私たちの身のまわりには、たくさんの細菌が生息しています。「ブドウ球菌」もそのひとつで、私たちの肌のあらゆるところにいます。しかし、場合によっては、ブドウ球菌に感染して病気になることもあるので、注意が必要です。今回はブドウ球菌に感染して起こる病気について、症状や治療法、予防法などをご紹介します。
ブドウ球菌とは?
ブドウ球菌には、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌があります。どちらも人間の皮膚にどこにでもいる常在菌で、健康なときには害を受けることはほとんどありません。しかし、免疫力が低下したり、傷口から体内に侵入し増殖したりすると、感染症を引き起こします。
病原性は表皮ブドウ球菌より黄色ブドウ球菌の方が高く、抗生物質が効きにくいメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)というものも存在します。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は抗生物質が効きにくいため治療が難しく、重症化すると、骨髄炎や敗血症などを起こします(※1)。
ブドウ球菌は顕微鏡で見ると、葡萄の房状に集まって見えることから、その名前がつけられています。
ブドウ球菌に感染するとどんな病気にかかる?症状は?
ブドウ球菌が感染する部位によって、発症する病気と症状が異なります。ブドウ球菌に感染した場合の主な病気と症状は以下の通りです。
とびひ(伝染性膿痂疹)
とびひは、虫刺されやあせもなどを掻き壊した傷から、菌が感染して起こる病気です(※2)。
とびひにかかると、強いかゆみを伴った水ぶくれができ、膿んで破けます。かゆみがあるため、ついつい搔いてしまい、水ぶくれの汁がついた手で他の部位を触ることで、感染が全身に広がっていきます。
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は、新生児・低月齢の乳児に多く、ブドウ球菌がもつ毒素が全身に回ることで生じます。
首やわきなどの皮膚のびらんから始まり、短期間で全身にやけどと似た皮膚症状が現れ、大きくむけてしまいます(※2,4)。
化膿性乳腺炎
ブドウ球菌に感染すると、授乳中のママが乳腺炎を発症することがあります。乳児に歯が生え始めると、授乳の際に乳首を傷つけてしまうことがあり、そこからブドウ球菌が入り込むと発症します。
化膿性乳腺炎の主な症状としては、発熱や悪寒、おっぱいの腫れやしこりなどが挙げられます。
骨髄炎
骨髄炎とは、菌が骨に侵入して炎症が起きている状態です。発症すると、発熱や皮膚の腫れ、倦怠感、食欲不振などが現れます。
肺炎
細菌が肺に感染することで、肺炎を発症することがあります。免疫力が低い新生児や乳児にみられます。
高熱とともに痰のからんだような咳が出て、急激な呼吸困難になるのが特徴です。ひどい場合は膿胸(のうきょう)とよばれる胸膜腔に膿がたまった状態になり、肺での広範囲な感染が見られます(※2)。
食中毒
化膿した傷がある手で調理後の食品や調理器具を触ることで、口に入れる物がブドウ球菌によって汚染され、それを食べることで食中毒になります。
ブドウ球菌による食中毒の主な症状は、嘔吐や下痢、腹痛です(※3)。発熱はなく、原因の食事をとって数時間で急激な症状が現れるという特徴があります。
ブドウ球菌に感染したときの診断方法・治療法は?
問診や視診によってブドウ球菌の感染が疑われた場合、血液や痰、水ぶくれの中に入っている液などから、ブドウ球菌に感染しているかどうかを調べます。
ブドウ球菌の感染症にかかっていると診断された場合、ブドウ球菌に対する抗生物質を使って治療するのが一般的です。
ブドウ球菌による皮膚感染症では、抗生物質の塗り薬や飲み薬を主に使用します。骨髄炎や肺炎などにかかって症状が重いときは、入院して、抗生物質の点滴が行われることもあります。
使用する抗生物質の量や治療期間については、感染者の年齢や症状から判断されるので、医師の指示に従って、完治するまできちんと治療を続けるようにしましょう。
ブドウ球菌への感染を予防するには?
ブドウ球菌は身近に存在している菌なので、体の免疫力を下げないようにすることが予防につながります。
精神的にも肉体的にも疲労が溜まっているときは、無理せず、しっかりと体を休めるようにしてください。睡眠と栄養をしっかりとり、規則正しい生活を送って、免疫力を維持することが大切です。
また、皮膚に傷ができないように、子供の爪はこまめに短く切っておきましょう。皮膚が乾燥していると肌のバリア機能が低下してしまうので、クリームやローションを使って保湿することも心がけてください。
ブドウ球菌の食中毒は、石鹸で手をしっかり洗って消毒することで予防しましょう。
ブドウ球菌の感染症は人にうつさないことも大切
ブドウ球菌の感染症は、破れた水ぶくれからの液や嘔吐物から、人にうつることがあるので注意しなければいけません。
ブドウ球菌による病気が発症したら、治療をすすめると共に、爪を短く切ったり、嘔吐物が付着したものはすぐに洗ったりするなどして、二次感染を起こさないための予防に努めましょう。
治療や二次感染を防ぐための方法で分からないことがあったら、一人で悩まず、医師に相談してください。