発症すると重篤な状態になり、命に危険が及ぶ可能性もある感染症の1つに「日本脳炎」があります。日本脳炎には特効薬はなく、万一が起こらないようにその危険性を理解して、予防に努めることが大切です。今回は日本脳炎の原因や感染経路、症状、治療法、予防法などをご紹介します。
日本脳炎とは?
本脳炎は、日本脳炎ウイルスにより脳が炎症を起こす感染症です。「日本脳炎」という名前ではありますが、日本だけでなくベトナムやインドネシアといった東南アジアの国々でも流行することがあり、厚生労働省検疫所によると、世界的には毎年3万5千人~5万人の患者が発生しています(※1)。
日本国内では予防接種のおかげで患者数は減少しましたが、それでも毎年10名以下の患者が出ています(※2)。
日本脳炎ウイルスに感染したからといって、必ず発症するわけではなく、感染者のうち発症するのは約1,000人に1人といわれています。しかし、厚生労働省によると、発症した場合の死亡率は20~40%で、治癒しても45~70%の生存者に精神障害などの後遺症が残ります(※3)。
日本脳炎の原因は?感染経路は?
日本脳炎を引き起こす日本脳炎ウイルスは、主にコガタアカイエカなどの蚊を媒体として感染していきます。
ヒトからヒトへ感染することはなく、日本脳炎ウイルスに感染したブタを刺した蚊に刺されることで、ヒトは日本脳炎ウイルスに感染します。
コガタアカイエカはブタを好むため、ブタが多くいる養豚場がある地域や、蚊が多く生息する水田がある地域では感染リスクが高まります(※1)。
日本脳炎の症状は?
日本脳炎を発症した場合、感染から6~16日間の潜伏期間を経て、38以上の高熱や頭痛、めまい、吐き気、嘔吐といった症状が現れます。
子供が発症すると、多くの場合、腹痛や下痢を伴い、その後、意識障害や麻痺、痙攣といった症状が現れます(※4)。
日本脳炎の診断方法は?
日本脳炎が疑われる場合には、診断のために血液検査やぬぐい液などの遺伝子検索、
脳波検査が行われます。
血液検査では、血液を採取し、血液に含まれる抗体の量やウイルスの検索を行います。脳波検査では、脳の神経細胞からのわずかな電流を見て、脳に異常がないかを調べます。
この他にも、脳の髄液からウイルスを検出して診断されることがあります。
日本脳炎の治療法は?
日本脳炎に対する特効薬はありません。症状を抑える対症療法を行うのが基本で、特に高熱と痙攣への対処が大切です。
日本脳炎の症状が現れた時点で、脳細胞はウイルスによってすでに破壊されています。ウイルスに対する薬が開発されても、破壊された脳細胞の修復は依然として難しいため、日本脳炎はかかる前に予防することが肝心です(※2)。
日本脳炎の予防法は?
日本脳炎を予防するには、まずはワクチン接種を受けることです。厚生労働省によると、ワクチン接種を受けておけば、日本脳炎になるリスクを75~95%減らせるとされています(※3)。
日本脳炎のワクチン接種は、各市区町村が主体となって実施しており、国が定めた期間内に受ければ、定期接種として無料で受けることができます。予防接種は複数回受ける必要があり、生後6ヶ月以上90ヶ月(7歳半)未満の間に合計3回受ける第1期と、9歳以上13歳未満の間に1回受ける第2期で構成されています。
日本小児科学会が発表している標準的なスケジュールでは、以下のような目安でワクチン接種を行っていきます(※5)。
第1期予防接種
1回目と2回目のワクチン接種は3歳のときに行い、1回目と2回目は6~28日(1~4週)の間隔を空けます。そして、1回目から約1年の間隔をおいて、3回目のワクチンを受けます。
第2期予防接種
9歳(小学校3~4年生)のときに、ワクチン接種を行います。
また、ワクチン接種を受けるだけでなく、ウイルスの媒体である蚊に刺されないようにすることも一つの予防法です。
蚊が増える夏場に外出する時は、虫除けスプレーや虫除けシールを使い、長袖長ズボンを着せるようにしましょう。蚊が多く発生する草むらや川の周りに近づかせないようにすることも心がけてください。
日本脳炎の予防接種を忘れずに受けよう
日本脳炎は感染しても発症する人が少ないことから、「予防接種を受けなくても良いのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし、国立感染症研究所は、日本国内で日本脳炎を発症した人のほとんどが、予防接種を受けていなかったと発表しています(※2)。
日本脳炎は発症させると、重篤な症状になる可能性がある危険な病気です。万一のことも考えて、予防接種はきちんと受け、子供の健康を守っていきましょう。