すべての赤ちゃんが、健康上の問題なく生まれてくるとは限りません。なかには「先天性代謝異常」をもって生まれてくる子もいます。これは体の代謝に関わる酵素やホルモンが、生まれながらにして不足していることが原因で起こる病気です。それでは、先天性代謝異常とどのように向き合っていけば良いのでしょうか?今回は先天性代謝異の原因や症状、治療法などをご紹介します。
先天性代謝異常とは?
人間の体はさまざまなしくみが、複雑に絡み合って形成されています。そのひとつに「代謝」と呼ばれる働きがあります。
代謝とは、食べたものを消化して酵素と呼ばれる成分で分解・合成し、体内で活用しやすい栄養素やエネルギー源へと変換するしくみのことです。体に必要な成分を作り出したり、体には不要な有害物質を排泄したりする役割を果たします。
しかし、遺伝的原因により酵素が正常に作られていない場合、代謝がうまく機能せず、肝臓や脳に異常物質が蓄積されて先天性代謝異常を発症する可能性があります。
先天性代謝異常は正常に作られていない酵素の種類によって、分類されます。代表的なものとしては、アミノ酸の代謝に関わる酵素が正常に作られない「アミノ酸代謝異常」、糖質代謝に関わる酵素が正常に作られない「糖質代謝異常」があります。
先天性代謝異常の原因や症状は?
先天性代謝異常は生まれつき起こる病気で、遺伝子レベルで発症するかが決まっています。
先天性代謝異常により、特定の物質が体内で過剰に蓄積したり、不足したりすると、体の機能に障害が起こります。先天性代謝異常で現れる症状についても、欠損している酵素の種類によって異なります。
アミノ酸代謝異常の場合は吐き気や嘔吐による哺乳低下、色素欠乏など、糖質代謝異常の場合は嘔吐や下痢、黄疸などの症状が現れます(※1)。無治療の場合、肝臓や脳の中枢神経が障害を受け、精神運動発達障害やけいれんを引き起こします。
先天性代謝異常の検査方法は?
ほぼ100%の赤ちゃんは、生まれたときに「新生児マススクリーニング検査」を受けています。これは新生児に先天的な異常がないかを調べるために行われる検査で、先天性代謝異常を発見することができます。検査自体の費用は公費負担ですが、採血費や郵送費などが自己負担になる場合があります。
新生児マススクリーニング検査では、生後5〜7日頃に赤ちゃんのかかとから血を少し採取します。そして、血液中に含まれる成分を分析し、酵素が正常に機能しているかどうかを判断します。現在では、タンデムマススクリーニング検査という方法により、約22種の代謝異常が検査可能です。
新生児マススクリーニング検査の結果は、1~2週間ほどで分かります。先天性代謝異常が疑われる結果が出ると、精密検査を受けることになります。
先天性代謝異常の治療法は?
遺伝子治療や細胞治療などの研究が進められていますが、先天性代謝異常を根本的に治す方法はまだ見つかっていません。
しかし、先天性代謝異常は早期に治療を行うことにより、知能障害や発達障害を予防することができます。新生児期に異常を発見して、適切な治療を続ければ、健康的な生活を送ることができるともいわれています(※2,3)。
先天性代謝異常の一般的な治療法としては、特定の物質の摂取を制限したり、空腹時間が長くなりすぎないようにしたりする食事療法があります。食事療法では、先天性代謝異常の赤ちゃん向けに成分を調整した治療用ミルクが使われることも(※4)。
この他にも、足りない酵素や失われた酵素を投与して補充する酵素補充療法があります。それぞれの症状に合った治療法を医師から提示されるため、よく相談してください。
早期治療で先天性代謝異常から赤ちゃんを守る
先天性代謝異常を持っていると、食事内容や空腹時間を管理しないといけないなど、さまざまなことに気を遣う必要があります。
しかし、早期治療をすれば、発症を予防したり、発生する障害を軽減させたりすることができます(※5)。赤ちゃんの健康のためにも、生後の新生児マススクリーニング検査はきちんと受け、もし先天性代謝異常と診断されたら、根気強く治療に向き合っていきましょう。