疲れたとき唇に発疹として現れるイメージが多い「ヘルペス」。このヘルペスに赤ちゃんが感染した場合、脳炎などの重い後遺症を残す可能性のある「新生児ヘルペス」という病気になることを知っていますか?今回は、そんな新生児ヘルペスについて、どんな病気なのか、症状や原因、治療法や予防法などについてご紹介します。
新生児ヘルペスとは?
新生児ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルス1型もしくは2型というウイルスが、新生児に感染することで発症する感染症の一種です。
日本国内では、新生児10万人あたり2.6人の割合で発症するというデータがあります(※1)。
新生児ヘルペスは、その症状によって、全身型、中枢神経型、表在型の3つに分類されています(※2)。
発症するのは主に生後3週間以内の新生児で、特に生後0~14日の赤ちゃんに多く見られます(※3)。また、全身型は平均4.6日、中枢神経型は11.0日、表在型は6.0日と、型によっても発症までの時間に差があります。
新生児ヘルペスの症状は?脳炎などの後遺症は残る?
新生児ヘルペスを発症すると、全身型、中枢神経型、表在型によって異なる症状が現れます。
全身型の症状
全身型の新生児ヘルペスを発症すると、発熱や哺乳力の低下、元気がなくなるなどの症状が現れます。重症化すると、肝不全や呼吸障害などを起こします。範囲が広がり、多臓器不全に発展すると死亡することもあります(※1)。
全身型を発症した際、治療を行わないと70~80%が死亡すると言われていますが、適切な治療を行えば、その確率を下げることができます(※2)。
中枢神経型の症状
中枢神経型の新生児ヘルペスを発症すると、意識の低下、けいれんや昏睡、体の一部の震え、落ち着きがなくなる、ミルクを飲まなくなるなどの症状が現れます。
発症者のうち2/3に脳炎などの重い後遺症が残るという報告があります(※1)。
表在型の症状
表在型の新生児ヘルペスを発症すると、皮膚や目の周り、口の周りなどにできる水ぶくれや、発熱などの症状が見られます。
新生児ヘルペスの原因は?感染ルートは?
新生児ヘルペスの約80%は出産時の産道感染によるものです。
ヘルペスウイルスは唇だけでなく、性器に感染することがあり、これを「性器ヘルペス」といいます。ママがこの性器ヘルペスに感染したことがあると、出産時に症状が出ている・いないに関わらず、産道を通ることで、赤ちゃんが新生児ヘルペスに感染してしまうことがあります。
そのため、ママが性器ヘルペスに感染したことがある場合、帝王切開を勧められることが多くあります。
しかし、胎内で感染するケースも5~8%とまれにあり、帝王切開を行ったからといって、完全に感染を防げるわけではないのが現状です。
また出産後に、口唇ヘルペスに感染している家族などとの接触によって感染するケースも、8~10%ほどあります(※2)。
新生児ヘルペスの治療法は?
新生児ヘルペスを発症した場合、アシクロビルという抗ウイルス剤による治療が行われることが多いです。
赤ちゃんの体重1kgあたり30mgの量を、1日3回に分け、14日間点滴で投与します(※3)。
新生児ヘルペスの予防法は?
新生児ヘルペスの予防法には、ママから赤ちゃんへの感染を防ぐ方法と、ママ自身の感染を防ぐ方法があります。
ママから赤ちゃんへの感染を防ぐ方法
出産時に赤ちゃんが単純ヘルペスウイルスに感染する確率を減らすために、性器ヘルペスに感染したことがある妊婦さんに、抗ウイルス剤での治療を行うことがあります。
ここでもアシクロビルが用いられますが、羊水へも成分が移行することがわかっているため、胎内での感染を防ぐ効果が期待できます。
アシクロビルは胎児に与える影響が少ないと考えられている薬で、投与によって流産率や先天異常が高くなることはないとされています(※2)。
また、出産の際ママにヘルペスの症状が出ている場合や、妊娠中に初めて感染し、発症してから1ヶ月以内の場合などは、前述のとおり、破水する前に帝王切開を行い、赤ちゃんへの感染を避けることもあります。
ママ自身の感染を防ぐ方法
単純ヘルペスウイルスに対するワクチンはまだ発見されていません。しかし、単純ヘルペスウイルスはアルコールに弱いという特徴があるため、市販のアルコール消毒薬でも除菌効果が期待できます(※3)。
もし家族が単純ヘルペスウイルスに感染してしまったときや、症状が出ているときは、タオルなどのリネン類は分けて使い、触れる機会の多い家具や共有物はアルコールスプレーで除菌を行いましょう。
性器ヘルペスを予防するには、パートナーに感染の疑いがあるときに性交渉を控えることです。ヘルペスウイルスは口から性器へと感染することもあるので、口唇ヘルペスの症状が出ているときも控えるようにしましょう。
感染の自覚がなかったとしても、予防として、性交渉を行う際はコンドームをつけることをおすすめします。
新生児ヘルペスは不治の病ではありません
新生児ヘルペスは、死亡率が全身型で29%、中枢神経型で14%と高く、さらに脳炎などの後遺症が残る可能性もある病気です(※3)。
しかし、ママから赤ちゃんに感染することがほとんどであるため、もし妊娠中にヘルペスへの感染がわかったとしても、抗ウイルス剤による治療をきちんと行うことや、帝王切開を選択することで、赤ちゃんにうつす確率をぐっと減らすことができます。
また、もし赤ちゃんが新生児ヘルペスを発症したとしても、「私のせい」と自分を責めることはやめてください。新生児ヘルペスは決して治らない病気ではありません。
赤ちゃんが元気に日々の生活を送れることを想像し、ママ・パパで協力して治療に取り組みましょう。