初産婦さんでも経産婦さんでも、出産には思いもよらないことが起こるもの。陣痛前に破水する「前期破水」もその一つです。突然のことでどうしたらよいかわからずパニックに陥ってしまう人もいます。きちんとした知識を持っていれば慌てずに対処することができますよ。今回は前期破水とはどういうものか、原因や症状、見分け方、陣痛や出産に与える影響についてもご説明します。
前期破水とは?早期破水とは違う?
前期破水とは、本陣痛が始まる前に赤ちゃんを包んでいる卵膜の一部が破けて、中の羊水が流れ出てくることをいいます。本陣痛が始まって子宮口が全開大になってから起こる破水(適時破水)とは区別されます。
分娩の準備が整う前に起きた破水なので、妊娠週数に応じて適切な対処が必要です。放っておくと子宮内が細菌感染を起こす危険性があります。
ちなみに、前期破水と通常の破水の中間に「早期破水」があります。これは本陣痛が始まってはいますが、子宮口が開き切る前に起きた破水です。広い意味では前期破水に含まれることもありますが、出産につながる可能性は高いので前期破水とは区別されます。
前期破水が起こる確率は?
前期破水は全分娩の5〜10%に見られます。そのうち、早産にあたる妊娠37週目以前に起こる前期破水は20〜30%で、正期産に入ってから起きる確率は70〜80%です(※1)。
妊娠37週を過ぎてから起きた前期破水であれば、赤ちゃんは十分に成長できているので対処はしやすいといえます。しかし、妊娠37週以前の場合は早産となって、赤ちゃんが合併症を起こす可能性も。特に34週以前での前期破水では合併症が生じやすくなるので注意が必要です。
前期破水の原因は?
前期破水が起こる原因として次のようなものが考えられます。
子宮内の感染症
前期破水の原因として最も多いのが、「絨毛膜羊膜炎」です。赤ちゃんは子宮内で脱落膜・絨毛膜・羊膜という3つの膜に包まれており、このうちの絨毛膜と羊膜が感染症で炎症を起こします。感染症によって卵膜が弱くなって卵膜が破れやすくなります。
子宮内の圧力が高まる
羊水が増える病気である「羊水過多症」や、妊娠中期以降に子宮に大きな負荷がかかる「多胎妊娠」、あるいは赤ちゃんの姿勢が悪い「胎位異常」などは子宮内の圧力を高めます。子宮内圧が上がると卵膜は破れやすくなって前期破水につながります。
子宮頸管が弱い
子宮頸管無力症や頸管円錐切除術の経験があると、子宮頸管部分が弱くなります。このために卵膜を支えられなくなって破れやすくなる場合があります。
子宮への過度な刺激
妊娠中期以降に激しい性交渉を行うと、その刺激で卵膜が圧迫されて破れ、前期破水を起こす可能性があります。
その他、妊娠時に前期破水を起こしたことがある、喫煙をしているなども原因になると考えられています。ちなみに、妊娠37週以降、つまり正期産に入ってからの前期破水は特に原因がなく起きることもあります。該当するものがないと思っても、破水には気をつけておきましょう。
前期破水の症状は?見分けるには?
破水が起こると羊水が流れ出ますが、どれくらい破れたかで自覚症状は異なります。わかりやすいものとしては、卵膜が破れた衝撃を感じることがあります。「パンという音がした」といわれるくらい勢いがあり、その後羊水が大量に流れ出てきます。
一方、卵膜の破れ方が小さいと、羊水はじんわり少量だけ流れ出てくるので、尿漏れやおりものと勘違いすることもあります。ただし、破水の場合は自分の意志で止めることができないので、いつもの尿漏れやおりものと違うと思ったら破水を疑いましょう。
前期破水は症状だけで見分けるのが難しいこともあるので、疑われる症状が見られたときは早めに病院を受診しましょう。
前期破水が起きたら陣痛前でも出産できる?治療法はある?
前期破水のような症状が見られたら、自己判断せずに病院で確認してもらいましょう。前期破水を起こしていた場合には、子宮内に細菌が侵入しやすくなり、赤ちゃんも妊婦さんも感染症のリスクが高まります。一度破水すると元通りに戻す治療法はないため、妊娠週数に合わせて適切な対処が必要になります。
前期破水を起こしたのが正期産から遠ければ遠いほど対処が難しくなり、母体と胎児の安全を考慮しながら慎重に管理が行われます。
妊娠34週未満の対処法
妊娠34週未満では赤ちゃんの肺が未成熟なので、胎外で生活するのが難しくなります。薬で子宮収縮を抑え、抗菌薬を投与して感染症を防ぎ、できるだけ妊娠期間を延長させます。慎重に体調を管理しながら、できる限り赤ちゃんがお腹の中で成長できる期間を長くします。
しかし、感染症の恐れがある場合には未熟な状態でも分娩をせざるを得ないこともあります。その場合は出産後に新生児集中治療室(NICU)や未熟児室(GCU)で成長をサポートしていきます。
妊娠34~36週の対処法
妊娠34〜36週の間であれば入院して安静に過ごし、可能な限り妊娠期間を延長させます。ただし、赤ちゃんは肺が成熟していて胎外で生活ができるようになっているので、すぐに分娩の処置を取ることもできます。
妊娠37週以降の対処法
妊娠37週以降の正期産に入ってから起きた前期破水であれば、一般的にはそのまま分娩の処置がとられます。陣痛促進剤などを使って陣痛を促しますが、陣痛がこない場合には帝王切開が行われることもあります。
前期破水を予防するには?
前期破水の一番の原因は絨毛膜羊膜炎です。そのため、感染症にかからないようにすることが予防になります。妊娠中はおりものが増えるので外陰部は常に清潔に保ちましょう。
また、子宮に負担がかかる行為をしないことも大切です。重い物を持つことや腰をねじって物を取ることはなるべく避け、疲れやお腹の張りを感じたら休むように習慣づけてくださいね。
万が一の前期破水に備えた心構えを
前期破水が起きた場合、週数に応じて必要な処置が取られます。週数によっては赤ちゃんの成長を促すために1日でも分娩を遅らせる必要も出てくることを覚えておいてください。
今まで大きなトラブルがなかったとしても、妊娠が進む過程で前期破水が起こる可能性もあります。自分は大丈夫と思い込まず、万が一のときにどう対処すればいいかを覚えておくことが大切です。
日頃からおりものの状態に気をつけながら、破水のような症状があれば、すぐに病院を受診してください。何が起きてもいいように、早めに入院の準備をしておくと安心ですね。