妊娠中には様々なリスクがありますが、「血液型不適合妊娠」もその一つです。通常母体と胎児の血液は混ざり合うことがありませんが、血液型が違う胎児の血液が妊婦さんの体に混じってしまい、母体でできた抗体が胎児に影響してしまうことがあるのです。今回は、血液型不適合妊娠について詳しくご紹介します。
血液型不適合妊娠とは?
血液型には様々な種類があり、A型、B型、O型、AB型の4種類のABO式血液型、赤血球の表面に抗原があるかないかで、Rh+(D抗原陽性)とRh-(D抗原陰性)と分類されるRh式血液型などがあります。
一般的に知られているように、血液型の違う血液を輸血してしまうと様々なトラブルが生じます。
血液型不適合妊娠とは、お腹の赤ちゃんと妊婦さんの血液型が異なる妊娠のことで、胎児の体に影響が出てしまうため、治療や慎重な経過観測が必要になります。
血液型不適合妊娠の原因は?
基本的には胎盤を隔ててそれぞれ別の血管を血液が流れているため、胎児と妊婦さんの血液が混ざり合うことはありません。
しかし、常位胎盤早期剥離、梅毒といった胎盤への感染症、前置胎盤、流産・人工妊娠中絶、羊水穿刺、切迫流産、切迫早産、そして分娩時の出血などが原因で、胎児の血液が母体に混ざることがあります。
異なる血液が混ざると、母体はそれを異物とみなして、体内で対抗する抗体がつくられます。この抗体が胎児に入ってしまうと、胎児の赤血球を破壊してしまい重症化する可能性もあります。
血液型不適合妊娠の種類は?
血液型不適合妊娠の種類としては、次の3つがあります。
ABO式血液型不適合妊娠
主に母体がO型で、胎児がA型あるいはB型の場合に起こる血液型不適合妊娠で、全妊娠の約1~2%の確率で発生するとされています。
ただし、胎児の溶血原因となる抗体の大きさが大きいため、胎盤をほとんど通過せず、妊娠中に胎児死亡をきたすような重症例はないといわれています。
Rh式血液型不適合妊娠
血液型の分類方法に「Rh+型」「Rh-型」の2種類がありますが、日本人のほとんどがRh+型でRh-型は約0.5%といわれています。
Rh式血液型不適合妊娠は、母体の血液がRh-で胎児の血液がRh+の場合に起こり、ABO式血液型不適合妊娠に比べて抗体による反応が強いために、様々な影響を及ぼします。
不規則抗体による不適合妊娠
不規則抗体による不適合妊娠とは、A抗体、B抗体以外の抗体によるものですが、重症化するものはほとんどないとされています。
分類上はRh式血液型不適合妊娠も含まれますが、治療が必要な症状として別に扱うことが多いようです。
血液型不適合妊娠は二人目で起きやすい?
血液型不適合妊娠の原因でも紹介したように、分娩時の出血が原因で血液が混ざり合い、抗体が生まれてしまうことで症状を発症する可能性があります。
そのため、一人目の妊娠で抗体ができてしまい、二人目の妊娠のときには、胎内にいる胎児の状態から血液型不適合妊娠として抗体の影響が現れることが多くあります。
また、妊娠回数が増えると発症率も高くなり、一人目1.7%、二人目3.0%、三人目6.3%、四人目16.5%、五人目26.3%となっています(※1)。
血液型不適合妊娠による症状は?
