妊娠中に何らかの病気やトラブルに見舞われ、外科手術が必要となった場合、体にメスを入れることや麻酔をかけることによる胎児への影響が気になりますよね。特にお腹の手術を受ける場合、「赤ちゃんは大丈夫かな?」と心配になるのではないでしょうか。今回は、妊娠中に手術が必要になる病気と、治療方法、胎児への影響などについてご説明します。
妊娠中に手術が必要になることもあるの?
妊娠中でも、何らかの病気が見つかり、治療が遅れることで母体と胎児に危険が及ぶ、と判断された場合、外科手術が行われることがあります。例えば、下記のような病気がみつかると、外科手術が行われることが多いようです。
● 虫垂炎(盲腸)
● 卵巣腫瘍
● 胆嚢疾患(胆嚢炎、胆石症など)
● 腸閉塞
また、流産や早産につながる妊婦さんならではのトラブルがあった場合にも、産科手術をして妊娠を継続させたり、帝王切開の手術を行って緊急分娩をしたりすることもあります。
妊娠中に外科手術が必要な病気とは?
ここからは、先にご説明した、妊娠中であっても外科手術が行われることが多い病気について、詳しくご説明します。
虫垂炎(盲腸)
通常、虫垂炎になると、右の下腹部に圧迫されるような痛みを感じます。
しかし妊婦さんの場合は、お腹が大きくなるにつれて虫垂の位置が上がっていく、痛みが軽いことが多い、虫垂炎の症状である吐き気や便秘、白血球値の上昇などが正常な妊娠でもよく見られる、などの理由で、虫垂炎だとすぐには判別できないことがよくあります(※1)。
診断が遅れて重症化すると、流産や早産につながったり、虫垂が破裂して母体と胎児の命に危険が及んだりするリスクが高くなるため、注意が必要です(※1)。
基本的に、虫垂炎が疑われた時点ですぐに手術をする必要があります(※1)。
卵巣腫瘍
妊娠中、0.5%の頻度で卵巣腫瘍ができることがあります(※1)。
卵巣に腫瘍が見つかった場合、エコー検査やMRIで悪性かどうかを診断し、腫瘍の大きさや種類によって治療方針が決められます。悪性の確率は、5%未満です(※1)。
良性の腫瘍で、目安としてサイズが6cm以下の場合、腫瘍の根元から卵巣がねじれる「茎捻転」を起こしたり、悪性腫瘍であったりする可能性は低いので、手術をせずに経過観察となることがほとんどです(※1)。
ただし、妊娠が進むにつれて腫瘍が大きくなったり、悪性に変わったりする場合もあるため、経過観察中も十分に注意が必要です。
良性の腫瘍だとしても、目安として6cm以上の大きさがある場合、茎捻転や腫瘍が破裂したり、本当は悪性腫瘍であったりする可能性もあるため、原則として妊娠12週以降に卵巣腫瘍の摘出手術を行います(※1)。
ただし、ひとくちに卵巣腫瘍と言っても病的ではないものもあるので、手術を行うかどうかは卵巣腫瘍の種類によって判断されます。
卵巣腫瘍が悪性の可能性が高い場合や、茎捻転や腫瘍破裂が起こった場合は、流産・早産につながる恐れがあるため、妊娠週数に関係なくすぐ手術を行うことになります(※1)。
胆嚢疾患(胆石症、胆嚢炎など)
もともと女性は、男性の2~3倍の頻度で胆石症になりますが、妊娠中は胆嚢が胆汁を排出する機能が下がるため、特に結石ができやすく、約1,000人に1人の妊婦さんが胆嚢炎を発症します(※2)。
胆石症や胆嚢炎を起こしている場合、お腹の右上あたり、右肩から右肩甲骨、左右の肩甲骨のあいだに痛みを感じ、吐き気や嘔吐、発熱、白血球値の上昇などが見られます(※2)。
エコー検査の結果、胆石症や胆嚢炎と診断された場合、まずは鎮痛剤や抗菌薬を点滴で投与します。それでも症状が良くならない場合は、胆嚢を摘出する手術を検討します。
腸閉塞
腸閉塞とは、その名のとおり腸がふさがってしまい、腸で消化されたものなどが肛門の方へ通り抜けられない病気です。
過去にお腹の手術を受けたことがあったり、腸捻転などを起こしたことがあったりすると、腸閉塞になることがあり、頻度はすべての妊婦さんのうち2,500~3,500人に1人の割合です(※2)。
症状として、ガスや便が腸内に溜まり、腹痛やお腹の張り、嘔吐などが現れます。腸内の血流が悪くなることで、血液検査をすると白血球数の上昇などが見られることも多くあります(※2)。
腸閉塞の治療はまず、絶食し、点滴で栄養や腸の動きを促す薬を注入します。それでも症状が改善しない場合は、手術することもあります。
妊娠中の外科手術による胎児への影響は?
