突然、子供が白目をむいて、両手足をピンと伸ばしたままガクガク震え出したら、パニックを起こしてしまうのも無理はありません。発熱とともに起こるけいれんは、「熱性けいれん」といい、赤ちゃんや幼児によく見られる症状です。今回は、子供が熱性けいれんになっても落ち着いて対処できるように、原因や症状、対処法のほか、後遺症は残るのか、てんかんとの違いなど、よくある質問についてご説明します。
熱性けいれんとは?原因は?
熱性けいれんとは、38度以上の発熱後に起こるけいれんのことを指します。風邪やはしか、インフルエンザなどの感染症で熱が上がってから、12時間以内に発症することが多いとされています。
熱性けいれんは生後6ヶ月~3歳までの乳幼児に多く見られます。このくらいの年齢の子供は脳が未熟なため、高熱のストレスにより脳内になんらかのトラブルが発生して起こると考えられています。しかし、けいれんが起きるメカニズムに関しては、まだはっきりしたことがわかっていないのが現状です。
日本では、7〜10%の割合で熱性けいれんを発症し、両親や兄弟など近い身内に熱性けいれん経験者がいると発症率が高まるといわれています(※1)。
熱性けいれんの症状は?
熱性けいれんの症状としては、熱が出始めてから12時間以内に、手足を硬直させてガクガクとけいれんを起こすことが挙げられます。けいれんの持続時間はたいてい10分以内です。
場合によっては白目をむいて泡を吹いたり、皮膚や粘膜が青紫色になるチアノーゼを起こしたりする子供もいます。
熱性けいれんは、生涯で1回だけしか経験しない子供が過半数を占めるものの、2回経験する子供は約30%、3回以上は9%ほどの割合でいます(※1)。熱性けいれんが収まってホッとしたのもつかの間、2回目のけいれんがあっても慌てないようにしましょう。
熱性けいれんの対処法は?
子供が熱性けいれんを起こしたとき、まず大切なのはママやパパができるだけ冷静になることです。熱性けいれんは30分以上と長時間続くことは少なく、脳に悪影響を与えることは少ないので、落ち着いて対応してください。
熱性けいれんが起こったら、まず時計を確認して「けいれんが続いた時間」と「けいれんが治まってから意識が戻るまでの時間」を計っておきましょう。もし5分以上けいれんが続いたり、治まっても意識がなかなか戻らない場合には、病院への診察が必要です(※1)。
また、時間を計測しながら、次のような対処を行ってあげましょう。
● 息がつまらないように、頭をすこし後ろに反らせて気道を確保する
● 嘔吐時に窒息しないよう、体を横向きに寝かせる
● 衣服がきつそうならゆるめてあげる
● 平らなところに寝かせる
熱性けいれんを発症したら、リラックスさせて安静にしてあげましょう。けいれんが治まった後も、呼吸が乱れていないか顔色が悪くないかなどをしばらくの間は見守っていてくださいね。
熱性けいれんに対処するときの注意点は?
熱性けいれんが起きているときに、やってはいけないこともあります(※1)。
たとえば、大声で呼びかけたり激しく揺さぶったり、頬を叩いたりするなどの刺激を与えることです。子供が意識をなくすとびっくりして思わず何かをしてあげたくなると思いますが、かえって症状を悪化させてしまいます。
また、硬直したときに舌を噛まないようにと口に割り箸や指などを突っ込む人がいますが、噛む力がかなり強く、かえって子供の口の中を傷つけたり、誤飲を招いたり、あるいは自分の指を傷つけたりするので、やらないようにしてください。
基本的に、熱性けいれんが起きたときに自分で舌を噛むことはありません。
複雑型熱性けいれんとは?病院へ行くべき?
ほとんどの熱性けいれんは、一時的なもので神経異常などを引き起こすことはないので安心してください。しかし、けいれんの現れ方によっては注意が必要です。
一般的な熱性けいれん(単純型熱性けいれん)と異なり、以下のような特徴が見られるときには、「複雑型熱性けいれん」を疑う必要があります(※2)。複雑型熱性けいれんは脳の神経異常が原因の可能性があるため、病院で早期の検査が必要です。
複雑型熱性けいれんの特徴
● けいれんが長時間(15分以上)続く
● 発熱してから24時間以内に何度もけいれんが起きる
● けいれんが左右非対称、もしくは体の一部だけに起こる
初めての熱性けいれんは病院に行くべき?
単純型熱性けいれんであれば特別な治療は必要ありませんが、初めてけいれんを起こしたときには、念のため小児科を受診してください。その際には、けいれんが続いた時間やけいれん中の症状、けいれん後に意識を取り戻すまでの時間を伝えると診断がスムーズですよ。
また、複雑型熱性けいれんの特徴が出ていた場合は、受診時にその特徴を伝えると、多くの場合すぐに血液検査などの対応が必要になります。
熱性けいれんで救急車を呼んでもいい?
