双子妊娠が判明すると、喜びもひとしおですよね。ただし、2人の赤ちゃんがお腹の中にいると、1人のときよりも妊娠中のリスクが高いので、注意深く経過を見守ることが必要です。双子妊娠ならではのトラブルのひとつに「双胎間輸血症候群」があり、これは赤ちゃんの生死に関わる深刻な病気です。今回は双胎間輸血症候群について、原因や症状、治療法をご紹介します。
双子妊娠にはいくつかパターンがあるの?
妊娠中、お腹にいる赤ちゃんと羊水は、卵膜に包まれています。卵膜は、脱落膜、絨毛膜、羊膜という3層の膜で構成されています。
双子妊娠の場合、胎盤や絨毛膜、羊膜の分かれ方によって、次の3つのパターンに分けられます(※1)。
二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)
双子それぞれに1つずつ、合わせて2つの胎盤があり、羊膜と絨毛膜が2つに分離しています。
二卵性双生児の場合、ほぼ確実に二絨毛膜二羊膜双胎となり、すべての双子妊娠のうち約7割を占めます。3つのパターンのうち最もリスクが低いとされます。
一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
双子同士で1つの胎盤を共有しており、2人が同じ1つの羊膜に包まれています。
一絨毛膜一羊膜双胎の発生頻度は双子妊娠のうち約1%とまれですが、周産期死亡などのリスクが最も高い状態です。
一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
双子同士で1つの胎盤を共有していますが、それぞれ独立した羊膜に包まれています。
双子妊娠のうち約3割がこのタイプで、一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)に次いで胎児リスクが高いとされます。
これからご説明する「双胎間輸血症候群」は、この「一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)」のおよそ10%に起こるトラブルです(※1)。
双胎間輸血症候群とは?診断基準は?
「双胎間輸血症候群(TTTS:twin-to-twin transfusion syndrome)」とは、一つの胎盤を分け合っている双子(一絨毛膜双胎)の間で、流れてくる血液のバランスが崩れてしまうことで起こる病気です。
この病気は、すべての双子に起こるものではなく、一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)の約10%に見られます(※1)。
双胎間輸血症候群が重症化すると、胎児水腫などになるリスクがあるほか、周産期死亡率(妊娠22週0日以降の死産と早期新生児死亡の合計)は約60%以上と高いため、早期発見と早期治療が重要です(※1,2)。
双胎間輸血症候群は、超音波検査で羊水の深さを測り、下記2つの状態が同時に見られた場合に診断されます(※2)。
● 循環血液量が多い方の赤ちゃん(受血児)の羊水の深さ:8cm以上
● 循環血液量が少ない方の赤ちゃん(供血児)の羊水の深さ:2cm以下
双胎間輸血症候群が起こる原因は?
一絨毛膜双胎の場合、1つの胎盤を2人の赤ちゃんが共有しています。胎盤につながった血管を通して、赤ちゃん同士の間で血液が行ったり来たりしていて、正常な状態であれば2人の間の血液量のバランスがとれています。
しかし、何らかの原因でこの血流のバランスが崩れてしまうと、双胎間輸血症候群が起きます。今のところ、血流のバランスが崩れる原因ははっきりとしていません。
双胎間輸血症候群の赤ちゃんへの影響は?
双胎間輸血症候群は、受け取る血液量が多い側の赤ちゃん(受血児)と、少ない方の赤ちゃん(供血児)とで、現れる症状や起こりやすい合併症が次のとおり異なります(※1,2)。
受血児に見られる症状・合併症
受血児の方にはたくさんの血液が流れてくるので、多血や高血圧になります。尿の量が増え、供血児とは反対に羊水過多が起こります。
受血児によく見られる合併症に、うっ血性心不全や胎児機能不全、重症なケースだと胎児水腫などがあります。血液を過剰に受け取ってしまうことで、心臓に負担がかかりやすくなります。
供血児に見られる症状・合併症
供血児は流れてくる血液の量が少ないので、貧血や低血圧になります。尿の量が減るので、羊水過少が見られます。
供血児に起こりやすい合併症として、腎不全や胎児発育不全、胎児機能不全などが挙げられます。羊水が少ないために子宮壁に押しつけられ、成長が妨げられてしまうのです。
このように、循環する血液の量が多すぎても少なすぎても、赤ちゃんの体に悪影響が及びます。治療を行わずに放置すると、赤ちゃんが2人ともお腹の中で死亡してしまう恐れがあります。
双胎間輸血症候群で母体に出る症状は?
双胎間輸血症候群になると、ママの腹囲が急に大きくなり、下腹部に強い張りが現れることがあります。また、以前よりも胎動が弱くなったと感じる人もいます(※2)。
妊婦さんが自分でこうした異変に気づくのは、簡単なことではないかもしれませんが、少しでも違和感がある場合は次の妊婦健診を待たずに産婦人科を受診しましょう。
双胎間輸血症候群の治療法は?
双胎間輸血症候群の治療法は、妊娠週数や母体・胎児の状態によって、主に次の2つから選択されます。
胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術
妊娠16週以上~26週未満で双胎間輸血症候群と診断された場合、多くは胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が行われます。
これは、供血児と受血児をつなぐ血管(胎盤吻合血管)をレーザーで凝固する治療法です。双胎間輸血症候群の原因と考えられる血管を遮断することで、2人の赤ちゃんの間の血流のアンバランスを改善できる可能性があります。
この手術による胎児の生存率は80%前後で、神経部分の後遺症が残る確率は約5%まで下げることができます(※2)。
ただし、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術を受けられる国内の医療機関は限られているため、場合によっては施設が整った大きな病院を紹介してもらう必要があります。
羊水吸引除去術
破水している、切迫流産・切迫早産の兆候が出ている、母体合併症や感染症が見られる、などの理由で、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術を実施できない場合、羊水吸引除去術を行うこともあります。
羊水吸引除去術とは、羊水過多になった受血児の羊水を吸引する治療法です。局所麻酔をした妊婦さんのお腹に小さな針を刺し、受血児側の余分な羊水を除去します。羊水過多による子宮収縮などの症状を改善し、妊娠期間を延ばすことが目的です。
ただし、一度羊水を吸引しても、多くの場合羊水が再び溜まってしまうため、何度も繰り返して行う必要があります。
羊水吸引除去術を行った場合の胎児の生存率は約60%で、神経部分の後遺症が残る確率は約20~25%あるとされます(※3)。
双胎間輸血症候群と診断されても、落ち着いて治療を
医学の進歩もあり、双胎間輸血症候群になっても、双子の赤ちゃんが無事に生まれたケースも少なくありません。
適切な治療をいち早く受けるためにも、妊婦健診にはきちんと定期的に通い、何か体の異変を感じたら、すぐに医師に伝えるよう心がけましょう。