「子宮を摘出する必要があるかもしれません」。医師からこう告げられたら、誰しもが戸惑ってしまうでしょう。自分の体はどうなってしまうのかと、とても不安を感じると思います。手術の内容や影響をあらかじめ知っておけば、いざというときに冷静に対応できるかもしれません。今回は子宮全摘出手術とはどういうものか、手術にかかる費用や入院期間、術後の後遺症などについてもご説明します。
子宮全摘出手術とは?
子宮全摘出手術とは、その名の通り、子宮を全て摘出する手術です。医学用語としては「子宮全摘出術(子宮全摘術)」という名称が正しいのですが、ここでは一般的によく使われる「子宮全摘出手術」という表現でご説明します。
子宮筋腫や子宮腺筋症のように再発リスクの高い病気や、子宮体がんや卵巣がんなどのように他臓器に転移する危険性がある病気のときに選択される治療法です。子宮を摘出すると妊娠ができなくなるので、今後の妊娠希望と症状の程度などを踏まえた総合的な判断が必要とされます。
子宮全摘出手術の範囲は?
一口に子宮を摘出するといっても、病気によって切除する範囲が変わり、主に次の3種類に分かれます(※1)。
単純子宮全摘出術
子宮と腟をつなぐ子宮頸部のあたりで靭帯を切り、子宮のみを摘出するのが「単純子宮全摘出術」です。腟や靭帯、卵巣、卵管といった子宮周辺の器官は残されます。
進行初期の子宮頸がんや、子宮体部に限定されている子宮体がんなど転移の可能性が低いがんのほか、巨大な子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症などの際に行われます。
拡大子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術
子宮頸部から少し離れた部位で靭帯を切断し、子宮だけでなく腟の上部も切除します。
がんが広がったり、転移したりする可能性がある場合に行われます。
広汎子宮全摘出術
骨盤に沿うように靭帯を切断し、子宮体部と腟の上~中部までを摘出する手術です。進行した子宮頸がんを治療する目的や、頸部にまで広がった子宮体がんの転移を防ぐ目的で、腟壁を十分に切除します。
子宮頸がんや子宮体がんの治療の場合、骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節の切除も行います。
子宮全摘出手術の方法は?
子宮を摘出する場合は、「腹式(開腹)手術」「腟式手術」「腹腔鏡下手術」の3種類の方法があります。それぞれ、次のようなメリット・デメリットがあります(※1,2)。
腹式(開腹)手術
お腹を大きく切り開いて行う手術です。骨盤内の病気全般で適応されます。
- メリット:子宮の状態を確認しやすい、激しい癒着にも対応しやすい
- デメリット:お腹に傷跡が残る、術後の痛みが強い
腟式手術
腟から器具を入れて手術する方法です。子宮筋腫や子宮腺筋症、初期の子宮頸がんなどに適応されます。
- メリット:傷が残りにくい、術後の癒着や痛みが比較的軽い
- デメリット:子宮周囲を越えた広い範囲の疾患には適応できない
腹腔鏡下手術
腹部に数箇所小さな穴を開けて、そこから器具を入れて手術する方法です。子宮筋腫や卵巣嚢腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、異所性妊娠(子宮外妊娠)などに適応されます。
- メリット:術後の癒着や痛みが軽く入院期間が短くて済む、卵巣や卵管といった付属器や骨盤内の手術もしやすい
- デメリット:実施できる病院が少ない、開腹手術よりも手術費用が高く、先進医療の対象となっている場合はさらに自己負担額が高い
子宮全摘出手術の入院期間や費用は?
摘出の原因となる病気、症状の進行度、選択される手術方法などによって、子宮の全摘出手術の費用や入院期間は大きく異なります。
下表は、各手術に必要な入院期間と、健康保険が適用された場合の自己負担額の目安です。実際の日数と費用については、病院に確認してください。
項目 | 入院期間 | 費用 |
---|---|---|
開腹手術 | 7~14日間 | 20~25万円 |
腟式手術 | 5~8日間 | 20万円前後 |
腹腔鏡下手術 | 5~8日間 | 20~85万円(※) |
※ 腹腔鏡下手術については、先進医療・自費診療の対象となることもあるため、費用に幅があります。
なお、「高額療養費制度」を申請すれば、健康保険適用範囲のうち、同一月にかかった医療費の自己負担額が払い戻されます。詳しくは、加入している健康保険の窓口に問い合わせてみましょう。
退院した後も、痛みなどがなくなって今までどおり生活できるようになるまでには数週間かかります。運動や性交など、術後どれくらい経ったら再開して良いか、医師に確認してください。
子宮全摘出手術後の後遺症は?
子宮全摘出手術をすると、様々な後遺症が現れる可能性があります。
特に広汎子宮全摘出術を行った場合によく見られるのが、排尿・排便障害です。子宮を摘出する際に尿管をずらす必要があるため、膀胱や直腸付近の神経が損傷し、尿が出にくくなる、便秘になる、尿は溜まっているのに尿意を感じない、尿が漏れる、などの症状が見られます(※1,3)。
また、がん治療のために骨盤リンパ節を取り除いた場合、両足から心臓へと向かうリンパの流れが悪くなり、下半身がむくむ「リンパ浮腫」が見られることもあります。手術後すぐにむくみが出ることもあれば、数年たってから現れることもあるため、定期的に検査を受けましょう(※3)。
子宮を切除することによる大きな喪失感が原因で、女性としての自信を失う人もいます。鬱(うつ)症状が現れることもあるので、術後に気分の落ち込みが激しいときは、医師に相談してください。
子宮全摘出手術の疑問は医師に質問しましょう
子宮全摘出手術をするかどうかは、女性にとって大きな決断です。そのため、手術が必要だと医師から告げられた場合、子宮摘出以外の方法はないのか、手術する場合はどのような方法がとられるのか、術後どんな影響があるのかなど、不安な点はきちんと医師に尋ねることが大切です。
特にこれからの妊娠を希望する人は、その気持ちを医師に伝えて一緒に最善の方法を考えましょう。主治医以外の医師の意見も聞いてから検討したい場合は、セカンドオピニオンを得る方法もあります。
自分できちんと納得したうえで治療法を検討できるといいですね。