おたふく風邪といえば、子供がかかる流行り病の代表的なものです。ワクチンを予防接種で受けることもできますが、数年おきに大流行が起き、多くの子供がおたふく風邪にかかっていました。今回はおたふく風邪について、症状や治療法、また潜伏期間や感染力の強さなど、さまざまな角度からご紹介します。
おたふく風邪とは?
「おたふく風邪」は俗称で、正式名称は流行性耳下腺炎といいます。発熱や耳下腺(耳たぶの手前からあごにかけて)が炎症を起こす病気で、ムンプスウイルスというウイルスの飛沫・接触感染による感染症です。
3~4年ごとに流行し、最近ではもっとも多かった2005年で135万人、もっとも少なかった2007年でも43万人の患者に感染が確認されています(※1)。
おたふく風邪は子供がなる?大人はならない?
おたふく風邪にもっともかかりやすいのは4~6歳の子供ですが、大人がかかることもあります(※2)。思春期以降で初めておたふく風邪にかかると、合併症の確率が高くなり、より重症化しやすくなります。
ただし一度おたふく風邪にかかると抗体ができるため、2度目はなりにくい傾向があります。
おたふく風邪の症状は?
おたふく風邪は、耳下腺の腫れや痛み、発熱から発症することが多い病気です。ただし耳下腺が腫れる1~2日前から、全身のけだるさや頭痛、腹痛、食欲不振などが見られることもあります(※1)。
通常、発熱は3~4日間続き、耳下腺の腫れは3日頃にピークを迎えます。耳下腺の腫れは、最初は片側だけですが、その後にもう片方も腫れることが多く、1週間程度の時間差が生じることもあります。
また耳下腺だけでなく顎下腺(あごの下側)が腫れることもあり、耳下腺は腫れずに顎下腺だけが腫れることもあります。
さらに紛らわしいのが、ワクチンを接種したのにおたふく風邪にかかった人は、耳下腺や顎下腺の腫れがほとんど見られず、発熱も軽い場合があります。
おたふく風邪の潜伏期間や感染力、合併症は?
おたふく風邪を引き起こすムンプスウイルスの潜伏期間は、通常16~18日と長く、耳下腺が腫れる6日前から9日後の間に、唾液中にウイルスが混ざります(※1)。
ウイルスが排出される期間が長く、症状が出る前から排出され始めるため、感染が広がりやすいのが特徴です。また、ウイルスに感染しても約30%は症状が出ず、感染が広がる一因となっています(※2)。
おたふく風邪が引き起こす合併症としては、以下のようなものが挙げられます。
髄膜炎、髄膜脳炎
一度は熱が下がったのに再び発熱して、頭痛がみられる場合は、髄膜炎が合併する可能性があり、その発症確率は1~10%です(※2)。発熱や嘔吐、頭痛、食欲不振などの症状が見られ、症状がひどく食べられないなどの場合は入院になることもあります。
また発症率は0.02~0.3%と高くはありませんが、意識障害などを伴う脳炎にかかることもあります(※2)。
難聴
片側、もしくは両側の耳に難聴の症状が現れることがあり、発症率は0.01~0.5%とされています(※2)。難聴になると、人工内耳埋込術等が必要になることもあります。
睾丸炎、副睾丸炎、卵巣炎
睾丸炎、副睾丸炎は思春期以降の男性の約20~40%にみられます(※2)。耳下腺炎が発症したあと1週間以内にかかり、悪寒や再発熱、陰嚢の腫れや痛みがあります。これにより精子の数が減少してしまいますが、不妊症の原因になるほどではない、とされています。
また卵巣炎は思春期以降の女性の約5%にみられ、下腹部に痛みを感じます。これらのほか関節炎などの合併もあります。
おたふく風邪はどう診断する?治療法は?
おたふく風邪は流行性の病気なので、流行している時期に発熱した際は、おたふく風邪を疑うことになります。診断は、耳下腺や顎下腺が腫れているかを触診で確認することや、エコー検査で特徴的な所見があるかどうかを診ます。
ただし前述したとおり、おたふく風邪を引き起こすムンプスウイルスに感染していても症状がないこともあるので、診断時には感染しているかどうかを完全に見極めることはできません。
おたふく風邪にかかってしまっても、おたふく風邪特有の治療法はありません。安静を保ち、必要に応じて鎮痛剤を投与したり、脱水しないように水分を多くとったりして、症状がよくなるのを待ちます。
おたふく風邪のワクチンはいつ予防接種する?
おたふく風邪にかかった子供は、登園・登校に対して制限があり、「耳下腺、顎下腺が腫れたあと5日後、かつ体の状態が良くなるまで」とされています(※1)。
また、おたふく風邪を予防するワクチンは1歳以上で、2回接種することができます。ただし任意の予防接種で費用は自己負担となるため、日本のワクチン接種率は30%ほどにとどまっているといわれています(※1)。
日本小児科学会では、確実に免疫をつけるためにワクチン接種を2回行うことを勧めています。1回目の接種を生後12~15ヶ月、2回目の接種を5~6歳の間で推奨していて、2回行えば90%以上の確率でおたふく風邪にかからなくなります(※2,3)。
なおワクチンを接種した際の副反応(副作用)としては、無菌性髄膜炎が挙げられます。しかし、その発生率は0.005%と、ワクチンを接種せずにおたふく風邪にかかって髄膜炎を合併する可能性より大幅に低くなっています(※2)。
おたふく風邪の症状が出る前に…予防接種で防ごう
おたふく風邪は必ずしも命にかかわるような病気ではありませんが、特に幼稚園や小学校に通う子供がかかると、登園・登校に大きな影響があります。
また大人になってからかかると重症化することもあるので、可能であれば予防接種を早めに受けることをおすすめします。