実は妊婦さん側で血液型不適合妊娠による影響を感じることはありません。しかし胎児にとっては危険な症状があり、妊婦さんの体でできた抗体が胎児の体に入り、胎児の赤血球を壊してしまうことも。具体的には次のような症状が現れる可能性があります。
胎児新生児溶血性疾患
胎児新生児溶血性疾患とは、Rh式などの抗体が胎児や新生児の赤血球を破壊して起こる症状を合わせた総称です。
黄疸・核黄疸や貧血、重症化すると流産や胎児水腫を起こす危険性があります。
過去には、赤ちゃんが亡くなったり、後遺症が残ったりすることも多い病気でしたが、近年では胎児への直接輸血や投薬などの治療法が進んできています。
黄疸・核黄疸
赤血球が壊れると黄疸の原因となるビリルビンが赤ちゃんの体で作られて黄疸が発症します。
通常の生理的な現象としてもみられる黄疸ですが、血液型不適合妊娠に該当すると黄疸が強くなることがあり、重症な場合は脳性麻痺や死亡の原因(核黄疸)となることもあります。
貧血
赤ちゃんは出産後しばらくは新しい赤血球を作らないといわれており、溶血によって赤血球が減ってしまうと貧血状態になってしまいます。
体重増加不良や哺乳不良、無呼吸などの症状を起こすこともあり、重度の貧血のときには輸血を行うなどの処置がなされます(※2)。
胎児水腫
胎児水腫とは、お腹の赤ちゃんの体内に水分がたまり、水ぶくれ状態になってしまう病気です。
様々な原因がありますが、溶血によって貧血が重症化して起こるともいわれています。
胎児水腫が悪化すると内臓を圧迫して死産してしまうことも。治療法としては、胎内にいる間に輸血をする、注射針を刺して溜まった水分を抜き取る、などが行われます。
血液型不適合妊娠の検査方法は?
出産後は血液検査はもちろん見た目でも変化を捉えることが可能ですが、お腹の赤ちゃんに胎児溶血性疾患が起きても、ママは無症状・無自覚です。そのため、妊婦健診時の血液検査等が重要になります。
具体的には、初回の妊婦健診時にママが「Rh-」でパパが「Rh+」ということが確認されたときには、胎児とママの血液型が異なる可能性があるため、胎児の観察とママの血液中の抗体価を測定し、管理を行っていきます。検査は状況に応じて、以下が行われます。
● 抗体解離検査
● 直接クームス試験
● 間接クームス試験
● 羊水診断
● 赤ちゃんからの採血
血液型不適合妊娠の予防法は?
胎児への影響を避けたい血液型不適合妊娠のうち、重症化する可能性のあるRh式血液型不適合妊娠を予防する方法があります。
具体的には、「抗Dヒト免疫グロブリン」という血液製剤を妊娠28週などに投与する方法です。これにより、異なる血液型による抗体を母体で作ることなく妊娠を継続することができます。
また、ママの血液型がRh-で出産後新生児の血液型がRh+だったときなどには、分娩後72時間以内に母体に投与することもあります。
胎児新生児溶血性疾患の治療法は?
血液型不適合妊娠によって胎児新生児溶血性疾患が生じたときには、次のような治療法が検討されます。
胎児輸血
胎児新生児溶血性疾患によって胎児水腫を引き起こしているときには、胎児輸血が行われます。
超音波検査装置で胎内状況をみながら、妊婦さんのお腹に針を刺し、胎児の臍帯静脈から輸血を行います。
胎児輸血による胎児の生存率は80%以上といわれ、症状の改善率が高い方法です。
血漿交換
妊娠初期などで胎児輸血ができないときには、母体の血漿交換を行い、抗体を減らした状態で母体に戻すことで胎児への影響を少なくします。多くの場合、妊娠12週頃から開始します。
出生後の治療
出産後の新生児に黄疸がみられるときなどに、光線療法や交換輸血が行われます。
ほとんどの場合は光線療法で治りますが、どうしてもビルビリン等の値が下がらない場合には体内の血液をすべて置き換える「交換輸血」で重症化を抑えます。
血液型不適合妊娠は病院が変わる可能性もある?
血液不適合妊娠と診断されると胎児の様々な症状が予想され、心配になりますよね。
普段診察を受けている産婦人科で対応が難しいときには、専門的な検査や胎児輸血などができる高度な治療が可能な病院を紹介されることもあります。
周産期母子医療センターへの転院など、かかりつけの産婦人科医と症状も合わせて相談してくださいね。
産婦人科医としっかり相談し、リスク管理を
血液型不適合妊娠であっても、母体の血液中に抗体が作られなければ問題は起きません。リスクはありますが、かかりつけの産婦人科医に相談のうえ管理を行い、予防と対策を万全にすれば元気な赤ちゃんを産める可能性は高まります。
まずはどんなリスクや対策があるのかをしっかりと把握しておくことが大切ですね。