生理(月経)がある年齢の女性は、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が活発で、子宮の病気にかかるリスクが高くなります。たとえば、子宮内膜症なら10人に1人、子宮筋腫は4人に1人に発症しているともいわれています(※1,2)。これらの病気は不妊につながるリスクがあるため、早めの治療が欠かせません。今回は、子宮内膜症と子宮筋腫の治療薬として処方されることがある「リュープリン」という薬について、その効果や副作用、生理への影響などをご説明します。
リュープリンとは?どんな作用があるの?
リュープリンとは、日本では武田薬品工業株式会社が販売する注射薬です。「GnRHアゴニスト(LHRHアゴニスト)」という、黄体形成ホルモン放出ホルモン誘導体が合成されています(※3)。
GnRHアゴニストは、脳下垂体に持続的に作用し、「GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)」の働きを抑制します。この結果、GnRHの刺激によって分泌されている「LH(黄体形成ホルモン)」と「FSH(卵胞刺激ホルモン)」の分泌も抑えられます。
LHとFSHの分泌が減ると、卵胞の発育や排卵が抑制され、強制的に閉経状態が作られます。そして、卵胞から分泌されるはずの「エストロゲン」という女性ホルモンの量が少なくなります(※4)。
このため、リュープリンの注射をすることによって、エストロゲンの過剰分泌が原因となっている病気の症状が改善されることがあります。
なお、リュープリンと同じように、脳下垂体に働きかけてエストロゲンの分泌を抑える注射薬には、「ゾラデックス」などがあります。
リュープリンの効果は?
通常、卵巣の中で卵胞が発育すると、卵胞からエストロゲンが分泌されます。エストロゲンは、妊娠に向けて子宮内膜を厚くするなど、女性の体にとって大切な役割を果たしています。
しかし、何らかの原因でエストロゲンが多く分泌されすぎてしまうと、子宮内膜のような組織が過剰に増殖して「子宮内膜症」を発症したり、子宮の筋肉の層に「子宮筋腫」ができたり大きくなったりする、と考えられています(※4)。
先述のとおり、リュープリンを使用すると強制的に閉経状態が作り出され、エストロゲンの分泌が抑制されるので、子宮内膜症や子宮筋腫など婦人科系疾患の改善が期待できます。
ちなみにリュープリンは、エストロゲンの作用で増殖する乳がんのホルモン療法にも利用されます。また、男性ホルモンの「アンドロゲン」の分泌も抑えられるので、前立腺がんの治療薬としても使われることがあります(※3)。
リュープリンを注射すると子宮内膜症や子宮筋腫が治るの?
リュープリンを使用すると、子宮筋腫や子宮内膜症の症状の改善が期待できるとは先にご説明しましたが、これらの病気は、リュープリンを注射したからといってすぐに治るわけではありません。
子宮内膜症は、リュープリンで症状を治えることはできますが、閉経するまでは再発する可能性があります。リュープリンなどの薬物療法で治らない場合は手術を行うこともあり、長期にわたる経過観察が必要です。
一方、子宮筋腫は、リュープリンの効果で大きく発育するのを抑えられたり、小さくなったりすることは期待できますが、筋腫そのものを完全になくすことができるわけではありません。
リュープリンの発売元によると、リュープリンはあくまでも、子宮筋腫を取り除く手術までの期間や、閉経を迎えて自然と子宮筋腫が小さくなるのを待つあいだの保存療法として、一時的に使うことを原則としています(※3)。
また、子宮筋腫があると下腹部痛や腰痛が見られることが多くありますが、リュープリンを使い始めたばかりの時期はそれらの症状に効果が見られないため、痛み止めなど別の薬を使うこととされています(※3)。
リュープリンの注射をする頻度は?
リュープリンの注射薬は、1本あたり1.88mgまたは3.75mgで、1回の注射によって4週間効果が持続します。
子宮内膜症の治療に使う場合は、4週に1回のペースで3.75mgを皮下投与します。ただし、体重が50kg未満の人の場合、投与できる量は約半分の1.88mgです(※3)。
子宮筋腫の場合は、4週に1回のペースで1.88mgを皮下投与します。ただし、体重が重かったり、筋腫が大きかったりする場合には、約2倍の3.75mgを投与することもあります(※3)。
いずれの場合も、リュープリンを使うときには妊娠していないことを必ず確認し、生理が始まって1~5日目から注射を始めます(※3)。
リュープリンの副作用は?
リュープリンを投与すると、女性ホルモンのエストロゲンの分泌が抑制されるため、顔のほてり、発汗、のぼせ、肩こりなど更年期障害に似た症状が現れることがあります(※1)。
また、発症頻度はそれほど高くありませんが、間質性肺炎やアナフィラキシー、肝機能障害、心筋梗塞などの重い副作用が現れることもあります(※3)。
リュープリンを使っているときに、何か体の異変を感じたときは、医師に相談のうえ注射量を減らすなどの対処法を検討しましょう。
なお、リュープリン投与によるエストロゲンの抑制で、骨塩量(骨に含まれるミネラルの量)が低下することがあり、骨折などのリスクが高まるため、原則的にリュープリンは6ヶ月を超えてを使わないこととされています(※3)。
リュープリンをやめると生理はいつ来る?
リュープリンを使っている期間は、閉経とほぼ同じ状態になるので、基本的に生理は起こりません。リュープリンの使用をやめると再び生理が来るようになりますが、いつから再開するのか気になりますよね。
生理が来るまでの日数については個人差があり、一概には言えません。リュープリンを最後に投与してから2ヶ月で生理が再開する人もいれば、半年近く経ってやっと来た、という人もいます。
リュープリンが処方された段階で、担当医に「大体どのくらいの期間が経過して生理が来なければ受診するべきか」を確認しておくと安心ですね。
場合によっては、リュープリンを使い終わったあと「プラノバール」などのホルモン剤を処方され、月経周期を整えてから生理を待つよう指示されることもあります。
リュープリンの効果と副作用を知っておこう
リュープリンには、効果と副作用の両方があります。使用を始める前に、医師の説明をよく聞き、体調など不安なことがあれば相談しましょう。
また、リュープリンの投与期間中は、排卵が止まります。自然妊娠が望めるのは、リュープリンをやめて生理が再開してからということになるため、妊娠を希望している人は、治療のタイミングについても医師とよく相談してみてくださいね。