特に高熱が出やすい夜間に子供が熱性けいれんを発症すると、病院が開いていない時間のため不安になりますよね。単純型熱性けいれんであれば救急車を呼ぶ必要はないものの、不安であれば救急車を呼んでも問題ありません。
けいれんが長く続く、左右非対称なけいれん症状があるなど、複雑型熱性けいれんの可能性があるときは、迷わず救急車を呼んだ方がいいでしょう。
熱性けいれんで入院することもあるの?
単純型熱性けいれんであれば入院等は不要ですが、複雑型熱性けいれんでは入院をすすめられることも多くあります。長時間のけいれんの原因を突き止めるため、頭部の画像検査・髄液検査などを行うこともあります。
またけいれんが繰り返し起こるときなど、パパやママの精神的不安をサポートするために、医師が入院治療を選択することもあります。入院が決まったからといって急に危険度が高まったということではないので、入院理由などを聞いて落ち着いて対処しましょうね。
熱性けいれんは薬で予防できる?
熱性けいれんで病院の診察を受けた後、けいれんの再発予防としてダイアップ座薬(ジアゼパム)が処方されることがあります。これは、過去に15分以上のけいれんを起こした、複数回けいれんを起こしたことがある、体の一部だけ強いけいれんを起こした、などの経験がある子供が主に利用する薬です。
使用方法としては、37.5度以上に熱が上がったときに1回、8時間たっても発熱が続く場合はもう1回挿入します(※1)。ダイアップ座薬は鎮静剤の一種なので熱を下げる効果はありません。
実はダイアップ座薬でのけいれん予防は日本でしか取り入れられていません。海外では、「熱性けいれんは数分で収まり、脳にも影響がないので予防は不要」と考えられています。もし処方を希望するときには医師と相談の上、利用するようにしましょう。
熱性けいれんで後遺症は残る?
単純型熱性けいれんであれば、後遺症が出ることはほとんどありません。
しかし、複雑型熱性けいれんの場合は、脳の神経異常が原因となっている可能性があり、複雑型熱性けいれんを繰り返していると知能障害や運動障害などの後遺症が出る可能性があります。
熱性けいれんとてんかんの違いは?
複雑型熱性けいれんが続くと、後々「てんかん」を発症するリスクが高まります。てんかんは、熱性けいれんと症状は似ていますが、発熱などのきっかけとなる症状がありません。てんかんの患者は大脳の電気信号が過敏となっている傾向があり、それによりけいれんを繰り返します。
てんかんを発症すると、高熱が出なくても突然脳の神経回路が異常をきたしてけいれんが起きるため、日常生活に支障が出てしまいます。そのため、発作を起こさないために抗てんかん薬の内服などの治療が必要になります。
熱性けいれんと似た病気は?
熱性けいれんと似た病気には、てんかん以外にも以下のようなものがあります。これらの病気の場合のけいれんは、前述の複雑型熱性けいれんと同様に長く続きます。
5分以上けいれんが続く場合は、重篤な病気の可能性があるため、早急に病院を受診してください。
髄膜炎
脳の表面や脊髄を覆っている膜を、髄膜と言います。この髄膜にウイルスや細菌が侵入して炎症を起こし、高熱や嘔吐、頭痛といった症状があらわれるのが髄膜炎です。
髄膜炎には細菌が感染して起こる細菌性髄膜炎と、ウイルスなどが感染して起こる無菌性髄膜炎があります。特にけいれんが見られるのは、細菌性髄膜炎です。
細菌性髄膜炎は、B群レンサ球菌や肺炎球菌やインフルエンザ菌b型の感染によって起こります(※1)。早めに治療を行う必要があるので、気になる症状が見られたらすぐに病院に行きましょう。
ただしワクチンで予防できるものが多いので、しっかりと予防接種を受けることが大切です。
急性脳症
脳に何らかの異常が起こり、意識障害やけいれんなどの症状があらわれます。
インフルエンザやロタウイルス、マイコプラズマ、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)などの感染症から、脳症を合併する可能性があります(※1)。
ときには後遺症が残ったり、死に至ることもある注意すべき病気です。
熱性けいれん対策は高熱の予防から!
熱性けいれんは高熱をきっかけにして発症します。そのため、日頃から高熱を招くような感染症にかからないように予防することも重要です。
毎日のケアや予防接種で熱性けいれんのリスクを下げつつ、万が一のときの対処法をしっかりと覚えておくと安心ですね。