妊婦健診の際に、医師から「胎児水腫」の可能性を指摘されたという人がいるかもしれません。とても珍しい病気ですが、赤ちゃんの命にかかわる重大な病気です。今回は胎児水腫について、原因や症状、診断方法のほか、治療法や予後などをご説明します。
胎児水腫とは?
「胎児水腫」とは、なんらかの原因で赤ちゃんのお腹や胸、心臓を包んでいる心嚢に水分がたまり、水ぶくれ状態になって全身がむくんでしまう病気です。
胎児水腫が発症する仕組みなど、まだ解明されていない部分はたくさんあります。予後不良のケースが多い病気ですが、赤ちゃんがお腹の中にいるうちに治療を行うことで、予後が期待できることもあります(※1)。
胎児水腫の症状や原因は?
お腹の中の赤ちゃんに、胸水、腹水、心嚢水のうち2ヶ所以上の腔水症が見られた場合、胎児水腫と呼ばれます。頭や首の後ろの皮膚がむくむことが多く、やがて全身に浮腫が現れます。
主な原因としては、一昔前には、ママと赤ちゃんの血液型が一致しない「Rh式血液型不適合妊娠」の場合に「免疫性胎児水腫」が起こることもありました。しかし、近年では「抗Dヒト免疫グロブリン」という血液製剤が開発されたことにより、免疫性胎児水腫の頻度はかなり減りました(※2)。
現在では、主に次のような原因で起こる「非免疫性胎児水腫」が90%を超えています(※1,2)。
感染症
胎児がウイルスや細菌などに感染すると、胎児貧血を起こし、低たんぱく血漿や心拍量の異常増加といった症状が現れます。
主な感染源は、パルボウイルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、トキソプラズマ、梅毒などが挙げられます。
中でもパルボウイルスに注意が必要で、パルボウイルスに感染すると、伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」を発症し、胎児に感染する恐れがあります。
染色体異常
先天的な染色体異常により、リンパ管系がふさがっていたり、心臓の構造に異常があったりする(心奇形)ことも、胎児水腫の原因として考えられます。
胸の疾患
横隔膜ヘルニアや先天性嚢胞状腺腫様形成異常などの疾患が原因で、胸腔の内圧が上昇したり、リンパ管が正常に作られなかったりといった状態が起こり、リンパ液が体内をうまく循環できなくなってしまいます。
双子妊娠による血流障害
双子の妊娠には様々なパターンがありますが、1つの胎盤を分け合っている双子(一絨毛膜双胎)の場合、流れてくる血液のバランスがどちらかの赤ちゃんに偏ってしまうこともあります。
これを「双胎間輸血症候群(TTTS)」といい、重症の場合、胎児水腫を引き起こすリスクがあります。
胎児水腫の診断方法は?
胎児水腫があるかどうかは、妊婦健診の超音波(エコー)検査でわかることがあります。
胎児の皮膚の下に水が溜まっていて5mmの厚さがある、腹水や胸水、心嚢水などが確認できる、といった場合に、胎児水腫と診断されます。また、羊水が多かったり、胎盤が厚かったりすることも診断の参考になります(※2)。
胎児水腫の予後は?治療法はあるの?
胎児水腫の治療法は原因によって異なりますが、母体の中で低酸素状態が続いたり、体内に栄養が行き渡らずに臓器が成熟できなかったりすることで、生まれる前に亡くなってしまうか、呼吸・循環障害が残り、生後すぐに命を落としてしまうことが多いのが現状です(※2)。
ただし、胎児水腫の原因によっては、治療で改善が期待できる場合もあります(※1)。たとえば、不整脈など心臓の調律(リズム)に異常がある場合、母体にジゴキシンなどの治療薬を投与することで胎盤を通して薬の成分が赤ちゃんに届き、むくみがおさまっていくことがあります。
また、感染症の場合は、お腹の外から針を刺して赤ちゃんに輸血することで治療できる可能性もあります。
このように、一口に「胎児水腫」と言っても原因によって治療法や予後は異なるので、医師やパートナーと相談のうえ、治療方針を決めてください。
胎児水腫は予防できる?
胎児水腫の原因には、先天的なものもあるので、完全に予防できる方法はありません。しかし、妊娠中に感染症を予防することで、胎児水腫の可能性を減らすことはできます。
たとえば、パルボウイルスが原因で発症する伝染性紅斑(りんご病)や、サイトメガロウイルス感染症、トキソプラズマ症などは、妊婦さんが特に注意したい感染症です。
妊娠中はウイルスに感染しないようマスクを着けて外出したり、衛生対策を万全にしたりして、母子感染のリスクをできるだけ小さくするように心がけましょう。
胎児水腫と診断されたら医師とよく相談を
胎児水腫は予後があまり良くない病気ですが、原因は様々で、ケースによっては治療できる可能性もあります。
医師から状況の説明を受け、パートナーとも相談しながら治療法を検討してください。