「胞状奇胎」という言葉を聞いたことがありますか?妊婦さんのうち約1,000人に1人という確率で起こるといわれる異常妊娠です。確率はあまり高くないので知名度も低いものの、絨毛がんという悪性腫瘍になってしまうリスクもある病気です。今回は、胞状奇胎の原因や症状、治療法、妊娠・出産への影響などについてご説明します。
胞状奇胎とは?「ぶどう子」とも呼ぶ?
受精卵が子宮内膜に着床して妊娠が成立すると、受精卵は胎児へと変化する「胎芽細胞」と、胎盤や卵膜へと変化する「絨毛細胞」にわかれます。
「胞状奇胎(ほうじょうきたい)」とは、この絨毛細胞だけが異常増殖を起こして水疱状(ブツブツの状態)になり、やがては子宮の中を覆いつくしてしまう病気です。
増殖した絨毛細胞がフルーツのぶどうの房のように見えるので、「ぶどうっ子」「ぶどう子」という通称で呼ばれることもあります。
胞状奇胎の原因と種類は?
胞状奇胎は、卵子の染色体異常により正常な受精が起こらないことが原因だと考えられています(※1)。
胞状奇胎は主に2種類あります。一つは、遺伝子の核がない卵子の核に、1つまたは2つの精子が受精して作られる「全胞状奇胎」。もう一つは、正常な1つの卵子に2つの精子が受精することで起こる「部分胞状奇胎」です。
40歳以上の高齢妊娠の場合、40歳未満の人の妊娠と比べて胞状奇胎が起こる頻度は30~40倍とされ、一度胞状奇胎になったことがある人の場合は、そうでない人と比べると、次の妊娠でも胞状奇胎になりやすいとされます(※2)。
胞状奇胎の症状は?
胞状奇胎が発生すると、妊娠初期に不正出血や重いつわりなどの自覚症状が現れてきます(※2)。
ただし、最近では超音波(エコー)検査により、早期に異常が発見できるようになったので、これらの症状が見られるとは限りません。
胞状奇胎はエコーでわかる?hCG値で診断できるの?
胞状奇胎は、先述の自覚症状よりも先に、エコー検査とhCG値の検査によって見つかることが多くあります(※1,2)。
エコー検査で見つかる異常
正常妊娠であれば、妊娠検査薬で陽性反応が出たあと産婦人科でエコー検査をすると、妊娠5~6週頃までに子宮内に「胎嚢(たいのう)」という赤ちゃんを包む袋が見られます。
しかし、全胞状奇胎が起こっている場合、子宮内には胎嚢の代わりに多数の小さな嚢胞(球状の袋)が見られたり、子宮内部の形がいびつに変わったりします。
部分胞状奇胎の場合は、全胞状奇胎と同じ変化が見られるだけでなく、胎嚢や胎芽(赤ちゃんの元となる細胞)、卵黄嚢(赤ちゃんの栄養袋)などの胎児の成分も認められるのが特徴です。
hCG値検査で見つかる異常
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠すると絨毛細胞から分泌されるホルモンです。妊娠検査薬は、このhCGを検出して陽性反応を示す仕組みになっています。
正常妊娠の場合、hCGの分泌量は妊娠10週頃にピークを迎え、その後ゆるやかに減少していきます。
しかし、胞状奇胎の場合は絨毛細胞が異常増殖しているので、正常妊娠よりもhCG値が高くなり、妊娠10週を過ぎてもhCG値が高いまま維持されることも多くあります。
胞状奇胎の赤ちゃんへの影響は?
胞状奇胎になると、基本的には妊娠を継続することはできません。妊娠初期のうちに流産となってしまうか、胞状奇胎と診断されたあとすぐに手術で妊娠を中断することになります(※1,2)。
ただし、まれなケースとして、全胞状奇胎と正常な胎児の両方が子宮内に見られる「胎児共存奇胎」の場合、赤ちゃんを出産できる可能性もゼロではありません(※1)。
しかし、胞状奇胎を治療しないまま妊娠を継続させることになると、胞状奇胎が絨毛がんへ移行したり、母体に妊娠高血圧症候群を合併したりするリスクを伴うため、慎重な医師の判断や検査が必要です(※1)。
胞状奇胎の治療法は?
治療法としては、胞状奇胎を摘出することが第一で、次のような手術が行われます。
子宮内容除去術(胞状奇胎除去術)
子宮内にできている胞状奇胎を掻き出し、中身を完全に取り除く手術です。
1回目の子宮内容除去術が終わったあと、エコー検査をして子宮の中にまだ残っているものがある場合は、再手術を行うこともあります。
全胞状奇胎の場合は特に、除去したあとも再発したり、絨毛がんなどの絨毛性疾患を発症したりするリスクがあるので、術後も数ヶ月にわたってhCG値測定とエコー検査によるフォローが必要になります(※1)。
化学療法・子宮全摘出術
子宮内容除去術で胞状奇胎を取り除いたあと、あまり経過が順調ではなく、胞状奇胎が子宮筋層内にまで侵入する「侵入奇胎」が見られることがまれにあります。
侵入奇胎は、薬の投与による化学療法によりほとんどの症状が治まります。
ごくまれに状態が悪ければ、肺などに転移する前に子宮を丸ごと取り除く子宮全摘出術を行うこともあります。
胞状奇胎の予防法は?治療後、いつから妊娠できるの?
胞状奇胎は先天性の染色体異常が原因と考えられるため、予防する方法はありません。
胞状奇胎の手術後に妊娠を希望する場合は、hCGの数値が一定以下になるまで管理・経過観察が必要になるので、医師の許可が出るまで約6ヶ月間は避妊してください(※1,2)。
期間を空けずに妊娠してしまうと、胞状奇胎の経過が良くなくてhCG値が高いままなのか、それとも次の妊娠によってhCGの分泌量が増えているのか判断ができなくなってしまうためです。
「できるだけ早く赤ちゃんを授かりたい」という人も、まずはママの体調回復を第一優先にして、次の妊娠のタイミングについてはかかりつけ医と相談しましょう。
胞状奇胎後の妊娠はゆっくり検討しましょう
妊娠検査薬で陽性が出て喜んだのもつかの間、胞状奇胎と診断されるとショックを受けるかもしれません。最近では、エコー検査によって早期発見できることが多く、適切な治療をすれば次の妊娠を望むこともできます。
治療後の経過観察期間は避妊する必要がありますが、あまり焦りすぎずゆっくり体を回復させることに専念してくださいね。