赤ちゃんはママのお腹のなかで羊水に包まれて生活していますが、まれにそのなかでうんちをしてしまい、その羊水を吸い込むことで「胎便吸引症候群」という病気を引き起こすことがあります。確率は低いですが、出産に際して誰にでも起こり得るものなので、しっかりと理解しておきたいですね。今回は新生児特有の病気「胎便吸引症候群」について、原因や治療法、後遺症はあるのかなどをご紹介します。
胎便吸引症候群とは?
「胎便吸引症候群」とは、赤ちゃんがママのお腹にいるときに、赤ちゃんのうんちである「胎便」を吸い込み、呼吸障害などを起こす病気です。英語の病名を略して「MAS(Meconium Aspiration Syndrome)」と呼ばれることもあります。
赤ちゃんが羊水のなかに胎便を排出してしまう確率は、妊娠37~41週の正期産で約10%、妊娠41週以降では15~20%の割合で見られます。しかしその全てが胎便吸引症候群になるわけではなく、そのうちの約5%が胎便吸引症候群を発症するといわれています(※1,2)。
また、羊水のなかで胎便が排出されると、羊水が透明ではなくなり、「羊水混濁」が起こります。
胎便吸引症候群の原因は?
胎便は本来、赤ちゃんが生まれてきた後にするうんちのことなので、お腹のなかにいるときは排出されません。
しかしまれに、羊水中の赤ちゃんが低酸素状態に陥ると、腸の働きが活発になるうえに、肛門の括約筋が緩み、羊水のなかに胎便を排出してしまうことがあります。
そして、低酸素状態などのストレスのせいで赤ちゃんが羊水内で激しくあえぐと、羊水と一緒に胎便を吸い込んでしまい、胎便吸引症候群になることがあるのです。
生まれて最初の呼吸で、胎便を含む羊水が気道のなかに入ってしまうことでも、胎便吸引症候群が起こることがあります。
胎便吸引症候群の症状は?後遺症がある?
胎便吸引症候群になっても、赤ちゃんは無事に生まれてこられることがほとんどですが、出生後には下記のような症状が現れることがあります。これらが見られたら胎便吸引症候群を疑い、さらに詳しい検査や治療を行います。
呼吸障害
胎便を吸い込むと、気道が閉塞され、それより奥にある肺に空気が入らなくなる、気道が詰まったようになる、肺に炎症が起こる、呼吸に欠かせない「肺サーファクタント」が作られなくなるなどの影響があるため、呼吸器に障害が起こります。
そのため、生まれてからの呼吸が速い、息を吸い込むときに胸の下の辺りがへこむ、息を吐くときにうなり声を出すといった呼吸障害が見られることがあります。これらの呼吸症状は、治療を行ってから7~10日間ほどで回復します(※1)。
見た目の症状
胎便の影響で、皮膚や爪、臍帯が黄色がかっていたり、呼吸困難で皮膚が青紫色になったり(チアノーゼ)と、見た目に症状が出ることもあります。
合併症
胎便吸引症候群になると、肺炎や気胸、低酸素性虚血性脳症などの合併症が引き起こされることもあります。
これらの症状は治療をすれば治まることがほとんどですが、胎便吸引症候群になると、のちに喘息の発症リスクが高まるとの報告があります(※2)。
胎便吸引症候群の治療法は?
生まれたときに赤ちゃんが胎便で覆われて、呼吸に影響が出る場合は、赤ちゃんの口や鼻、のどから胎便を取り除くことがあります。
胎便によって呼吸が妨げられているようであれば、肺につながる気管内の胎便を吸入によって取り出し、洗浄を行います。必要であれば、多くの胎便を取り出すために、吸引や洗浄を何度も繰り返します。
また、肺に吸い込まれた胎便は肺感染症のリスクにつながるため、取り除くと同時に、赤ちゃんに抗菌薬を投与し、NICUに入って酸素吸入を行うのが一般的です。
胎便吸引症候群による呼吸障害は数日以内に治まることがほとんどですが、症状がひどい場合は、人工呼吸器などを使って治療にあたることもあります。
また、産まれた赤ちゃんが仮死状態に至っていれば、けいれんや低血圧などに対する処置を行います。
胎便吸引症候群は心配しすぎないで
出産を控えて神経質になっているとき、もしくは分娩して、赤ちゃんが元気かどうか心配になっているときに、胎便吸引症候群が起こったと聞くと、とても心配になると思います。
しかし、胎便吸引症候群になっても、適切な治療を受ければほとんどの場合赤ちゃんは元気に育ってくれます。
トラブルが起こった際に適切な処置を早く受けるためにも、妊娠中は医師にこまめに体の状態を伝え、疑問に思うことがあったら、迷わず聞いてみましょう。心の準備をするためにも、不安は妊娠中に取り除いておきたいですね。