妊娠中に起こる危険な病気の一つに「子癇発作(しかんほっさ)」があります。痙攣が現れて、最悪の場合には母子の命にかかわることも。子癇発作は誰にでも起こる可能性があり、前兆が現れることが多いので、自分の発症リスクを把握しておいて、前兆が見られたときには早めに対処することが大切です。今回は子癇発作の症状や治療法、対応方法についてご説明します。
子癇発作とは?なぜ起こるの?
子癇発作とは、妊婦さんが発症する痙攣(けいれん)発作や意識障害を指します。妊娠高血圧症候群と診断されている人は特に注意が必要ですが、妊娠高血圧症候群がない妊婦さんにも子癇発作が起こることがあるため、すべての妊婦さんが気をつけるべき症状です。
子癇発作は妊娠20週頃〜分娩期にかけて起こるのが一般的ですが、出産を終えたばかりの産褥期に発症するケースもあります。
子癇発作が起こる仕組みについてははっきりしたことはわかっていません。ただし、危険因子として妊娠高血圧症候群、初産、多胎妊娠、10代での妊娠、HELLP症候群などがあり、様々な要因が絡み合って発症すると考えられています。
ちなみに、脳梗塞や脳卒中などの脳血管障害、脳炎、てんかんなどが原因で起こる痙攣・意識障害などとは区別されます。
子癇発作の症状は段階的に変化する
子癇発作の主な症状は痙攣や意識障害です。ただし、痙攣や意識障害を起こすまでには以下のような段階を経て変化していきます。
1. 子癇発作の前兆
妊娠高血圧症候群と診断されている人は、発作が起こる数日〜数週間前から頭痛や腹痛などが現れ、目がチカチカしたり、視界が狭くなったりといった視覚の異常が見られます。ただし、子癇発作を起こす人の約10%には妊娠高血圧症候群と診断されていないケースもあります(※1)。
2. 誘導期
顔面が蒼白になり、失神します。視線が上を向いて、口元から細かい痙攣が起こり、この状態が数秒〜数十秒続きます。
3. 強直性痙攣期
筋肉がこわばり、体を弓なりに沿って全身が細かく痙攣します。15〜20秒ほど続きます。呼吸が止まり、顔面が紫色に変わるなどの症状も見られます。
4. 間代性痙攣期
筋肉が緊張したり緩んだりを繰り返しながら痙攣が1〜2分ほど続きます。まぶたや口を開けたり閉じたりを伴うため、舌を噛んでしまうこともあります。
5. 昏睡期
痙攣が治まり、昏睡状態に入ると、いびきのような呼吸が現れます。その後、昏睡状態から覚醒して意識が元に戻りますが、ほとんどの人が発作中の記憶はありません。
ただし、昏睡状態が長く続くと、意識が戻らないまま死に至る、あるいは脳浮腫を起こす危険性もあります。また、呼吸がうまくできなくなったり、代謝異常を起こしたりすることで、胎児の命にも危険が及ぶこともあるので早い段階での処置が大切です。
子癇発作の治療法は?
子癇発作の治療法は、まず痙攣を抑えることが第一です。痙攣を抑えるために抗痙攣薬や硫酸マグネシウムを投薬します。血圧を下げる降圧剤や鎮静剤なども使って症状を落ち着かせていきます。
痙攣が落ち着いたら、安静な状態を保ちます。光や音などの強い刺激は発作を誘発する可能性があるので、妊婦さんは暗く静かな場所で体を休めます。
また、子癇発作を起こした場合は胎児にも危険が及ぶことがあり、胎児の呼吸機能などがある程度成熟していれば、痙攣が落ち着いたあとにすぐ帝王切開を行うことが多くあります。
しかし、胎児がかなり未熟であれば、しばらく分娩のタイミングを待つこともあります。このように、子癇発作が起きた場合の対処としては、母体と胎児の状態を慎重に見極める必要があります。
子癇発作が起きたらどう対応すればいい?
妊婦さんに子癇発作が起きた場合は、すぐに救急車を呼んでください。そして、救急車が到着するまでの間は、刺激の少ない部屋で安静にさせてください。
そのとき、妊婦さんのあごを引き上げて気道を確保し、誤嚥防止のために顔を横に向けておきましょう。指を噛まれてしまう危険があるため、口の中には手を入れないようにしましょう。
救急車内では酸素の吸入や舌を噛まないように舌圧ヘラなどで舌を抑えるといった処置が取られることがあります。
妊娠中は子癇発作の予防を心がけよう
子癇発作を起こしてしまうと対処が難しいので、発症させないことが大切です。妊娠高血圧症候群がある、10代での妊娠、初産、多胎妊娠など、子癇発作の危険因子がある人は特に注意し、かかりつけの産婦人科医の指導に従って生活しましょう。
なお、子癇発作は産後にも発症することがあるため、頭痛や目のチカチカなどの前兆があれば、出産や育児による疲れのせいだと軽く考えず、すぐに産婦人科を受診してください。特に妊娠高血圧症候群の場合、産後3ヶ月までは悪化することがあるため、産後しばらくは注意が必要です。
無事に出産すればひと安心、とママも家族も思ってしまいがちですが、赤ちゃんだけでなく産後のママの体調にも十分気を配り、子癇発作の前兆と思われる症状が現れたときにはすぐ病院を受診できるようにしておいてくださいね。