子解析などの特異的検査により、確定診断を行うことになります。
高アンモニア血症の症状は?
高アンモニア血症を発症した場合、現れる症状は軽度なものから重度なものまで様々です。
生まれて間もない赤ちゃんに現れる症状としては、顔色が悪くなる、頻繁に嘔吐する、母乳・ミルクが飲めない、呼吸が速い、痙攣する、意識障害を起こす、といったものがあります。
また、乳児期以降に遅れて発症する場合もあり、熱が出たときやウイルスなどに感染したときに、異常行動や痙攣、発熱、嘔吐、または運動・精神発達障害などがみられるケースも。
これらの症状が現れた場合は、すぐに赤ちゃんを小児科へ連れて行きましょう。
高アンモニア血症の治療法は?
急性期の治療では、薬物治療によって血中アンモニア値を低下させます。ブドウ糖の点滴やたんぱく質の合成に必須とされるアミノ酸(アルギニンやシトルリンなど)の補充を行い、尿素変換によるアンモニアの分解を助けます。
すみやかにアンモニアを除去する必要があるので、アンモニアを体外に排泄させる作用がある安息香酸ナトリウムなどの薬も投与されます。通常であれば、投薬後、数時間でアンモニアが低下しますが、それでも症状が改善されなければ血液透析などにより人工的にアンモニアを除去します。
症状が落ち着いた後は、アンモニアが体内で発生するのを抑えるために、たんぱく質の量を制限した食事療法を行います。乳児期であれば、「たんぱく除去ミルク」という治療用の特殊なミルクを用いて調整しながら、必須アミノ酸製剤や通常のミルクなどの摂取量を徐々に増やしていきます。
食事療法によるたんぱく質制限が厳しすぎると、発育障害や皮膚炎によるおむつかぶれ、髪の毛の脱色などが見られることもあるので、医師の指示のもとで適切に治療していく必要があります(※2)。
高アンモニア血症は予防できる?
赤ちゃんの高アンモニア血症は先天的なものが原因なので、残念ながら予防できる病気ではありません。それだけに、できるだけ早期に発見して治療をすることと、日常生活で気をつけることでの対処をすることが大切です。
万が一、赤ちゃんが先天的に尿素サイクル異常を持っている場合、感染症にかかることで高アンモニア血症を引き起こす恐れがあります。しかし、インフルエンザなどの予防接種を受けることで重症化を防げる可能性もあるので、ワクチンを打つかどうかについて、担当医に相談してみましょう。
高アンモニア血症は早期治療がカギ
高アンモニア血症は、主に先天的な代謝異常が原因で起こるため、予防が難しい病気です。しかし、近年では医療技術の発達により、すみやかな治療を受けた場合の予後が良くなってきています(※1)。
高アンモニア血症の発症率はそれほど高くないとはいえ、赤ちゃんがミルクを飲まない、呼吸が速い、痙攣しているといった症状が見られるときは、すみやかに小児科を受診してください。