前述の病気が妊娠中に見つかり、外科手術をすることになると、どの手術箇所もお腹に近いということもあり、赤ちゃんへの影響が気になりますよね。
参考として、イギリスで行われた研究によると、妊娠中に行った外科手術によって死産となる確率は「手術287件あたり1件」という結果が得られました(※3)。割合を単純計算すると、約0.3%です。
一方、厚生労働省が出している2017年の人工動態統計(推計)によると、日本における死産率は出産1,000人のうち20.8人(※4)。つまり、約2.1%という割合になります。
このことを踏まえると、「産科以外の手術による死産リスクは、通常の死産率と比べて相対的に低い」といえます。
もちろん、「100%安全」と言い切るのはむずかしいですが、妊娠中に手術をすることになったとしても、赤ちゃんを失うリスクは極端に高いわけではないと考え、冷静に手術に臨めるといいですね。
妊娠中に産科手術が必要な妊娠トラブルは?
ここまでは産科以外のトラブルでの手術についてご説明してきましたが、妊娠に関わるトラブルのなかにも、手術が必要になるものがあります。
妊娠中期以降で、まだ陣痛がくる前の時期にもかかわらず、子宮頸管が短くなっており、内子宮口が開いてしまっている状態を「子宮頸管(頚管)無力症」といいます。
子宮頸管無力症になる頻度は0.05~0.1%とまれですが、流産・早産の原因の約20%を占めています(※1)。
エコー検査の結果、子宮頸管無力症と診断された場合、経過観察となることもありますが、子宮頸管を糸で縛る「頸管縫縮術」という手術が行われることもあります(※1)。
頸管縫縮術には「シロッカー法」と「マクドナルド法」の2種類があり、妊婦さんの状況に合わせて選択されます。この手術によって、子宮頸管がさらに短くなったり、内子宮口が開いたりするのを防ぎ、妊娠を継続させられる可能性が高まります。
妊娠中に帝王切開の手術となるケースは?
「妊娠高血圧症候群」が重症化して赤ちゃんが胎児機能不全に陥った、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれてしまう「常位胎盤早期剝離」が起きたなど、母体と胎児に危険が及ぶと判断された場合、緊急帝王切開の手術を行うことがあります。
予想外のタイミングで手術を受けることになると、妊婦さんは戸惑いを感じるかもしれませんが、帝王切開は母子ともに健康にお産を終えるために選択される分娩方法です。医師や助産師、家族のサポートを得ながら、落ち着いて手術に臨みましょう。
妊娠中の手術は家族にも理解してもらおう
妊娠中は、ただでさえお腹の赤ちゃんに気を遣うことが多いのに、そのうえ手術も必要となると、不安になってしまう妊婦さんも多いかもしれません。
しかし、いずれにしても「手術をして治療する方が、手術しないよりも母体と胎児にとって良い」と判断された場合に手術が行われることになるので、かかりつけの産婦人科医や手術を担当する医師を信じて、落ち着いて手術を受けましょう。
手術を受ける目的や、術後の生活などの注意点について、パートナーなど家族にも理解してもらい、無理のない妊娠生活を送ってくださいね。