「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」という漢方薬をご存じですか?当帰芍薬散は、生理不順や冷え症などの症状に悩む女性に処方されることが多い漢方薬です。また、不妊治療で産婦人科に通う際に処方されたことがある、という人もいるかもしれません。それではこの当帰芍薬散は、妊娠中でも飲むことができるのでしょうか?妊娠期間中のいつまで、といった注意点があるのでしょうか?さらには、産後も飲み続けていいものなのでしょうか?今回は、当帰芍薬散にまつわる様々な疑問にお答えします。
当帰芍薬散とは?
当帰芍薬散は古くから中国に伝わる漢方薬で、西暦200~210年ごろにつくられた金匱要略(きんきようりゃく)という医学書に掲載されています(※1)。
厚生労働省が定める「一般用漢方製剤製造販売承認基準」に適合しており、病院などで処方してもらうことができます(※2)。
当帰芍薬散には、次のような成分が含まれています(※1)。
- 当帰(トウキ):月経不順、月経痛、子宮内膜症、腹痛などを治す作用、婦人科系の働きを活性化させる作用、腸の活動を促進して便秘を解消する作用
- 芍薬(シャクヤク):緊張を緩和する作用や、婦人科系の働きを整える作用
- 沢瀉(タクシャ):膀胱炎などを排尿によって治す作用や、めまいや耳鳴りなどを治す作用
- 茯苓(ブクリョウ):体内の水分の流れを整える作用、胃腸を整える作用、精神安定の作用
- 川芎(センキュウ):月経不順、月経痛、腹痛、難産、冷え症などを治す作用や、頭痛をやわらげる作用
- 蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ):鎮痛作用や、胃腸を整える作用
当帰芍薬散には、医療用(顆粒)と一般用(顆粒と錠剤)があります。一般用は顆粒(12日分)が2,500円程度、錠剤(10日分)は2,600円程度で販売されています(※3,4,5)。
一般用は第二類医薬品に指定されており、ネット通販などでも購入することができます。
当帰芍薬散は妊娠中に飲んでもいい?
当帰芍薬散は、冷え症、貧血気味、疲れやすいといった体質の女性に対して処方されることがあります。当帰芍薬散を飲むことで、月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害といった、女性特有の症状に効果が見込めます。
その他、めまい、立ちくらみ、頭が重い感じ、肩凝り、耳鳴り、動悸、足腰の冷え、むくみなどに対しても有効です。
不妊治療などの際に当帰芍薬散が用いられるのは、月経不順などの改善を図るためです。
また当帰芍薬散は、古来より「安胎薬(胎児を安定させ、妊娠経過を安定的に維持する薬)」としても用いられています。妊娠中は特に以下のことに対し、効果があるとされています(※6)。
- 切迫流産、切迫早産
- 妊娠悪阻(つわりが悪化して治療が必要になった状態)
- 妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群:妊娠20週以降、分娩後12週までの間に高血圧になること)
- 子宮内胎児発育遅延
- 鉄欠乏性貧血(体内に鉄分が少ないことによる貧血)
当帰芍薬散は妊娠中~産後、いつまで飲んでもいい?
当帰芍薬散は特に女性特有の症状に対して効果があるので、出産前、妊娠中、出産後のいずれの時期でも有効です。
体に大きな負担がかかる出産の後、女性の体には様々な不調が起こってしまうこともあります。当帰芍薬散はその症状を和らげてくれる効果が期待できます。
また、授乳中に薬を服用すると赤ちゃんに移行してしまうと心配になってしまうかもしれませんが、その量は微量であり、ほとんどの薬は授乳中であっても問題なく服用できるとされています(※7)。特に当帰芍薬散は、安全な薬の部類に入ります。
当帰芍薬散を妊婦が飲むときの注意点は?
西洋薬と同様、漢方薬にも副作用があります。また西洋薬と併用したり、複数の漢方薬を同時に服用することで、副作用が出る可能性が高くなります(※8)。
当帰芍薬散を飲んだ際に起こる副作用として多いのは食欲不振や胃部不快感で、他には、発疹、かゆみ、体のだるさ、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが挙げられます(※5)。
万が一、副作用が出た際には当帰芍薬散の使用を止め、医師の診療を受けましょう。
当帰芍薬散は妊娠中の心強い味方
漢方薬はひとつの症状に効果があるだけでなく、全身のバランスを取ってくれます。
妊娠中は薬の服用などに大きく制限がかけられてしまいますが、妊娠中でも飲むことができ、様々な効果が見込める漢方薬があるというのは、とても心強いですよね。また妊娠前から当帰芍薬散を飲んでいる女性にとって、妊娠中や産後も飲み続けられるというのは安心なことでしょう。
ただし、漢方薬は体質により合わない人もいます。また妊娠中や授乳中に自己判断で薬を服用するのは、西洋薬でも漢方薬でも非常に危ないことです。
妊娠中や授乳中に服用する前には、必ずかかりつけ医や産婦人科医に相談してから使用するようにしてくださいね。