「卵巣嚢腫(のうしゅ)」という病気をご存じですか?妊娠するために不可欠な「卵巣」は最も腫瘍のできやすい臓器の一つといわれています。その中でも卵巣嚢腫は、卵巣腫瘍の多くを占める病気です。妊娠に関わることもある病気であるだけに、女性にとっては気になりますよね。今回は卵巣嚢腫の原因や症状、治療法などについてご説明します。
卵巣嚢腫とは?良性の腫瘍なの?
卵巣にできる腫瘍は、良性と悪性、その中間の性質を持つ境界悪性の3つに分類されます。卵巣腫瘍のうち約90%は良性といわれています(※1)。
良性かどうかを区別するために重要な判断材料となるのが、腫瘍の中に溜まる中身の性質です。卵巣腫瘍は、分泌液など液体状の内容物が溜まる「嚢胞性腫瘍」と、硬いかたまりができる「充実性腫瘍」の2つに分けられます。
卵巣腫瘍のうち、最も多いのが嚢胞性腫瘍で、「卵巣嚢腫」と呼ばれることもあります。良性の腫瘍であることが多いのですが、卵巣に溜まっている液体の一部に「充実性部分」と呼ばれるかたまりが含まれる場合は、悪性の可能性もあるので、しっかり検査をする必要があります。
卵巣嚢腫の種類は?
卵巣嚢腫(嚢胞性腫瘍)は、腫瘍の中身によって次の3種類に分けられます(※1)。
1. 漿液性(しょうえきせい)嚢腫
卵巣の表面を覆う上皮から発生し、漿液というサラサラした液体が卵巣の中に溜まってしまったものです。年齢を問わず、卵巣嚢腫の中で最も頻度が高いといわれています。
ほとんどが良性ですが、まれに増殖して悪性に変化する場合もあります。
2. 粘液性嚢腫
別名「偽ムチン嚢腫」と呼ばれることもあります。ゼラチンのようにねばねば、またはヌルヌルした液体が卵巣の中に溜まってしまうもので、閉経後の女性に多いといわれています。
基本的には良性ですが、多発している場合などは、境界悪性や悪性の可能性もあるので、注意する必要があります。
3. 皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)
人間の元になる組織が卵巣に溜まり、脂肪組織などがドロドロとした腫瘍になってしまったものをいいます。20~30代の若い女性に多く見られます。
皮様嚢腫の中には脂肪組織だけではなく、毛髪、歯、骨、神経組織など様々な組織が含まれており、「生まれなかった赤ちゃんが出てきたのでは」と心配する方もいますが、そうではありません。何らかの原因で、卵子の元である胚細胞が変化したものと考えられています。
卵巣嚢腫は子宮内膜症が原因でできることもあるの?
卵巣にできる腫瘍のうち、子宮内膜症が原因でできるものを「卵巣チョコレート嚢胞」と呼びます。子宮内膜の細胞や血液が変色してチョコレートのように見えることから、このような呼ばれ方をします。不妊の原因にもなるため、注意が必要です。
卵巣チョコレート嚢胞は、本来なら子宮内部にしかない子宮内膜組織が、卵巣の中で増殖を繰り返してしまう病気です。卵巣にできた子宮内膜組織も、月経(生理)のときに剥がれ落ちるため、剥離した細胞や血液が卵巣の中に溜まってしまい、嚢胞ができます。
卵巣チョコレート嚢胞の原因は、まだはっきりとわかっていませんが、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」が子宮内膜の増殖に影響しているのではないか、と考えられています。
また、近年、卵巣チョコレート嚢胞と卵巣がんの関連性も指摘され、研究が行われています。
卵巣嚢腫の原因や症状は?痛みはあるの?
卵巣嚢腫ができる原因は、よくわかっていません。また、種類を問わず、腫瘍が小さいうちは自覚症状がほとんどないのが特徴です。
初期段階だと、痛みを感じる女性も少なく、腫瘍がこぶし大ほどに大きくなってから自分で触ってみて気づく人も稀にいます。卵巣嚢腫が大きくなると、膀胱を圧迫して頻尿になったり、腸を圧迫して便秘になったりすることがあります。
しかし、下腹部がふくらんでも「太ったのかな」という程度にしか感じず、妊娠時の検査や、がん検診などで偶然発見されるケースも少なくありません。
また、卵巣嚢腫が5~15cmほどの大きさになると、卵巣の根元が回転してねじれてしまう「茎捻転」が起こることがあり、激痛を伴います。ねじれた部位から卵巣への血行が途絶え、放置すれば卵巣が壊死してしまう恐れがあるので、発症した場合には緊急手術となります(※1,2)。
卵巣嚢腫の治療法は?どんな手術?
卵巣嚢腫は、良性でまだ小さいうちは経過観察になることが多いですが、一度良性と診断されたとしても、ケースによっては悪性に変わることもあるため、定期検診を受けることが大切です。
卵巣嚢腫が急激に増大している、検査の結果から悪性が疑われる、5~6cm以上の大きさになっているなどといった場合には、摘出手術をすすめられることもあります。卵巣嚢腫の大きさや状態によって摘出手術の範囲は変わり、嚢腫だけを切除する「嚢腫核出術」や、片側の卵巣だけを取る手術、もしくは卵管や子宮まで摘出する「付属器摘出術」があります。
妊娠に関わる臓器であるため、治療方法を決めるときは、嚢腫の状態だけでなく患者の年齢や、妊娠・出産の希望などもあわせて考慮されます。治療内容や手術の範囲について、担当医にしっかり確認しましょう。
卵巣嚢腫の手術費用や入院期間は?
卵巣嚢腫の手術による入院期間は、手術法によって異なりますが、開腹手術では10日間ほど、腹腔鏡下手術だと5日間ほどになるのが一般的です。ただし、手術によって癒着などが見られたときなどには手術期間も長くなる場合があります。
手術費用は、体への負担が比較的少なく、傷跡が小さい「腹腔鏡手術」のほうがやや高く、15〜25万円程度かかります。ただし、医療機関や入院期間によって幅があるので、事前に確認しておきましょう。
なお、手術費用については「高額療養費制度」が適用され、自己負担限度額を超えた分の払い戻しを受けられることがあります。詳しくは、病院に確認しましょう。
卵巣嚢腫は不妊につながるの?手術後に妊娠できる?
「卵巣嚢腫=不妊」というわけではありませんが、嚢腫が卵管にひどく癒着している場合や、卵巣チョコレート嚢胞などの場合は不妊につながることもあります。妊娠を希望する場合は特に、担当医に症状をよく確認してください。
また、卵巣嚢腫になっても妊娠できる女性は多くいます。症状によりますが、経過観察を続ける、嚢腫ができている部分だけを切り取る、片側の卵巣のみを摘出する、といった治療方法を選択できる可能性はあります。担当医やパートナーとよく相談してから治療法を決定するようにしましょう。
卵巣嚢腫の治療は医師とよく相談を
自覚症状が出にくいものの、放置してしまうと不妊につながる恐れもある卵巣嚢腫。「ほかの病気のための検診を受けたら、たまたま見つかった」ということも多くあります。原因がよくわかっていないので、予防が難しい病気ですが、婦人科検診などを定期的に受け、早期発見・早期治療に努めましょう。