不妊症や流産の原因にもなる「黄体機能不全」ですが、知名度はまだまだ低く、病名すら知らないということも多いのが現状です。いつもと違う基礎体温や生理不順など、自覚症状がある病気なので、妊活中の方はぜひ覚えておいてください。今回は黄体機能不全の原因や症状、治療法などについてご説明します。
黄体機能不全とは?
黄体機能不全とはその名のとおり、女性ホルモンの一つである「黄体ホルモン(プロゲステロン)」を分泌する「黄体」がうまく機能しなくなる病気です。
女性の体は、黄体ホルモンの作用で基礎体温が高くなり、子宮内膜の厚い状態が保たれて妊娠しやすい体になります。
しかし、黄体がうまく機能せずに黄体ホルモンの分泌量が減少すると、女性の体は正常な生理周期を生み出せずに、妊娠するための準備もできなくなってしまうのです。
黄体機能不全の症状は?生理不順になる?
黄体ホルモンがうまく分泌されないことで、次のような症状が現れます(※1)。
生理不順
妊娠が成立しない場合に、子宮内膜が剥がれ落ちて排出されるのが「生理」です。上のグラフは、黄体ホルモンが正常に分泌されている場合の基礎体温表です。
黄体機能不全では基礎体温の高い状態を維持することができず、「黄体期」が短くなるため、生理周期自体も短くなりやすい傾向にあります。
また、黄体ホルモンの分泌量がばらつくことで、生理不順になることもあります。
不正出血が起こる
黄体ホルモンの分泌量が少ないと、子宮内膜を維持することができず、すぐに剝がれ落ちてしまうので、生理でもないときに不正出血が起きてしまいます。
不妊症や不育症
たとえ排卵や受精に問題がなくても、子宮内膜が十分に発育していないと、受精卵が着床しにくくなり、不妊症につながります。
また、着床できたとしても、黄体機能が低下していると、赤ちゃんが成長する前に子宮内膜が剥がれて妊娠を維持できない「不育症」になる恐れもあります。
黄体機能不全は基礎体温でわかる?グラフはどうなる?
先ほども触れたとおり、黄体機能不全だと「高温期の日数が短くなり、低温期との体温の差が小さくなる」という特徴が見られるので、基礎体温を記録していれば、異常に気づける可能性があります。
正常な生理周期における基礎体温は、高温期が14日前後で、低温期と高温期の体温の差が0.3〜0.6度ほどです。しかし、黄体機能不全の場合は、高温期が12日未満で、低温期との体温差も0.3度以下になります。そのほか、高温期の間に体温がガクンと下がることもあります(※1)。
基礎体温を数ヶ月記録してみて、黄体機能不全の疑いがあれば、早めに婦人科を受診してください。
黄体機能不全の原因は?
黄体機能不全の原因として、様々なものが考えられていますが、はっきりと特定できないことも多くあります。
明らかに原因とされているものは、主に次の2つがあります。
不妊治療の影響
体外受精や人工授精などで採卵をするために、hMG製剤やGnRHアゴニストなどを使って卵巣を刺激することがあります。
これらの薬の影響で、脳下垂体からの「卵胞刺激ホルモン(FSH)」と「黄体形成ホルモン(LH)」の分泌が抑制されてしまい、黄体機能不全を起こすことが多くなります(※1)。
そのため、不妊治療で卵巣刺激法を行うときは、黄体ホルモンを補充する治療法もあわせて必要になります。
高プロラクチン血症
脳下垂体からプロラクチンが過剰に分泌される「高プロラクチン血症」も、黄体機能不全の原因となります(※1,2)。
高プロラクチン血症は、妊娠・分娩・産後以外の時期に、母乳が出たり、月経異常を起こしたりする病気です。軽症の場合は黄体機能不全となり、重症だと生理がなくなる無月経になります。
黄体機能不全を検査する方法は?
黄体機能不全を検査する方法は、問診と採血があります。
問診では、基礎体温表を見ながら、生理中の症状や出血量、生理の長さ、生理周期などを確認されます。
黄体期の中盤(排卵日から約1週間前後)に採血を行い、血液中の黄体ホルモン(プロゲステロン)の数値が10ng/ml未満だと黄体機能不全が疑われます(※1)。
黄体機能不全は治療で改善する?
黄体機能不全だと妊娠しにくくなってしまいますが、治療を受けることで改善できる可能性があります。特に不妊の場合、黄体ホルモンを補うために以下の治療が行われます(※1)。
排卵誘発法
生理が始まってから一定の期間、クロミフェン療法やゴナドトロピン療法などで排卵を促します。
ただし、排卵誘発剤を使うと「多胎率が高まる」などの副作用もあるので、事前に医師と話し合っておきましょう。
黄体補充療法
子宮内膜を発育・維持するために、黄体補充療法を行います。
黄体期にhCG製剤を投与して黄体を刺激することで、プロゲステロンの分泌を促すか、もしくはプロゲステロン自体を投与する方法を取ります。
ドーパミン作動薬の投与
黄体機能不全の原因が高プロラクチン血症である場合、治療法が異なります。
脳腫瘍などの原因がほかにない高プロラクチン血症では、プロラクチンの数値が正常になるまでドーパミン作動薬を投与し続け、中止から1ヶ月が経っても正常値を保っていれば、経過観察になります(※3)。
下垂体腫瘍や甲状腺機能低下症、薬剤の服用に伴う高プロラクチン血症の場合、それぞれの原因に応じた治療が必要になります。
黄体機能不全に漢方は効くの?
黄体機能不全を改善するには、漢方を使ったアプローチもあります。東洋医学では、月経周期が短い原因は生殖に関わる「腎気・脾気が弱い」ためと考えます(※4)。
処方される漢方薬は、患者の体質や症状によっても異なりますが、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」、「温経湯(うんけいとう)」などがよく使われています。
婦人科で漢方を取り扱っているところもあるので、一度担当の医師に相談してください。
黄体機能不全を治療して妊娠を目指しましょう
黄体機能不全は不妊の原因になります。しかし、軽度であれば体調を改善することで自然妊娠できる可能性も十分にあります。また、黄体機能不全で不妊症になっていたとしても、医師の指示に従って治療を受ければ妊娠できる確率が高まります。
基礎体温の動きがいつもと違ったり、生理不順が続いたりして、黄体機能不全かもしれないと思ったら、早めに病院を受診しましょう。