出生前診断のエコー検査で判明する胎児の病気の一つに「胎児水頭症」があります。胎児の頭部に異常が見られる病気ですが、治療で問題なく生活できるようになったり、後遺症が残らなかったりと、予後には個人差があります。今回は胎児水頭症について、原因や症状、治療法のほか、出生前診断の方法についてご説明します。
胎児水頭症とは?症状は?
水頭症は、何らかの原因で頭蓋骨の中に過剰な水分が溜まってしまい、脳室が異常に拡大する病気です。特に、胎児期に診断された場合、「胎児水頭症」と呼ばれます。
もともと頭の中には髄液といわれる水分が入っています。絶えず生産されて頭の中に溜まっていきますが、同時に体内に吸収され、循環を繰り返しているので、脳圧はほぼ一定に保たれています。
ところが、胎児水頭症になってしまうと、脳室の中に髄液が停滞してしまうため、脳室が拡大していきます。これにより脳が圧迫され、様々な症状が引き起こされます。
胎児水頭症の原因は?
胎児水頭症の原因は、主に3つあります(※1)。
・髄液が過剰に作られる
・髄液の流れが悪くなる
・髄液がうまく吸収されない
つまり、何らかの原因で髄液が作られる量と、吸収される量のバランスが崩れると、水頭症を発症します。
妊娠中に母体がトキソプラズマ症やサイトメガロウイルス感染症などにかかることで胎児水頭症を引き起こすことがありますが、明らかな原因を特定できないケースも少なくありません(※2,3)。
胎児水頭症の症状は?
胎児期に診断される水頭症の場合、まだ頭蓋骨が完成しきっていない段階なので、脳室に髄液が溜まることにより頭囲が異常に大きくなります。脳が圧迫されることで、脳内出血が起こるリスクもあります。
また、胎児の頭がママの骨盤に対して大きすぎると、「児頭骨盤不均衡」により難産になる可能性もあり、自然分娩(経腟分娩)ではなく帝王切開が選択されることもあります。
胎児水頭症はエコー検査で診断できる?
胎児水頭症は、出生前に診断することで、生まれたあとの赤ちゃんに適切な治療を施すことにつながります。早期に見つかれば治療による対応も可能で、予後の状態も左右するため、早期発見が大切です。
胎児水頭症は妊婦健診の超音波(エコー)検査で発見される場合があり、脳内の「側脳室三角部」と呼ばれる部分が拡大しているときに、胎児水頭症が疑われます。一般的に、妊娠24週以降で側脳室の大きさが一定以上だと、水頭症が疑われます(※4)。
エコー検査によって脳室の拡大が認められた場合は、経腟超音波検査や胎児MRI検査を行います。頭蓋骨の変形はないか、目・鼻・口の異常はないか、手の親指が変形していないか、など、さらに詳しく赤ちゃんの状態を調べ、場合によっては染色体異常の検査も実施されます。
胎児水頭症の治療法は?後遺症が出る?
出生前診断で胎児水頭症と判明したとしても、特別な場合でない限り、生まれるまでは治療方法がありません。
出生後には、一般的に拡大した脳室にカテーテルを挿入し、過剰な髄液をお腹の中に流して吸収させ、脳圧をコントロールする「シャント術(VPシャント)」という外科手術を行います。
シャント術を行ったあと、5~15%程度の確率で皮膚に潜む菌によるシャント感染が起こります。感染が診断された場合、赤ちゃんが発熱することもありますが、抗生剤などで治療します。
こうした手術を適切に行えば、胎児水頭症で生まれてきたとしても、他の子供たちと変わりない生活を送れるようになるケースもあります。
ただし、水頭症の症状の程度によっては、成長後に眼球運動障害や意識障害、嘔吐などの後遺症が見られることはあります。特に症状の変化がなくても、小児神経科などで定期検診を受けることが望ましいため、病院の受診時期などは専門医と相談してください。
また治療方法は、生まれたときの赤ちゃんの体重などによっても異なることがあります(※2)。
胎児水頭症は出生後のケアに専念しよう
胎児水頭症で大切なのは生後ケアです。胎児期の治療法がない以上は、生まれるのを待つしかありません。
事前に胎児水頭症の可能性がわかっていれば、医師とも相談しながら出生後に備えて治療の方針などを検討することができます。頑張って生まれてくる赤ちゃんのためにも、出生後のケアに専念できる状態を整えてあげてください。