妊娠糖尿病の食事療法は?予防・改善するポイントは?

監修医師 産婦人科医 渡邉 京子
渡邉 京子 産婦人科専門医。長門クリニック勤務。女性特有の月経や更年期にまつわる悩みの助けとなること、また、妊娠出産期を安心安全に過ごすお手伝いすること、を念頭に置いて日々診療しています。 監修記事一覧へ

妊娠中に気をつけたいトラブルの一つに「妊娠糖尿病」があります。妊娠前は糖尿病や肥満とは無縁だった人でもかかる可能性があるので、妊婦さんはできるだけ健康な食生活を心がけたいですよね。また、もし妊娠糖尿病と診断されたら、どのような治療が必要なのかも気になるところ。今回は、妊娠糖尿病の予防と改善について、食事面で気をつけたいポイントをご説明します。

妊娠糖尿病とは?

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「妊娠糖尿病」とは、妊娠してから初めて糖代謝異常が見つかり、糖尿病には至らないものを指します。

妊娠前から糖尿病だった人は、妊娠糖尿病ではなく「糖尿病合併妊娠」と診断されます。

妊娠糖尿病の主な原因は、胎盤から分泌されるホルモンの分泌により、血糖値をコントロールするインスリンの機能が低下してしまうことだと考えられています(※1)。

すべての妊婦さんのうち約12%に妊娠糖尿病が見られ、家族や親戚に糖尿病の人がいる女性や、肥満傾向の人、35歳以上の高齢の妊婦さんなどは特になりやすいといわれています(※2)。

妊娠糖尿病が母体や胎児に与える影響は?

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妊娠糖尿病は軽度の糖代謝異常ではありますが、母体や胎児に様々な合併症が起こるリスクがあり、また、将来糖尿病になる可能性も高いことが報告されています。

母体が高血糖になると、流産や早産、羊水過多症などのリスクが上がり、胎児にも先天奇形や巨大児、子宮内胎児死亡などの異常を引き起こす恐れがあります(※3)。

赤ちゃんは、生まれたあとの新生児期には低血糖や高ビリルビン血症などを引き起こすケースもあります(※3)。

このように、妊娠糖尿病は妊娠中だけではなく、出産後にもママと赤ちゃんに影響を及ぼしてしまう可能性もあるため、早期発見・早期治療が大切なのです。

妊娠糖尿病の食事で気をつけるポイントは?

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妊婦健診における血糖値の検査で妊娠糖尿病と診断された場合、医師の指導のもと、毎日の血糖値を定期的にチェックして、血糖値が高くなりすぎないようコントロールすることが必要です。

では、血糖値のコントロールのためには食事面でどのようなことに気をつけたら良いのでしょうか?

ここでは、国立国際医療研究センター(糖尿病情報センター)が勧めるポイントをいくつかご紹介します(※4)。

適正なエネルギー量の食事を摂る

妊娠中の体重と血糖値をコントロールするためには、妊婦さんの身長に対する標準体重を計算したうえで、食事のカロリーを適正値に抑えることが大切です。

● 標準体重(kg)=身長(m) × 身長(m) × 22
● 適正エネルギー摂取量=標準体重(kg) × 30kcal + 付加量

なので、妊娠の時期に合わせると以下のようになります。

● 妊娠13週6日まで:標準体重×30kcal+50kcal(付加量)
● 妊娠14~27週6日まで:標準体重×30kcal+250kcal(付加量)
● 妊娠28週~:標準体重×30kcal+450kcal(付加量)

例として、妊婦さんの身長が159cmの場合、標準体重は約56kgなので、妊娠14~27週6日までの適正エネルギー摂取量は以下のとおりになります。

56kg × 30kcal +250kcal =1,930kcal

ただし、これはあくまでも目安であり、妊娠中の経過や活動量、肥満の程度などによって修正することもあります。

栄養バランスの良い食事を摂る

妊娠糖尿病を改善するには、体重と血糖値のコントロールが不可欠ですが、ママ自身の健康と赤ちゃんの発育を維持するために、栄養をバランスよく摂ることも大切です。

食事全体のバランスを考えたうえで、妊娠中の貧血を防ぐために「鉄分」、丈夫な骨や歯をつくるために「カルシウム」が不足しないよう意識しましょう。

また、妊娠高血圧症候群を予防するために、塩分の摂りすぎにも気をつけてください。

規則正しく食事を摂る

妊娠中は、妊娠前と比べて空腹時に血糖値が下がりやすく、食後に上がりやすいため、食事のタイミングを規則正しく分けることで、急に血糖値が上がらないようコントロールすることが大切です。

基本的には1日3食、適正なカロリー量の食事を摂るのが望ましいとされますが、血糖値が高くなりやすい場合は「分食」が勧められる場合があり、医師や管理栄養士と相談しながら行っていく必要があります。

妊娠糖尿病の食事療法とは?入院が必要?

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妊娠糖尿病と診断されたら、食事療法を行い、厳しく血糖値をコントロールすることが必要です。そのために入院が必要になることもあります。

先述のとおり、血糖値が急に上がったり下がったりしないように、栄養バランスのとれた食事を1日3食、規則正しく摂ります。

それでも血糖値がなかなか適正にならないときは、1日の食事を4~6回に分けて食べる「分食」を行うこともあります(※4)。分食で1回あたりの食事量を減らすことで、食後の血糖値上昇を抑えるわけです。

このような食事療法を行っても血糖値が改善されない場合は、皮下注射などでインスリンを投与する「インスリン療法」を実施することもあります。

妊娠糖尿病を食事で予防するには?

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食事だけで妊娠糖尿病を予防することはできませんが、体重増加を適正な範囲に抑え、血糖値を上げすぎないことは大切です。

ただし、妊娠中に体重があまり増えないと、胎児の発育が悪くなったり、早産になりやすかったりするので、「体重を増やしてはいけない」と思う必要はありません。

日本産婦人科学会によると、妊娠中の体重増加量の目安を以下のように定めています(※5)。

妊婦 体重増加目安 2021年3月改定 BMI値

妊娠前から肥満傾向にあった場合は、その程度によって体重増加の目安が異なるので、かかりつけの産婦人科で相談してくださいね。

妊娠中は、赤ちゃんに十分な栄養を供給するためにも、様々な食材をバランスよく食べることが大切です。つわりなどで体調が悪いときは別として、普段から決まった時間に、栄養バランスの取れた食事を取るようにしましょう。

妊婦さんにおすすめの食材や、摂りすぎないよう注意したいものについては、下の関連記事を参考にしてくださいね。

妊娠糖尿病は食事に気をつけて予防しよう

妊娠糖尿病になると、妊娠中の母体や胎児に影響があるだけでなく、出産後に糖尿病を引き起こすリスクも高まります。普段から食事内容に気をつけ、健康的な生活で妊娠糖尿病を予防してくださいね。

もし妊娠糖尿病と診断を受けたら、医師の指示のもと食事療法に取り組みましょう。できるだけ早く血糖値を改善することが、ママと赤ちゃんの命を守ることにつながりますよ。

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