卵巣は、女性の妊娠や出産に深く関わる器官です。卵子を作り、成熟させ、排卵を起こす働きをするだけでなく、女性ホルモンを分泌する役割も担っています。しかし、卵巣は腫瘍などの病気にかかりやすい臓器でもあり、場合によっては不妊の原因になるので注意が必要です。今回は、不妊につながる可能性のある卵巣の病気についてまとめました。
卵巣が病気になるとどうなるの?
卵巣は、子宮から左右に伸びた卵管の先にある2つの器官で、親指くらいの大きさをしています。この卵巣の中に、卵子の元になる「卵細胞」と、それを包む「卵胞」が入っています。卵巣の中の卵胞は、「卵胞刺激ホルモン」の作用で発育し、やがて「排卵」へと至ります。
また、卵巣からは「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2種類の女性ホルモンが分泌され、これらの分泌バランスによって月経周期が作り出されます。
もし卵巣が病気にかかると、ホルモンバランスが崩れて月経不順や排卵障害などが引き起こされ、不妊につながる恐れがあります。
卵巣の病気の種類は?どんな症状が現れる?
卵巣にできる主な病気をご紹介します。
卵巣腫瘍
卵巣は、腫瘍ができやすい器官といわれており、腫瘍の性質によって「良性腫瘍」「境界悪性腫瘍」「悪性腫瘍」の3つに分けられます。
卵巣は体内の奥深くにあるため、腫瘍ができても初期の頃はなかなか気づきにくいものです。卵巣腫瘍が進行して大きくなってくると、下腹部が腫れたような感じがしたり、お腹を触るとやわらかいしこりのようなものに触れたりすることから、異変に気づく人もいますが、がん検診や妊娠検査の際に偶然見つかることも多い病気です。
卵巣にできる悪性腫瘍は「卵巣がん」と呼ばれますが、痛みなどの初期症状がないため、早期発見が難しいとされています。進行すると、お腹の張りや下腹部痛、圧迫感、硬いしこり、不正性器出血などの症状が見られます。
卵巣がんの治療方法は、基本的に手術と、抗がん剤による化学療法です。進行ステージによって、卵巣や卵管のみの摘出で済む場合もあれば、子宮やリンパ節まで摘出する必要性が出てくるケースもあります。手術後には化学療法を行うのが一般的です。
卵巣チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)
卵巣チョコレート嚢胞とは、卵巣の内部に子宮内膜と似た組織ができる病気で、正式には「卵巣子宮内膜症性嚢胞」という名称です。
卵巣にできた子宮内膜に似た組織は、通常の月経(生理)と同じように剥がれ落ちますが、その血液は子宮から排出されず、卵巣内にたまってしまいます。
卵巣チョコレート嚢胞の主な症状として、生理痛や腰痛、排便痛などの痛みが見られます。ただし、初期には自覚症状がないことも珍しくありません。
子宮付属器炎(卵巣炎・卵管炎)
卵管の炎症(卵管炎)と卵巣の炎症(卵巣炎)を「子宮付属器炎」と呼びます。卵巣炎が単独で起こることは少なく、卵管炎が卵巣まで広がるケースが多いため、一括りにされることが多いのです。
子宮付属器炎は、大腸菌やブドウ球菌、レンサ球菌などの細菌やクラミジアが、膣や子宮を通って卵管や卵巣に侵入し、感染することで発症します。
下腹部痛や発熱、膿性のおりものが症状として現れ、周りの骨盤腹膜や卵巣、子宮などと癒着を起こしてしまうこともあり、不妊症や子宮外妊娠のリスクが高まります。
原因菌に合った抗菌剤の服用や点滴による治療を行うのが一般的ですが、激しい下腹部痛や高熱など、症状によっては、入院による治療を行います。まれに開腹手術が必要になることもあります。
なお、クラミジアは性行為によって感染するため、コンドームを着けることで予防することが大切です。もしクラミジア感染症を発症したら、必ずパートナーと一緒に治療しましょう。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
「多嚢胞性卵巣症候群」とは、卵巣の中でできる卵胞の発育が遅く、ある程度の大きさになったとしてもうまく排卵されず、月経異常や不妊症を引き起こす病気です。
多嚢胞性卵巣症候群は20~40歳代の女性の数%に発症の可能性があり、にきびや吹き出物の増加、多毛、肥満などの症状に悩まされる女性が多いとされます。
発症の原因はまだはっきりとわかっておらず、根本的な治療法はまだ見つかっていません。排卵を促すための対症療法として、排卵誘発剤や、糖尿病の治療薬として使われるインスリン抵抗性改善薬が有効な場合もあります。
卵巣機能不全(卵巣機能低下症)
これまで挙げてきた卵巣の病気のほか、精神的なストレスや過度なダイエット、激しい運動などが原因で卵巣の機能が低下している状態を「卵巣機能不全」と呼びます。
卵巣の機能が低下することで、月経周期の乱れや排卵障害が引き起こされるほか、イライラや疲労感、のぼせ、めまいといった更年期障害に似た症状に悩まされるケースもあります。
無月経や無排卵の状態が長く続くと不妊の原因になるため、妊娠を望む場合は特に、早めに婦人科を受診することが重要です。
卵巣の病気にかかると、不妊になるの?
卵巣の病気と診断されると、「妊娠できなくなるのでは?」と心配になるかもしれません。しかし、全てのケースが不妊につながるわけではありません。
たとえば、卵巣に腫瘍が見つかり、摘出手術をすることになった場合でも、正常な卵巣の一部が残るのであれば、術後も排卵やホルモン分泌が起こり、妊娠・出産できる可能性はあります。
また、卵巣の機能が低下し、月経異常や排卵障害がある場合でも、ホルモン療法などによって人為的に排卵を促すことができれば、やはり妊娠することは可能です。
ただし、いずれの場合も、月経異常や排卵障害が慢性化するほど、ホルモン療法などの治療への反応は悪くなる可能性があります。気になる症状があれば、放置せず、すぐに婦人科を受診しましょう。
卵巣の病気は定期検診で早期発見しましょう
卵巣は、腫瘍などの病気にかかりやすいのが特徴です。下腹部の張りや、下腹部痛、しこり、不正性器出血などの症状があった場合には、万が一のことを考えて速やかに病院で診てもらうことが大切です。
ただし、卵巣はお腹の奥にあるため、病気にかかっていたとしても自覚症状が表れにくいという難点があります。定期的に子宮がん検診を受けるときに、内診や超音波検査などで卵巣の状態も確認してもらうことで、病気の早期発見に努めてください。