「子宮脱」とは、その名のとおり「子宮が腟から脱する(出る)」状態をいいます。妊娠・出産のために大切な臓器が外に出てしまう…と聞くと、多くの女性は不安に思ってしまうかもしれません。今回は、子宮脱が起きる原因や症状、治療法のほか、妊娠・出産への影響についてもご説明します。
子宮脱とは?
何らかの理由で、子宮が本来の位置よりも下がり、腟内に出るものを「子宮下垂」、それがさらにひどくなり、子宮の一部または全部が腟の外に出てしまった状態を「子宮脱」といいます。
子宮が下がるときに、腟や膀胱、直腸などの臓器も一緒に下がってしまい、腟がつられて裏返ってしまうこともあります。子宮脱のほかに、膀胱瘤、直腸瘤、腟断端脱なども合わせて「骨盤内臓器脱(POP)」と総称されます。
アメリカでは、80歳になった女性のうち、約11%が骨盤内臓器脱で手術を受けている、というデータもあります(※1)。一般的に、出産経験のある中高年の女性に多く見られる病気です。
子宮脱の原因は?なりやすい体質は?
子宮脱は、子宮や膀胱、直腸など骨盤内の臓器を支える「骨盤底」が、弱まったり傷ついたりすることによって起こります。
子宮脱の主な原因の一つは、妊娠・出産で子宮を支える筋膜や靭帯が緩むことです。経腟分娩(自然分娩)の場合、胎児がママの腟を通るときに骨盤底が傷つくことがあり、年齢を重ねるごとにその緩みが大きくなってしまうのです。
そのほか、肥満や、排便のいきみ、慢性的な咳、継続的に重いものを持つ仕事など、腹圧がかかりすぎることが子宮脱の原因になることもあれば、先天的な要因が関係していることもあります(※2)。
子宮脱の症状は?
症状の軽い「子宮下垂」だと自覚症状はほとんどありませんが、「子宮脱」になると様々な症状が見られます。
最初のうちは、股の間にピンポン玉のようなものが触れる程度です。子宮脱が進むと、脱出した子宮が外陰部や太ももを圧迫することにより、違和感や不快感が現れます。
また、頻尿・失禁などの排尿障害や排便障害を引き起こすほか、膀胱炎や腎臓の病気につながる可能性もあります。なかには、腰痛や性交痛が見られる人もいます。
子宮脱は、命を脅かすような病気ではなく、痛みもほとんどありませんが、放っておくと症状が悪化してしまうので、早めに婦人科を受診しましょう。
子宮脱の検査の内容は?
股の間に違和感を感じていても、恥ずかしくて病院にいけない、という女性もいるかもしれません。しかし、何か変だなと思ったら、なるべく早く婦人科で検査を受けましょう。
デリケートな部分なので、内診に抵抗がある場合は、まず女性医師に相談することもおすすめします。
1. 問診
まず問診が行われます。いつ頃からどんな症状を感じていたのか、また妊娠や出産歴、過去の手術歴などを医師に伝えましょう。
2. 内診
腟内に器具を挿入し、いきむなどして、どのくらい子宮が下がっているのかを診察します。
3. 超音波検査
初診時、もしくは2回目以降に、腎臓や膀胱、子宮、卵巣なども、超音波検査で状態を調べます。子宮脱によって尿の通りが悪くなるなど、周りの臓器への影響もあるためです。
これらの検査結果をもとに、手術が必要かどうかを医師が判断します。
子宮脱は手術が必要?
子宮脱を根本的に治療するには、手術が必要になります。ただし、子宮脱の進行程度や症状、年齢、持病の有無や、本人の希望などを踏まえたうえで、治療法を選択することになります(※4)。
ペッサリー(リング)の挿入
初期の子宮脱だったり、持病などで手術ができなかったりする場合は、「ペッサリー(リング)」というドーナツ状の器具を腟の中に挿入し、子宮を元の位置に固定します。
長期間ペッサリーを挿入したままにしておくと、炎症を起こしたり、おりものが増加して出血したりすることがあるので、病院で定期的にペッサリーを交換してもらう必要があります。
手術
子宮脱の症状が重く、ペッサリーでは対応ができない場合には、手術を行います。
腟から子宮を摘出し、腟などを支える筋膜や靭帯を補強する手術が「腟式子宮全摘術」が一般的です。開腹はせず、腟から器具を入れて手術を行うので、目立つ傷は残らず、体への負担はそれほど大きくない手術といえます。
最近では、子宮を温存し、腟壁と膀胱の間にメッシュを入れて臓器を支える「経腟メッシュ手術」も普及してきています。
また、2016年4月からは、腹腔鏡下で、メッシュを使用して腟を支え、仙骨に固定する「腹腔鏡下仙骨腟固定手術」が健康保険の適用対象となりました(※3)。これは、お腹に開けた数箇所の穴から腹腔鏡を入れ、子宮の上半分だけを切除する手術で、経腟メッシュ手術よりも効果が高く、体への負担が少ないというメリットがあります。
それぞれの手術には、メリット・デメリットがあるので、医師とよく相談して手術の方法を決めましょう。
子宮脱の対策に骨盤底筋体操が効く?
初期の子宮脱であれば、骨盤底筋を鍛える体操や、生活習慣の見直しによって症状の悪化を防げる可能性があります。
骨盤底筋体操
家のソファで休んでいるときや、電車で立っているときなど、日常生活の中で気づいたときに次の3つの動作を繰り返してみましょう。
1. 肛門と腟を上に引っ張るように、お尻の穴を締める
2. 締めた状態で5つゆっくり数える
3. 力を抜いてまた締め直す
肥満を改善する
腹圧がかかることで子宮脱が悪化することがあるので、太り気味の人は適度な食事と運動をすることで、肥満を改善しましょう。
ただし、運動しているときなどに子宮が下がってきている感覚があれば、無理して続けず、医師に相談してください。
便秘・咳を改善する
便秘により排便のときにいきみすぎたり、喘息などで慢性的に咳をしていたりすると、腹圧がかかって子宮脱が進んでしまう恐れがあります。
食生活を改善する、必要であれば薬で治療するなどして、便秘や咳を改善しましょう。
子宮脱になっても妊娠・出産できる?
妊娠・出産に影響があるかどうかは、子宮脱の程度や治療法によって異なります。
子宮が完全に飛び出しているわけではなく、性交渉できる状態であれば、妊娠・出産できる可能性があります。ただし、症状によっては細菌感染などのリスクが高まるので、妊活を始める前に医師に相談してみましょう。
また、手術の種類によっては、術後の性交渉や妊娠ができなくなりますので、妊娠を希望する場合は治療法についても医師やパートナーとよく相談することが大切です。
子宮脱は早期受診が大切
子宮脱は、目立った痛みがないことが多く、また女性にとってデリケートな部分のトラブルなので、婦人科の受診が遅れるケースも見られます。
すぐに命に関わる病気ではないとはいえ、進行すると日常生活に支障が出たり、その後の妊娠・出産に影響が出たりする恐れもあるので、下腹部や性器の違和感に気づいたら早めに病院を受診しましょう。