「うれしいはずの妊娠なのに、なぜだか気分が沈みがち」という人は、実は多いといわれています。妊娠中はホルモンバランスが大きく変わる時期なので、ある程度イライラしたり悲しくなったりすることは、おかしなことではありません。しかし、あまりにも様子がおかしい、いつまで経っても気分が良くならないと感じたら、「妊娠うつ」かもしれません。今回は妊娠うつの原因や症状、診断方法のほか、予防法や対策についてもご説明します。
妊娠うつとは?
「妊娠うつ」とは、その名のとおり、妊娠中にうつのような精神的症状が現れる状態を指します。
日本産婦人科医会によると、妊娠うつは約10%の妊婦さんに見られます(※1)。
そもそも女性は、生理周期にともなって毎月ホルモンバランスの変化があるということもあり、男性の2倍うつ病になりやすいといわれています(※2)。
それに加えて、妊娠中の不安や周囲からのサポート不足などがあると、妊娠うつを引き起こすリスクが高くなると考えられています(※1)。
妊娠うつの症状は?
個人差はありますが、妊娠うつの主な症状としては次のようなものがあります。
- 涙もろく落ち込みやすくなる
- わけもなくイライラし、家族などに当たってしまう
- 無気力になり、今まで楽しめたことにも興味がなくなる
- 眠れない、疲れやすい、食欲がない
妊娠中は誰にでもこうした症状は起こりうるものですが、「症状があまりにもつらい」「一時的ではなくずっと症状が続く」といった場合は治療が必要になることもあります。
普段からストレスを溜めがちな人や、妊娠・出産への不安が特に強い人、パートナーや周囲からのサポートが得にくい人、過去に精神疾患にかかったことがある人などは、妊娠うつになるリスクが高いと考えられるので、特にケアが必要です。
妊娠うつを引き起こす原因は?
赤ちゃんがほしいと思っていた人にとって、妊娠はとてもおめでたいこと。しかし、女性にとっては心身ともに大きな負担を伴うことでもあります。
次のような要因によって妊娠うつを発症する可能性がありますが、精神的なストレスがたまったとしても、「もっとちゃんとしなきゃ」と思い悩まないでくださいね。
心身の負担
- ホルモンバランスが大きく変わり、心身の状態が変化する
- つわりをはじめ、さまざまなマイナートラブルが起こる
出産や育児への不安
- 体がどんどん変化していくことへの不安がある
- 自分の生活が胎児に影響を与えるのではないか、と常に緊張している
- 切迫流産や切迫早産などで子供を失うかもしれないと不安になる
- 過去の流産・早産などの経験から、妊娠の継続に自信が持てない
- 自分で自分の体をコントロールできず、無力感や自責感を覚える
- お産そのものや、母親になることへの不安がある
- 出産後の仕事や経済面への不安がある
妊娠に伴うストレス
- 環境の変化によるストレス(仕事との両立、退職、産休など)
- 行動の制限で感じるストレス(飲酒・喫煙の禁止や食事制限など)
- 周囲の人から感じるストレス(パートナーの無理解、両親・義両親の過干渉など)
- 予定外の妊娠など、妊娠そのものを喜べない状況
妊娠うつの診断方法と対策は?
妊娠中にうつのような症状が見られたら、まずはかかりつけの産婦人科で相談しましょう。場合によっては、産婦人科から心療内科や精神科を紹介してもらえることもあります。
うつの診断方法は、本人または家族への問診が基本です。そこで妊娠うつと診断されたら、カウンセリングなどの心理療法や行動療法などで治療します。
症状によっては、抗うつ薬などが最小限処方されます(※2)。妊娠中に薬を飲むことに抵抗を感じるかもしれませんが、お腹の赤ちゃんへの影響ができるだけ少ない薬が処方されます。
うつ病を治療せずに放置してしまうと、症状が悪化してしまったり再発してしまったりする恐れがあるので、専門医による適切な治療を受けて改善することを最優先に考えてください。
日常生活では、家事や仕事の量をセーブしてリラックスして過ごすようにしましょう。母体と胎児のためには、体を休めて健康的な生活を送ることが大切です。
妊娠うつを予防するには?
妊娠うつを予防するために心がけたいことを、いくつかご紹介します。
周りにサポートしてもらう
仕事や家事、上の子の育児などをすべて一人でこなそうと頑張らないようにしましょう。
パートナーや周囲の人の力は遠慮せず借りたり、家事代行サービスなどを利用したりするのも一つの手です。
軽い運動でストレスを発散させる
体調がよければ、かかりつけの産婦人科医に相談したうえで、マタニティヨガやマタニティスイミングなどを始めてみるのも良いでしょう。
自宅のまわりをゆっくり散歩するだけでも気分転換になりますし、運動不足が解消されて一石二鳥です。
相談できる人をつくる
何か不安なことがあれば遠慮なく話せる相手が何人かいると理想的ですね。旦那さんだけでなく実母や姉妹、親しい友人、母親学級や病院で知り合った人など、同性の相談相手もいると心強いかもしれません。
そうした人が身近にいなければ、地域の無料相談窓口をうまく活用するのもおすすめです。各自治体に「女性健康支援センター」があり、妊娠中の悩みについて電話やメール、対面などで相談することができます(※3)。
インターネットを使うのも便利ではありますが、情報に踊らされすぎないよう注意しましょう。
「妊娠うつかも」と思ったら、一人で抱え込まないで
妊娠・出産の経過は個人差が大きく、また、同じ人でも1人目と2人目以降でまったく状況が異なることもあります。「ほかのママは元気に過ごしているのに」「前回の妊娠では、こんなふうではなかったのに」と比べたりせず、つらいと思ったらすぐにかかりつけの産婦人科やパートナー、周囲の人などに相談しましょう。
元気な赤ちゃんを産むことを最優先に考え、できるだけ穏やかなマタニティライフを送れるといいですね。