妊婦が溶連菌に感染したら?妊娠中の母体や胎児への影響は?

監修医師 産婦人科医 永瀬 絵里
永瀬 絵里 産婦人科専門医。2001年、東海大学医学部卒業。神奈川県内の病院で産婦人科医としての経験を積み、現在は厚木市の塩塚産婦人科勤務。3児の母。「なんでも気軽に相談できる地元の医師」を目指して日々診療を行っ... 監修記事一覧へ

妊婦さんが出産前に気をつけておきたいことはいくつかありますが、「溶連菌」の感染もその一つ。「溶連菌って、子供がかかる病気じゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、妊婦さんにも感染する可能性があるので、注意が必要です。

今回は、妊婦さんが特に気をつけたい溶連菌について、感染した場合の症状や胎児への影響、治療法などをご紹介します。

溶連菌とは?どんな種類があるの?

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溶連菌は、正しくは「溶血性連鎖(レンサ)球菌」という名称の細菌です。

抗原性の違いによってA~V群(I、J は除く)に分類されていて、一般的に子供がかかりやすい「溶連菌感染症」のほとんどは、A群溶血性連鎖球菌が原因となって引き起こされます(※1)。

最も多く感染・発症が見られるのは乳児や就学児ですが、免疫力が弱まっている大人や妊婦さんにも感染する可能性があります。

妊婦さんがより注意しなければならないのは、「B群溶血性連鎖球菌」による感染症です。

この菌は、女性の場合、腟や肛門周囲にいる常在菌の一種で、普段は悪さをしませんが、出産間近に感染すると赤ちゃんが産道を通るときに感染してしまうリスクがあるので、予防する必要があります。

妊婦が溶連菌に感染すると、母体への影響は?

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上でお伝えしたとおり、妊婦さんも「A群溶血性連鎖球菌」や「B群溶血性連鎖球菌」に感染する可能性はあります。それぞれについて、感染した場合の症状をご紹介します(※2,3,4)。

A群溶連菌感染症

子供がA群溶連菌感染症にかかると、発熱やのどの腫れ、腹痛といった風邪に似た症状が出ます。発熱から1~2日たつと、かゆみのある赤い発疹が全身に現れたあと、手足の皮膚がポロポロとむけることもあります。

パパやママも含め、大人にうつる可能性もゼロではありません。A群溶連菌に感染している子供に接触したあと、妊婦さんも発熱やのどの痛みがあったらすぐに内科や産婦人科で相談し、診察と検査を受けるようにしましょう。

妊娠中に服用しても問題のない抗生物質を処方してもらい、医師の指示に従って治療を進めてください。

B群溶血性連鎖球菌(GBS:Group B Streptococcus)

先述のとおり、B群溶血性連鎖球菌は、女性の腟や直腸にいる常在菌で、10〜30%の頻度で見られます。

B群溶血性連鎖球菌の検査結果が陽性と出たとしても、症状が現れない場合もありますが、膀胱炎や絨毛膜羊膜炎を引き起こすリスクがあります。

胎児への影響としては、赤ちゃんが「新生児GBS感染症」にかかり、命にかかわることもあるので、妊娠中期と後期に感染の有無を調べる検査を受けることが大切です。胎児への影響については、次にくわしくご説明します。

妊婦が溶連菌に感染した場合の胎児への影響は?

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妊婦さんがB群溶血性連鎖球菌に感染したことに気づかないまま出産すると、母子感染してしまい、「新生児GBS感染症」にかかる恐れがあります。

これにより、赤ちゃんが呼吸困難に陥ったり、髄膜炎や肺炎などの重大な病気になったりし、重症化すると、命にかかわることもあります。

主な感染のタイミングは、母体の産道からGBSが上り、胎内感染するケースと、産道を通るときに感染するケースです(※3)。

分娩時に感染するのを防ぐため、経腟分娩をする場合、陣痛が始まったらペニシリン系の抗菌薬を点滴注射し、出産が終わるまで定期的に点滴を続け、産道感染を防ぎます。

抗生物質の点滴投与による治療を行ったとしても、感染を100%防げるとは言い切れません。しかし、ママから赤ちゃんへGBS感染する確率を4000分の1まで抑えることができるという米国のデータもあります(※4)。

妊婦が溶連菌に感染するのを防ぐには?

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妊娠中に溶連菌への感染を防ぐためには、免疫力を低下させないことが大切です。

すでにお伝えしたとおり、溶連菌は体内にいる常在菌で、いつも悪さをするわけではありません。

しかし、免疫力が落ちやすい妊婦さんの場合、自浄作用が低下してしまうため、細菌感染しやすい状態になってしまうのです。

十分な睡眠と栄養のある食事をとり、できるだけストレスを溜めない生活を心がけるようにしてください。

また、一緒に住んでいる子供が溶連菌に感染した場合、それが妊娠中のママにうつってしまう可能性もあります。家庭内での感染を防ぐため、家族で同じタオルを使い回さない、子供の食べかけの料理に口をつけない、といったことも気をつけましょう。

妊婦の溶連菌の感染を早期発見するには?

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妊娠24~35週あたりの妊婦健診のときに、B群溶血性連鎖球菌を保有しているかどうか調べる「GBS検査」が必要に応じて行われます(※5)。綿棒でおりものを採取し、約1週間で検査結果が出ます。

妊娠中期に陽性反応が出ても、基本的にはすぐに治療を行いません。治療してもまた感染する可能性があると考えられているからです。

そして、妊娠後期に再度検査を受けて、GBS感染が陽性であるとあらためて確認された場合、先ほどお伝えしたように分娩時に抗生物質を点滴注射することで治療を行います。

結果が陽性だと不安になってしまうかもしれませんが、医師の説明をよく聞き、リラックスしてお産に臨んでください。

妊娠中に溶連菌に感染しても、落ち着いて出産に臨もう

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通常、健康な人は溶連菌に感染することは少ないのですが、妊娠中は免疫力や抵抗力が弱まってしまうので、感染リスクが高まる傾向にあります。

特に妊娠初期は体調が不安定ですが、できるだけ規則正しい生活を心がけ、感染症の予防に努めてください。

妊娠中期~後期で、検査の結果、GBSが陽性と診断されてナーバスになってしまうかもしれません。お腹に赤ちゃんがいることを考えると、「もしものことがあったらどうしよう」と考えてしまうのは自然なことですが、あまり不安な気持ちを抱え込まないでくださいね。

産婦人科の医師とよく相談し、適切な治療をしながら出産に臨みましょう。

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