TOLAC(トーラック)とは?VBACとは違うの?

監修医師 産婦人科医 間瀬 徳光
間瀬 徳光 2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行って... 監修記事一覧へ

産婦人科を舞台にしたテレビドラマで扱われたことで、注目を集めるようになった「TOLAC(トーラック)」。初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。今回は、TOLACとはなにか?あわせてよく聞く「VBAC」とは違うの?という疑問にお答えします。

TOLAC(トーラック)とは?

第二子を妊娠した女性と家族
帝王切開での出産経験のある妊婦さんが、経腟分娩での出産にチャレンジすることを「TOLAC(Trial of labor after caesarean section/帝王切開後の自然分娩の試み)」といいます。

帝王切開の経験がある妊婦さんは、妊娠中または分娩中に子宮破裂を起こすリスクが、わずかながらあります(※1)。

1989年〜1991年までの、帝王切開経験者の次回妊娠時の帝王切開率は20〜30%でしたが、2010年には89%にまで上昇しているという報告があります(※1)。

しかし、帝王切開での出産は血栓症や膀胱・腸管の損傷のリスクがあること、そして帝王切開を2回くり返すと、次の妊娠時に子宮破裂のリスクがさらに高まることから、アメリカを中心に経腟分娩が見直されるようになってきました(※1)。

TOLACとVBAC(ブイバック)の違いは?

考える女性
かつては、帝王切開を経験したのちの経腟分娩をさす言葉として「VBAC」が使われてきました。

しかし、言葉の使用に混乱が生じたため、「帝王切開での出産経験のある妊婦さんが、経腟分娩にチャレンジすること」をTOLACとし、それが成功した結果をVBAC(Vaginal birth after caesarean/帝王切開後の自然分娩の成功)とすることになりました(※1)。

つまり、VBACに成功したという表現は誤用で、VBACはそもそもTOLACの成功を表す言葉です。

TOLACの成功率は?

成功と失敗の表示
TOLACの成功確率は60〜80%とされています(※1)。しかし、個々の症例ごとの、TOLACの結果を正確に予測する方法はまだありません。現時点では、ある程度の傾向が判明してきている段階です。

最初の帝王切開が、胎児機能不全や骨盤位妊娠などの理由からくるものであれば、TOLACの成功率は帝王切開の経験のない妊婦さんと差がありません(※1)。

しかし、最初の帝王切開が、難産によって取られた措置であった場合は、それ以外の理由による帝王切開の場合よりTOLACの成功率は低く、50〜70%と報告されています(※1)。

そのほか、高齢妊娠、妊娠40週以降、母体肥満、妊娠高血圧症候群合併、前回の妊娠からの期間が短い、胎児の体重が重いといったこともTOLACの成功率を下げる要因とされています(※1)。

TOLACの成功率が高い人も

帝王切開後に経腟分娩をすでに成功させている人、TOLAC中に陣痛誘発や促進を必要としなかった人は、成功率が高くなるという報告があります(※1)。

また分娩がスムーズに進んで、12時間以内(遅くとも24時間以内)に分娩が終了する場合も、成功する可能性が高いと考えられています(※1)。

TOLACのリスクは?

RISKのサイコロ
TOLACの安全性については、科学的な確実なデータはまだ存在していません(※1)。

TOLACが不成功だった場合は、緊急帝王切開を行います。

まれですが、子宮破裂が起きた場合は、輸血や緊急の子宮摘出術が必要となります。赤ちゃんには、中枢神経や呼吸・循環状態(血液の流れ)に重篤な影響を及ぼすことがあります。

子宮破裂はまれですが、発症するとママと赤ちゃんの生命に危険が及ぶ可能性があるため、注意が必要です(※1)。

TOLACでの子宮破裂率は0.4〜0.5%で予定帝王切開と比べると2倍ですが、高い確率ではありません。ごくまれではありますがママの命に関わるケースもあり、0〜0.01%と報告されています。一方、赤ちゃんの死亡率は0.5〜0.6%で、予定帝王切開と比べると約1.7倍です(※1)。

成功すれば手術のリスクが減ったり、輸血が必要になったとしても60%程度の量で済みます。また予定帝王切開では、その次の妊娠時に前置胎盤や癒着胎盤が発生する可能性が上がります(※1)。

TOLACできる人、できない人は?

診察を受ける夫婦
帝王切開での出産経験がある場合、帝王切開での出産を選択すると、次回の妊娠時に前置胎盤や癒着胎盤の発生が増加する可能性もあります(※1)。そのため、今後の妊娠計画も医師に伝えたうえで、慎重に分娩方法を決定する必要があります。

TOLACに挑戦できる条件として、以下の項目すべてを満たすことが求められるのが一般的です。また、医療施設ごとに細かい基準を設けている場合もあります(※1)。

書面で了承をしていること

分娩の方針を決定する際、医師は経腟分娩、帝王切開それぞれのメリットとリスクを十分に説明します。そのうえで、書面で了承が求められます

TOLACがリスクとなる要因がないこと

● 帝王切開の経験が1回で、かつ、子宮の下の部分を切る下腹部切開で行われたこと。そして、術後の経過が良好であること
● 狭骨盤や、胎児の頭と骨盤の大きさが釣り合っていない児頭骨盤不均衡がなく、子宮体部筋層まで達する手術や子宮破裂の経験がないこと

分娩を継続して監視する体制が整っていること

TOLACに精通した医師、助産師、および看護師が常駐し、分娩を監視する体制が確立していること

緊急手術の準備が整っていること

輸血の確保、緊急帝王切開、子宮破裂に対する緊急手術がすみやかにできる体制にあること。また、緊急手術になるケースに備えて術前の検査が行われ、緊急手術の同意も得られていること

妊婦さんの過去の出産方法だけでなく、病院側の体制もTOLACに挑戦できるかの判断材料になります。TOLACを検討している人は、早めにかかりつけの産婦人科医に相談するといいでしょう。

TOLACは、医師とよく相談して

生まれたばかりの赤ちゃんの指をにぎるママ
一般的に、帝王切開よりも経腟分娩での出産のほうが、回復が早く、早く退院できることが多いようです。そうしたことも含め、帝王切開での出産経験のあるママでも、チャンスがあれば経腟分娩にトライしたいと思っている人もいるのではないでしょうか?

TOLACのメリットがママと赤ちゃんそれぞれにあるとともに、低いながらリスクが伴うのも事実です。分娩方法を決定する際は、過去の出産方法やその後の経過具合、次の妊娠の希望の有無も含めて医師に相談し、慎重に決めるようにしましょう。

家族との相談はもちろん、ママ自身もどのような分娩に臨みたいかも含め、赤ちゃんを迎える準備を進めてくださいね。

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