「臍帯脱出」「臍帯下垂」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。どちらもへその緒にまつわるトラブルで、赤ちゃんがお腹にいるときや分娩中に起きるものです。そこで今回は、臍帯脱出や臍帯下垂とはどのようなものなのか、原因やリスク、そして治療法はあるのかなどについてご説明します。
臍帯脱出・臍帯下垂とは?
臍帯脱出や臍帯下垂はへその緒に関する異常のことです。
臍帯脱出とは?
通常の分娩では、破水後に赤ちゃんが子宮口から出て、その後へその緒が出てきます。しかし、なかには赤ちゃんよりも先にへその緒が子宮口から出てくることがあり、これを臍帯脱出といいます。
臍帯脱出は全分娩の0.5〜0.8%で起こります(※1)。
臍帯下垂とは?
臍帯下垂とは、破水が起きる前の子宮内で、赤ちゃんよりもへその緒が子宮口側にある状態のことを指します。臍帯下垂の多くは、破水後に臍帯脱出となります。
なお、臍帯下垂は全分娩の0.5〜1%で起こります(※1)。
臍帯脱出・臍帯下垂の原因は?
臍帯脱出や臍帯下垂が起きる原因はいくつかあります。以下はその一例です。
● 赤ちゃんが子宮内で特定の方向を向いている
● ママの骨盤が狭い
● 赤ちゃんの頭が小さい
● へその緒が長い
● 前期破水
● 双子などの多胎妊娠
これらのなかでも、赤ちゃんの子宮内での向きの影響は大きく、特に赤ちゃんが以下の向きを取っていると臍帯脱出や臍帯下垂が起きやすくなります(※1)。
横位
通常、子宮内にいるときの赤ちゃんは頭を下に、お尻を上に向けていますが、ごく稀に頭とお尻を真横に向けているときがあります。これを横位といい、臍帯脱出や臍帯下垂の原因として最も多くみられます(※1)。
骨盤位
いわゆる「逆子」と呼ばれるもので、赤ちゃんが頭を上に、お尻を下に向けている状態のことです。
妊娠中期までは30〜50%の赤ちゃんが骨盤位ですが、大半は分娩までに自然に治ります。ただし、およそ5%の赤ちゃんは分娩のときも骨盤位を取っており、横位に次いで多い臍帯脱出・臍帯下垂の原因となります(※1)。
臍帯脱出・臍帯下垂のリスクは?
臍帯下垂は、へその緒が子宮内にとどまっているので特に危険はありません。しかし臍帯脱出の場合は、赤ちゃんに酸素を届けていたへその緒が赤ちゃんと子宮の壁の間に挟まれて圧迫されてしまうため、十分な酸素を届けられず、赤ちゃんは酸素不足に陥ってしまいます。
数分以内に臍帯脱出を解消しなければ赤ちゃんの酸素不足が進み、生まれた後に胎児機能不全と呼ばれる様々な異常がみられるほか、最悪の場合は亡くなってしまう可能性もあります(※1)。
臍帯脱出・臍帯下垂は障害が残る?
臍帯下垂の時点では、生まれた赤ちゃんに影響が残ることはありません。
しかし、臍帯脱出がきっかけで赤ちゃんが酸素不足になり、それが長引いて重症化すると、生まれた赤ちゃんに脳性麻痺や臓器障害が残る可能性があります(※1)。
臍帯脱出・臍帯下垂の診断方法は?
臍帯下垂の場合、超音波検査をすると、赤ちゃんの子宮口側先端と子宮口との間にへその緒が映し出されます。また、破水前の子宮口が広がった段階で、卵膜越しにへその緒が見えたり、触ったりすることができます。
一方、臍帯脱出は、破水後にへその緒が赤ちゃんよりも先に腟やその外に出てくるのでわかります。また、分娩時には赤ちゃんの心拍数を測るのですが、そのときに臍帯脱出が起きると突然、心拍数が落ちるため、それをもって臍帯脱出と診断することもあります(※1)。
臍帯脱出・臍帯下垂の治療法は?
臍帯脱出と臍帯下垂では治療法が異なります。
臍帯脱出の場合
臍帯脱出の場合は、赤ちゃんが胎児機能不全を起こしてしまう危険性があるため、緊急帝王切開を行ってすみやかに分娩を完了させます(※1)。
臍帯下垂の場合
臍帯下垂の場合は、分娩が始まる前であれば自然に治るのを待ちます。特に赤ちゃんの頭が骨盤の方を向いている場合は、陣痛に伴い自然に治ることがあります。
分娩中に臍帯下垂になった場合も、自然に治りやすい姿勢を取ります。
例えば「胸膝位」です。うつ伏せの状態から膝を床についてお尻を持ち上げ、頭が骨盤より低くなるような姿勢を取ります。
あるいは「骨盤高位」といって、仰向けの状態で骨盤の下にクッションなどを敷いて高くし、横から見たときに体が「へ」の字になるような姿勢を取ります。
これらの方法でも臍帯下垂が治らない場合は、帝王切開で分娩を行います(※2)。
臍帯脱出・臍帯下垂以外の臍帯の異常は?
臍帯脱出や臍帯下垂以外にも、へその緒の異常はあります。そこで、その一例を以下でご紹介します(※1)。
臍帯巻絡
へその緒が赤ちゃんの一部に絡まった状態を臍帯巻絡といい、その多くは首に絡まっています。全分娩の20〜25%でみられますが、臍帯巻絡が起きていても赤ちゃんの多くは無症状です。ただし、稀にへその緒が圧迫されて胎児機能不全が起こることがあります。
過長・過短臍帯
正常なへその緒の長さはおよそ50cmですが、なかにはこれよりも長い、あるいは短いへその緒の赤ちゃんもいます。特に70cm以上を過長臍帯、25cm以下を過短臍帯と呼びます。どちらも赤ちゃんが胎児機能不全などの障害を起こす可能性があります。
臍帯脱出・臍帯下垂でも悲観しすぎないで
臍帯下垂は定期健診などでわかることがありますが、臍帯脱出は分娩が始まらないと起きるかどうかがわかりません。
ただし、臍帯脱出も臍帯下垂も起きる確率はかなり稀です。また、臍帯下垂は分娩までに自然に治ることがあります。仮に臍帯脱出になってしまっても、赤ちゃんが無事に生まれてくるための対処法がちゃんとあります。
そのため、臍帯下垂と診断された、または臍帯脱出が起こったとしても、医師の指示にきちんと従えば、悲観しすぎる必要はありません。
問題なく出産を迎えられるように、定期的に病院で検診を受けて、お腹の赤ちゃんの状態を確認しておきたいですね。