「妊娠初期は流産のリスクが高いけれど、安定期に入ればひと安心」と思っている人も多いかもしれません。しかし、「安定期」といっても切迫早産や早産などのリスクは残っているため、引き続き体調管理をしっかりすることが大切です。今回は、早産の原因や兆候、予防法のほか、早産で生まれた赤ちゃんへの影響についてご説明します。
早産とは?
早産とは、妊娠22~37週未満に出産することを指します。
なお、妊娠22週未満で妊娠が中断することを「流産」、妊娠37~42週未満の分娩を「正期産」、妊娠42週以降の分娩を「過期産」といいます。
正期産の赤ちゃんと比べて、早産の赤ちゃんは母体の外に出るには未熟なので、生まれたあとは新生児集中治療室(NICU)での治療が必要になることがほとんどです。
また、早産児は正期産児よりも障害が残るリスクや周産期死亡率、死産率が高くなります(※1)。
早産の原因は?
流産は染色体異常など胎児側に原因があることがほとんどですが、早産の場合は母体側の問題が原因になることも多くあります。
早産の原因は、下記のとおり様々なものがあります。定期的に妊婦健診を受け、できるだけ早く早産のリスクを発見し、適切に対処することが大切です(※1,2)。
子宮内感染
女性の子宮は腟を通して外界と接しているため、細菌が腟に感染すると細菌性腟症を起こし、それが悪化すると、子宮頸管炎や絨毛膜羊膜炎などに発展してしまうことがあります。
特に絨毛膜羊膜炎は、早産の原因として最も多いもので、羊水感染や臍帯感染、胎児感染まで及ぶこともあります。早産だけでなく超低出生体重児が生まれる原因にもなりやすいので、できるだけ早く治療する必要があります。
頸管・子宮の異常
子宮頸管無力症だと、陣痛が来ていないのに子宮口が開いてしまい、子宮頸管が短くなってしまうので、早産になりやすくなります。
また、子宮筋腫や子宮奇形など、子宮に何らかの異常がある場合も、早産の原因となることがあります。
深刻な合併症
妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの母体の合併症が重い場合、自然早産になることもあれば、母体と胎児の安全を考えて誘発分娩や帝王切開で早めに分娩を行うこともあります。
多胎妊娠
双子以上の多胎妊娠の場合、赤ちゃんが1人だけの単胎妊娠と比べて早産のリスクが高いことがわかっています。
双子を妊娠しているママの約半数は早産になるため、早めに入院して経過管理を行うことが多くなります。
生活習慣
喫煙やストレス、痩せすぎなど、ママの生活習慣の影響で早産となることもあります。
タバコには様々な有害物質が含まれており、その影響で子宮の収縮が促されたり、胎児を包んでいる卵膜が弱くなって破水しやすくなったりする、というメカニズムがあると考えられています(※3)。
また、早産リスクは喫煙本数が増えるほど高くなり、また逆に、禁煙すると早産リスクが減ることもわかっています。
さらに、仕事や家事などにおける疲労やストレスが溜まりすぎると、子宮の収縮につながることもあるといわれているので、できるだけ心身に大きな負荷がかからない生活を送ることが大切です。
胎盤の異常
胎盤が正常よりも下の方についている「前置胎盤」や、胎盤が分娩前に子宮壁から剥がれてしまう「常位胎盤早期剥離」も早産につながる可能性が高く、帝王切開となることが多くあります。
羊水過多
胎児や胎盤の異常、あるいは妊娠糖尿病などがある場合、赤ちゃんが浮かんでいる羊水の量が多すぎる「羊水過多症」が起こることがあります。
羊水過多により、内側から圧迫されることでお腹の張りが強くなり、子宮収縮が起こりやすくなるため、早産リスクが高まります。
早産の兆候、症状は?
妊婦さん本人が気づく可能性のある早産の兆候としては、お腹の張りや痛み、性器出血、破水などの症状があります。
妊婦健診で早産となる前の症状が発見されることも多いので、妊婦健診は必ず定期的に受診しましょう。特に、子宮頸管が短くなっていると切迫早産になる恐れがあるので、あまりにも短い場合にはすぐ入院となることもあります。
切迫早産と診断された場合、早産にならないよう産科で治療を行います。すでに破水している場合は、感染予防のため抗菌薬を投与したり、破水していない場合は子宮収縮抑制薬を投与したりして、妊娠期間をできるだけ延ばします。
ただし、絨毛膜羊膜炎などが疑われるときや、胎児が十分に成熟していると判断されたときは、誘発分娩や帝王切開などを行うこともあります。
早産のリスクは?障害は残る?
早産になるということは、正期産の時期に入る前に生まれるということなので、赤ちゃんの発育が不十分なままであることが多くあります。
特に妊娠32~34週未満で生まれた赤ちゃんは、肺の機能が未発達で自力で呼吸するのが難しいため、「呼吸窮迫症候群」など呼吸器系の合併症が起こるリスクが高くなります(※1,2)。
また、子宮内感染による絨毛膜羊膜炎などが原因で、早い週数で早産となった場合、脳性麻痺や慢性肺疾患などの病気を発症することが多くなります(※1,2)。
妊娠34週以降の早産であれば、赤ちゃんの合併症リスクが下がり、生存率は高くなります。ただし、正期産と比べると十分に成熟しているとはいえず、脳性麻痺や発育遅延などのリスクはわずかながらあるため、できるだけ妊娠期間を長く維持するように対処していきます。
なお、妊婦健診で早産の兆候が見られた場合、すみやかに入院をして、胎児の成熟を促すために副腎皮質ステロイドの注射をする必要があることもあります。
早産を予防するためにできることは?
先述のとおり、早産の原因は様々あるため、100%予防することは難しいですが、日頃から下記のようなことに気をつけて、なるべく早産リスクを抑えましょう。また、気になる症状があれば早めに受診しましょう。
健康的な食事を摂る
糖分や塩分を摂りすぎるなど、偏った食生活は妊娠高血圧症候群などの合併症の原因になります。また、ママが痩せすぎると赤ちゃんに十分な栄養が届かず、早産になるリスクがあります。
早産のリスクを下げるためだけでなく、母体と胎児の健康を守るために、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
疲れやストレスを溜めない
ママがストレスの多い生活を送っていると、母体や胎盤から分泌されるホルモンを乱し、早産を引き起こす恐れがあります(※1)。
特に仕事や育児をしている妊婦さんは忙しいと思いますが、家族や職場の同僚の理解を得ながら無理のない生活を送れるといいですね。
禁煙する
喫煙は、早産だけでなく流産のリスクも高めます。また、無事に出産できたとしても、赤ちゃんが「乳幼児突然死症候群(SIDS)」で亡くなってしまうリスクも上がります(※4,5)。
妊娠中はタバコを吸わないことはもちろん、できることならこの機会に禁煙し、産後も続けることが大事です。また、家族にも禁煙してもらうなどして受動喫煙にも注意しましょう。
早産を回避するには、兆候の早期発見が大切
早産の完璧な予防法はありませんが、普段から健康的な生活を送ることを心がけて、定期的に妊婦健診で産婦人科医に診てもらうことが大切です。
何かあったらすぐに対処できるよう、切迫早産の兆候や破水の疑いがあるときは、次の健診を待たずにすぐ担当医に相談してくださいね。
場合によっては、すぐ入院してステロイド治療などを受ける必要があります。対応が遅れると早産となり、赤ちゃんに影響が出てしまう恐れがあるので、妊婦さんはいつでも入院できるよう家族も含めて理解を深めておきましょう。