貧血の原因といえば鉄分不足、というイメージを抱く人も多いと思いますが、ビタミンB12や葉酸の不足によって起きる「巨赤芽球性貧血」という病気もあります。日本での発症はまれですが、子供や妊婦さん、高齢の人に見られることがあります。今回は、巨赤芽球性貧血の原因や症状、治療法、治療後の回復についてご説明します。
巨赤芽球性貧血とは?
巨赤芽球性貧血とは、ビタミンB12や葉酸という栄養素が不足することで起こる貧血です。
ビタミンB12や葉酸は、骨髄にある造血細胞が赤血球を作るのを助ける働きがあります。これらの栄養素が不足すると正常な赤血球を作れなくなり、「巨赤芽球」と呼ばれる異常な大きさの赤血球ができてしまいます。
巨赤芽球の多くは成熟することができず、骨髄内で死滅し、うまく血を作ることができなくなります。
そのためビタミンB12や葉酸が不足して巨赤芽球性貧血になると、貧血症状が起こるほか、消化器系症状や神経症状など、様々な症状が引き起こされます。
巨赤芽球性貧血の原因は?悪性貧血とは?
子供の場合、先天性(生まれつき)のビタミンB12や葉酸の代謝障害、DNA合成障害などが原因で、巨赤芽球性貧血が起きることがあります。また、白血病の発症が原因となることもあります(※1)。
大人が巨赤芽球性貧血になる原因としては、胃や腸の切除、アルコールの摂りすぎ、抗けいれん薬などの薬の副作用によるビタミンB12・葉酸の吸収障害などが挙げられます(※1,2)。
妊婦さんは、通常よりも多くビタミンB12・葉酸が必要となるため、意識的に摂取しないと不足してしまい、巨赤芽球性貧血を発症することもあります(※3)。
なお、萎縮性胃炎によって、胃液に含まれる「内因子」が不足することでも、ビタミンB12がうまく吸収されなくなってしまいます。これによってビタミンB12欠乏症となるものを、 特に「悪性貧血」と呼びます(※2)。
この萎縮性胃炎の発症の原因としては、自分自身の正常な細胞や組織に対して免疫が過剰に反応し、攻撃してしまう自己免疫疾患が関与していると考えられています。
巨赤芽球性貧血の症状は?
巨赤芽球性貧血を発症すると、次のような貧血症状、消化器系症状、神経症状が現れます(※1,2)。
貧血症状
倦怠感、動悸、息切れ
消化器系症状
舌乳頭萎縮(舌の表面がツルツルになる)、ハンター舌炎(炎症が起き、舌がしみる)、胃炎、食欲不振
神経症状(特にビタミンB12不足の場合)
味覚低下、意識障害、感覚障害(手足のしびれなど)、運動障害(歩行困難など)
こうした症状は、ある日突然現れるというよりも、少しずつ変化が現れてきます(※2)。本人や家族が異変を感じたら早めに内科(血液内科)を受診しましょう。
妊婦さんは、少しでも異常を感じた時点でかかりつけの産婦人科医に相談してください。
巨赤芽球性貧血の治療法は?予後は?
貧血のような症状があった場合、血液内科で血液の成分を調べたり、ビタミンB12の吸収テストを実施したりして、診断をします。
巨赤芽球性貧血であるとわかったら、不足しているビタミンB12か葉酸を筋肉注射や飲み薬で補うことになります(※1,2)。
適切な治療を受けられれば、貧血症状は回復します。ただし、神経症状は回復が遅く、治療後も完全には治らない可能性もあるため、できるだけ早い発見と治療が大切です(※1)。
妊娠中の巨赤芽球性貧血は予防できる?
妊娠中は、自己免疫疾患などの異常が特になくても、体内で必要とされる葉酸の量が増えるため、普段よりも葉酸不足に陥りやすく、巨赤芽球性貧血を発症する恐れがあります。
特に、すでにお産を経験したことがある30歳以上の妊婦さんや、双子や三つ子を妊娠している人は巨赤芽球性貧血になるリスクが高いので、葉酸不足には気をつけてくださいね(※3)。
特に妊娠初期に葉酸を適切に摂ることで、お腹の赤ちゃんの「神経管閉鎖障害」という先天性の異常が起きるリスクを減らすことができます(※4)。妊娠中は葉酸が豊富に含まれる食品やサプリメントを積極的に摂るようにしましょう。
巨赤芽球性貧血は早期発見・治療が大切
巨赤芽球性貧血の発症率はあまり高くありませんが、胃の大部分を手術で切除した人などは、数年以上経ってから起きることが多い病気です。手術の経験があり、動悸や食欲不振などの症状が見られる場合は、すぐに病院を受診してください。
また、妊娠中は巨赤芽球性貧血だけでなく、鉄欠乏性貧血を起こすこともよくあります。ビタミンB12や葉酸だけではなく、鉄分などほかの栄養もバランスよく摂取することを心がけてくださいね。