出産時のトラブルの一つに「回旋異常」という症状があります。赤ちゃんが分娩時にうまく回りながら出てこられない状態を指し、分娩中に判明することも少なくありません。安心して出産するために、回旋異常とは何か、原因や対処法、後遺症が残るのかについてご説明します。
回旋異常とは?
出産には、ママと赤ちゃんそれぞれの協力が必要です。ママは陣痛に合わせていきみ、赤ちゃんは産道を通るときに、上手に体の向きを変えながらママの骨盤内に降りてきます。この動きを「回旋」といいます。
回旋異常とは、赤ちゃんが降りてくるときに正常な回旋ができず、うまく産道を通れないために分娩が難しくなってしまう状態のことをいいます。
出産時の正常な回旋とは?
出産時の正常な回旋は、次に挙げる順番で起こります。全部で4段階の回旋がありますが、特に第1回旋、または第2回旋のときに回旋異常が起こると、分娩の進行を妨げてしまいます(※1,2)。
第1回旋
赤ちゃんは体を横向きにして背中を少し丸め、顎を引き、腕組みをして、あぐらを組んだような姿勢をとって、できるだけ顎・腕・足を胸につけるようにして、後頭部から降りてきます。この姿勢が最も体を縮められるので、産道を通りやすくなるといわれています。
しかし、このとき次のような回旋異常が起こることがあります。
- 後頭部ではなく、頭頂部から降りてくる(頭頂位)
- 少し頭が反り、前頭部から降りてくる(前頭位)
- さらに頭が反り、おでこから降りてくる(額位)
- かなり頭が反り、顔面から降りてくる(顔位)
第2回旋
第1回旋を終えたあと、赤ちゃんの頭が骨盤内を降りていくときに、頭を横に向けて産道に入り、徐々に回転しながら下降していきます。第2回旋が正常であれば、産道から出るときには赤ちゃんの顔がママの背中側を向いた状態になります。
しかし、ここでうまく回転できずに下降してしまうことが、稀にあります。赤ちゃんが横向きのまま降りてしまう回旋異常を「低在横定位」といい、赤ちゃんの顔がママのお腹側を向いて降りてくるものを「後方後頭位」といいます。
いずれにしても、第2回旋がうまく行かないと赤ちゃんの頭が引っかかってしまい、スムーズに産道を通れなくなってしまいます。
第3回旋
赤ちゃんは骨盤の出口までくると、後頭部を恥骨の下で固定して、ここを支点に顎を突き出すようにして額から出てきます。
第4回旋
頭部が出てきたら、赤ちゃんの体は再び横向きに戻ります。その後、赤ちゃんの全身が出てきます。
回旋異常が生じる原因は?
回旋異常が起こる原因には、母体側だけでなく、胎児側に原因があることもあります(※1,2,3)。
母体側の原因
子宮筋腫がある、骨盤が広すぎる、仙骨が扁平である、産道が広すぎるなど
胎児側の原因
胎位異常(逆子など)、水頭症、無脳症、巨大児/低体重児、胎児の頭が大きい/小さいなど
回旋異常の対処法は?
回旋異常は、お産の前に内診で判明することもあります。しかし、陣痛が来て、子宮口が開くのを待っている間、分娩がスムーズに進まないことから回旋異常が判明する、ということもあります(※2,3)。
自然分娩できるの?
回旋異常があっても、骨盤が広く、陣痛も十分に来ているときには、そのまま自然分娩(経膣分娩)を継続できることもあります。
子宮口が全開大になってから、胎児機能不全などが見られ、急いで赤ちゃんを取り出す必要があれば、会陰切開を行ったうえで、吸引分娩や鉗子分娩で対処することもあります。
吸引分娩や鉗子分娩で赤ちゃんの頭を引っ張ると、まれに頭血腫ができることもありますが、しばらくすると自然に消えるため、基本的に治療の必要はありません(※3)。
帝王切開になることもあるの?
できるだけ自然分娩で産みたい、というママもいるかもしれませんが、回旋異常が起こると、緊急帝王切開をせざるを得ないこともあります。
これは、赤ちゃんがうまく産道を降りてこられないことで分娩が長引くと、ママと赤ちゃんの両方に負担がかかってしまい、命に危険が及ぶこともあるからです。
分娩中に突然、帝王切開に切り替えることになるとママは焦ってしまうかもしれませんが、「異常があれば分娩方法が変わるかも」という心構えを持ってお産に臨めるといいですね。
回旋異常でも、落ち着いてお産に臨みましょう
回旋異常が起こると、赤ちゃんがなかなか降りてこないので、難産になりやすい傾向にあります。母体と胎児の安全を考えて、吸引分娩や鉗子分娩、場合によっては緊急帝王切開になることもあり、焦ってしまうかもしれませんが、赤ちゃんに会えるまであと少し。なるべく落ち着いてお産に臨めるといいですね。