無痛分娩のデメリットは?麻酔は痛い?母乳が出にくくなるの?

監修医師 産婦人科医 間瀬 徳光
間瀬 徳光 2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行って... 監修記事一覧へ

分娩時の痛みを麻酔でやわらげて出産する、無痛分娩。「お産の痛みが少なくなる」と聞くと惹かれるけれど、麻酔による影響が気になる…という人のために、今回は無痛分娩のデメリットに焦点をあて、麻酔の痛みや母乳への影響などもあわせてご説明します。

無痛分娩は本当に痛くないの?

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無痛分娩は、麻酔で陣痛の痛みをやわらげながら出産する方法です。日本も含め、多くの国では、下半身の痛みだけを取る「硬膜外鎮痛法」が実施されています(※1)。

麻酔がうまく効けば「痛みを軽くする」ことはできますが、痛みが完全になくなるわけではありません。また、分娩時にいきみが必要となることもあります。

無痛分娩は麻酔の痛みがあるの?

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前述の「硬膜外鎮痛法」で無痛分娩を行う場合、背中の脊髄に近い場所にある「硬膜外腔」に麻酔薬を注入します。

方法としては、まず背中を丸めてベッドに横向きに寝た状態で、細い針を刺して皮膚の痛み止めの薬を入れます。そして、やや太い針を背中に刺し、その針に通したチューブを通して麻酔薬を注入していきます。

針を刺すときに感じる痛みの程度には個人差がありますが、もともと注射が苦手な人などは、痛みを強く感じる人もいるようです。

無痛分娩のデメリットは?

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「お産の痛みが少ない」というのは無痛分娩のメリットですが、一方で次のようなデメリットやリスクがあることも知っておきましょう。

麻酔による合併症リスクがある

無痛分娩を行ううえでまず覚えておきたいのが、麻酔による合併症のリスクです。血管やくも膜下に誤って麻酔が注入されてしまうと、神経麻痺や呼吸のトラブルを起こすことがあります。

このトラブルは非常にまれですが、場合によっては呼吸が止まり、重大な脳障害が残る、または命にかかわる可能性もあります(※2)。

このトラブルが起こらないよう、産婦人科の医師ももちろん、緊急時に対応できるように準備を行っていますし、最近は専門の麻酔科医が対応することも多くなってきています。

陣痛促進剤による合併症リスクが増える

麻酔によって陣痛が弱くなる場合もあるため、無痛分娩では陣痛促進剤を使うことが増えます(※3)。

陣痛促進剤で人工的に陣痛を起こすと、子宮が過度に収縮してしまい、中にいる胎児が圧迫されて苦しくなってしまったり、子宮が破裂したりするリスクがわずかですがあります(※4)

器械分娩や帝王切開による負担が増える

麻酔で陣痛が弱くなり、お産がなかなか進まないこともあります。

分娩が長引きすぎると、母体と胎児に負担がかかってしまうので、吸引分娩や鉗子分娩など器械を使った分娩や、緊急帝王切開に切り替える場合もあります。

器械分娩や帝王切開も慎重に行われますが、何も器具を使わない自然分娩に比べると、手術が加わることによる、母体や胎児の体へのリスクは高くなります(※2)。

自然分娩よりも費用がかかる

無痛分娩には健康保険が適用されないため、通常の出産費用に加えて10万円程度の自己負担が必要となります。

また、無痛分娩の場合は、あらかじめ分娩日を決めて陣痛促進剤などで陣痛を促す「計画分娩(誘発分娩)」を行うケースもあり、陣痛促進剤を使う回数や入院期間によってさらに費用がかかります。

無痛分娩は母乳が出にくくなるの?

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無痛分娩では母体に麻酔薬を注入するため、産後の授乳に影響があるのかどうか気になりますよね。

日本産科麻酔学会によると、硬膜外麻酔を使って無痛分娩を行った場合、薬が母乳を通じて赤ちゃんに悪影響を与えることはほとんどないとされています(※1)。

ただし、これまでの研究によると、無痛分娩で出産した場合、母乳育児をする人の割合はやや少なくなり、母乳育児をする期間が比較的短くなる傾向があることが指摘されています(※5,6)。

子宮収縮を促し、陣痛を起こす「オキシトシン」というホルモンは、産後に母乳の分泌を助ける働きがあります。

無痛分娩で使われることが多い陣痛促進剤には、人工のオキシトシンが含まれるため、陣痛促進剤を使うことでママの体内で自然に作られるオキシトシンが減ることもあり、それによって母乳の作られる量が減少するのではないかとも考えられています。

そのため無痛分娩を行ったら、出産後の赤ちゃんとの触れ合いや、授乳の回数を増やすなどして、母乳の産生を促すことも大切でしょう。

無痛分娩はメリットよりデメリットが多い?

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ここまで、無痛分娩を検討するときに知っておきたいデメリットやリスクについて説明してきましたが、無痛分娩にはもちろん、様々なメリットがあります。

まず、麻酔によって分娩時の痛みが少なくなることで、お産がスムーズに進みやすく、母体の疲労感が軽くなるため、産後の回復が比較的早いといわれています(※1)。

また、無痛分娩は通常よりもいきみが少ない傾向にあり、呼吸を止めて力を入れなくて済むことが多いため、赤ちゃんへ送られる酸素量を保った状態で分娩できるともいわれています。

そのため、心臓や肺に持病がある妊婦さんなどは、無痛分娩を積極的に検討した方が良いこともあり、一概に、メリットよりデメリットのほうが多いとも言えません。お産のときの体への負担が心配な人は、無痛分娩についてかかりつけの産婦人科医に相談してみると良いかもしれません。

無痛分娩ができないケースもあるの?

注意

無痛分娩は、希望すれば誰でもできるというわけではありません。特に硬膜外麻酔の場合は、以下に該当するようなまれな場合には、実施できないこともあります(※1)。

● 血が固まりにくい体質である
● 大量出血や脱水を起こしている
● 背骨の変形や、背中の神経の病気がある
● 注射する部位に膿が溜まっている
● 高熱が出ている
● 局所麻酔へのアレルギーがある

上記以外にも、妊娠やお産の経過によっては無痛分娩ができないこともあるので、母体と胎児の安全を最優先に考え、医師とよく相談しましょう。

無痛分娩のデメリットも知っておこう

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無痛分娩は、陣痛がやわらぐことでお産がスムーズに進むといった良い面がある一方、麻酔を使うことによるリスクもいくつかあります。「痛いのはイヤだから」という理由だけで無痛分娩を選ぶのではなく、メリットとデメリットの両方を知ったうえで、家族や医師と慎重に検討してみてくださいね。

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