産まれてきた赤ちゃんにはすくすくと元気に育ってほしいものですが、赤ちゃんも病気にかかってしまうことがあります。赤ちゃんの病気には生まれつきのものもあり、その中のひとつに「クレチン症」があります。甲状腺機能低下症は大人もかかる病気ですが、先天的に赤ちゃんが発症することがあります。今回は、先天性甲状腺機能低下症とも呼ばれる「クレチン症」について、その原因や症状、治療法をまとめました。
クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)とは?
クレチン症は、のど仏のすぐ下にある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの産生が、生まれつき不足して起こる病気です。
先天性甲状腺機能低下症とも呼ばれ、0.05%程度の割合で発症するといわれています。症状も軽度なものから重度なもの、一時的なものまでさまざまです。
甲状腺ホルモンは、知能や身体の発達育に重要な働きをするホルモンですが、治療せずに放っておくと、知能や発達に遅れが出る、おもちゃや人に興味を示さなくなる、低身長になるなどの症状があらわれることもあり、早期発見と治療が重要な病気です(※1)。
クレチン症の原因は?
なぜ先天的に甲状腺の機能が低下するのか、その原因ははっきりとわかっていません。
生まれつき甲状腺がなかったり小さかったりする形成不全、甲状腺が別の場所にあるもの、甲状腺ホルモンを合成する過程に問題のあるもの、さらには脳内の視床下部・下垂体といった甲状腺ホルモンの分泌に関わる脳の機能に問題があるものまで、多岐に渡ります。
クレチン症の症状は?新生児期の赤ちゃんに現れる?
先天性甲状腺機能低下症になると、黄疸という目が黄色くなる症状が長引く、母乳の飲みが悪い、泣き声が弱くかすれている、手足が冷たい、元気がない、便秘、体重が増えないなどの症状が新生児の頃からあらわれます。
また、皮膚が乾燥気味、舌が大きくて口からよく舌を出す、まぶたや下腿(膝から足首までの部位)がむくんでいるなど、身体的な特徴も多く見られます。
クレチン症の検査方法は?どうやって発見するの?
クレチン症は、新生児マススクリーニング検査によって発見されることが一般的です。生後4〜7日頃の赤ちゃんのかかとから、ごく少量の血液を採取。その後検査センターに送り、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を検査します。
多くの赤ちゃんは生後3日を過ぎると甲状腺刺激ホルモンの血中濃度が10mIU/Lの値を下回るのですが、このカットオフ値を上回るときには、小児の内分泌疾患に詳しい医師がいる病院で精密検査を行うか、再度採血を行い、再検査を受けることになります。
クレチン症の治療法は?
クレチン症の治療としては、甲状腺ホルモンの内服が主な治療法です。内服量は、血液検査の結果を見ながら決めることになりますが、特に生後数ヶ月間は甲状腺ホルモンの働きが大切な時期なので、早めに治療を開始できるのが理想です。
クレチン症は生後すぐに受ける新生児マススクリーニング検査で見つかる場合がほとんどですが、まれに後になってからわかる場合もあります。
もしマススクリーニング検査で診断されなくても、赤ちゃんの様子を観察し、気になる症状があれば、早めに小児科を受診しましょう。
クレチン症の薬に副作用はないの?
クレチン症の治療に甲状腺ホルモンを服用しますが、ホルモンと名前がつくことからも副作用が気になる、というママやパパも少なくないようです。
ただ、基本的にクレチン症でもともと不足している甲状腺ホルモンを補うための服用なので、量の不足や過剰がなければ副作用は起こらないとされています。
ごくまれに、甲状腺ホルモン以外に含まれている成分で、アレルギー反応が起こることがあるといわれています。薬の服用後に、嘔吐や湿疹など気になる症状があれば、担当医に確認しましょう。
クレチン症は治るの?
一過性甲状腺機能低下症であれば、検査数値も確認しながら、甲状腺ホルモンの服用を途中で終了することも可能です。しかし、甲状腺がないなどの先天的な要因がある場合には治ることは難しく、薬の服用を続ける必要があります。
この甲状腺機能の低下が一過性なのか永続性なのかは、3歳以降の再検査によって判断することがあります。さらに甲状腺機能低下症の具体的な原因を検査する病型診断は、5~6歳の小学校入学前くらいに2、3日の入院を伴って行われることが多いようです。
病型診断では、一時的に甲状腺ホルモンの服用による治療を中断するため、甲状腺ホルモンの不足による影響がある程度少ない大きさまで、子供が成長してから行われるのが一般的です。
クレチン症の予防法は?
原因がはっきりしていないため完全に予防することは難しいのですが、妊娠中の過剰なヨード摂取が、胎児の甲状腺に影響を与える恐れもあるといわれています。
ヨードは身近な成分で、ワカメや昆布、海苔などの海藻類などさまざまな食品に含まれています。日本人の食生活を考えると、積極的に摂らなくても十分に必要量は満たすことができる栄養素です。
ただ、ワカメや昆布を摂らなくても、ラーメンやうどんなどの麺類の汁、調味料やインスタント食品にもヨードは含まれているため、過剰摂取しないように注意が必要です。
クレチン症は早期発見が大切
先天性甲状腺機能低下症という名前を聞くと何だか難しく不安に感じてしまいそうですが、甲状腺ホルモンの内服で、成長や発達への影響を抑えることができるため、とにかく早期発見が大切です。
また、発見が遅くても治療法はあるので、落ち着いて小児科医に今後の治療について相談しましょう。