女性の体が妊娠するプロセスは一見シンプルなように思えますが、体内ではとても複雑な動きが起こっています。「頚管粘液」も、妊娠のために必要不可欠なものの一つです。今回は、頚管粘液と排卵との関係や、頚管粘液を検査する方法、検査で少ないと診断されたときに増やす方法などをご説明します。
頚管粘液(子宮頚管粘液)とは?
「頚管粘液」とは、腟と子宮腔をつなぐ子宮頚管を満たしている粘液のことを指します。「子宮頚管粘液」と呼ばれることもあります。
頚管粘液は、生理周期にあわせて分泌量が増減します。頚管粘液が十分に分泌された状態で性交があると、射精された精子が粘液の中に取りこまれ、卵管へと進みやすくなるので、妊娠する確率が高まります。
頚管粘液と排卵との関係は?
排卵が近づくと、女性ホルモンの一つ「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の量が増えることで、弱アルカリ性の頚管粘液の分泌量も増えます。この時期の粘液は粘り気が少なく、卵の白身のようにトロッとしているため、精子が卵管へと進みやすくなります(※1)。
このため、排卵日の少し前に性交渉を行うと、受精の確率が高まり、妊娠しやすくなります。
排卵が終わると、今度は「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の量が増え、頚管粘液の量は少なくなっていきます。粘液の粘り気が増し、伸びにくくなるので、精子は卵管を進みくくなってしまいます。
その代わり、腟内が酸性に保たれることで、細菌が子宮の中に入ったり増殖したりするのを防ぐ「自浄作用」が維持されることになります(※1)。
頚管粘液にトラブルがあると、不妊の原因になる?
前述のとおり、頚管粘液は精子と卵子の受精を助けてくれるものなので、頚管粘液になんらかのトラブルが起きていると、妊娠しにくくなる可能性があります。
頚管粘液の酸性が高い、粘り気が多い、量が少ないといった「頚管因子」による不妊の原因として、次のようなものが考えられます(※1,2)。
ホルモン分泌の異常
頚管粘液は、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」が作用して分泌量が増加します。しかし、何らかの理由でエストロゲンの分泌量が少なくなってしまうと、頚管粘液の量も減り、精子が卵管を通り抜けにくくなってしまいます。
感染症の影響
子宮頚管がなんらかの感染症を発症している場合が考えられます。多くはクラミジア感染症などの性感染症が原因で、知らないうちに感染して不妊の原因になっていることがあります。
排卵誘発剤の副作用
不妊治療の一環として、クロミッドなどの排卵誘発剤を使用している場合に、副作用で頚管粘液の量が減少することがあります。その場合、別の排卵誘発法に切り替えるなど、医師に相談が必要です。
抗精子抗体
まれですが、頚管粘液に入ってこようとする精子を異物と捉え、攻撃してしまう「抗精子抗体」を持っている女性がいます。
抗精子抗体がある場合、精子が卵管内に入れず、入れたとしても受精が妨げられてしまうため、体外受精などの生殖医療での妊娠が必要になることがあります。
頚管粘液の検査方法は?
頚管粘液に異常がないかどうかは、詳しい検査をしなければわかりません。頚管粘液の検査としては以下のものが挙げられます(※2)。
頚管粘液検査
排卵日近くに、注射器で頚管粘液を採取して、量や粘り気の具合を見たり、乾燥させたときにシダの葉のような結晶ができるかどうかを確認したりします。
頚管粘液が十分に分泌されているか、粘り気が強すぎないかがわかり、おおよその排卵日を予測できる検査です。
フーナーテスト(ヒューナーテスト)
排卵日前後に性交をし、頚管粘液を採取して、その中に入っている精子を調べる検査です。
性交後に射精された精子が、子宮頚管内にきちんと入っているか、精子の運動率などの状態が良いかどうかを顕微鏡で確認します。
抗精子抗体検査
フーナーテストの結果、頚管粘液の中に精子が見つからなかった場合、女性が抗精子抗体を持っている可能性があるので、詳しい検査を行います。
時期に関係なく、女性から採血し、血液中に抗体があるかどうかを調べます。
頚管粘液が少ないときに増やす方法はある?
頚管粘液の検査で分泌量が少ないと診断されたら、頚管粘液を増やすために、ホルモン剤を使用した治療が行われることもあります。排卵誘発剤を使って卵胞の成長を促すことでエストロゲンを増やすなど、いくつかの方法があるので、医師とよく相談してください。
また、女性ホルモンのバランスを整えるには、規則正しい生活を送ることも大切です。栄養バランスのとれた食事と十分な睡眠を基本とし、毎日適度に体を動かせるといいですね。
頚管粘液に不安があれば病院で検査を受けよう
頚管粘液の異常は、不妊症の原因の一つとして挙げられます。また、まれですが抗精子抗体という免疫異常によって、妊娠が妨げられていることもあります。
ただし、自覚することは難しいので、妊娠を望む場合には、一度婦人科で検査を受けておくことをおすすめします。検査の結果を見て、どのような治療を行うべきか、医師やパートナーとよく話し合って決めましょう。