卵巣は女性だけが持っている大切な臓器。卵巣のおかげで女性ホルモンが分泌されて体内環境が整えられ、排卵して妊娠できるようになります。だからこそ、婦人科で「卵巣が腫れている」と診断されたら、とても不安になりますよね。今回は、卵巣の腫れについて、原因や症状、治療が必要な病気をご説明します。
卵巣の腫れとは?自覚症状はあるの?
卵巣は、子宮の両側にある2~3cmほどの、アーモンドのような形をした臓器です。婦人科で内診・超音波検査などを行った際、卵巣が大きく見えた場合に「卵巣が腫れている」「卵巣が大きくなっている」などと診断されます。
卵巣は腹部の奥にあって自覚症状が出にくく、多少の腫れでは症状が現れません。そのため、婦人科や内科で検査した際に偶然見つかるケースが多いのです。
卵巣の腫れの原因は?病気のせい?
卵巣が腫れる原因はいくつかありますが、ホルモンバランスの変化など生理的な原因で一時的に大きくなっている場合もあります。ただし、腫瘍ができていたり病気が潜んでいたりすることもあるので、注意深く診てもらう必要があります。
具体的には次のような原因が考えられます。
排卵による腫れ
排卵のために卵巣内が成熟している時期は、いつもより少し卵巣が大きく見えてしまうことがあります。この場合、自然に腫れは引いていくので心配はありません。
たとえば、排卵が起きる頃や、排卵誘発剤を使って排卵を促しているときに、卵巣が腫れやすくなります。
なお、卵子が卵巣から飛び出すときに、出血と排卵痛を伴う場合があります。そのため、下腹部痛で異変に気づく人もいます。
妊娠による腫れ
妊娠時の妊婦健診などを通して、卵巣の腫れを指摘されることもあります。これを「ルテイン嚢胞」といい、妊娠を継続するために増加するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロビン)というホルモンの分泌量が増えることが原因と考えられています(※1)。
ルテイン嚢胞は、妊娠16週頃までに自然と小さくなり、なくなるものなので、基本的には治療する必要はありません。ただし、ある程度大きく腫れている場合は、卵巣腫瘍と判別するために経過観察が必要です。
卵巣の腫瘍による腫れ
生理的な腫れとは異なり、卵巣に腫瘍ができていることが原因で腫れることもあります。
卵巣にできる腫瘍には、良性、悪性、その中間の性質を持つ境界悪性のものなど様々な種類があります。腫瘍の性質や症状の進行度合いによって、治療方法が検討されます。
子宮内膜症による腫れ
卵巣に子宮内膜症を発症した場合、「卵巣チョコレート嚢胞」と呼ばれ、卵巣の腫れが見られます(※1)。
卵巣の腫れだけでなく、生理のたびに生理痛が悪化していたり、生理以外のときにも下腹部痛や腰痛が見られる場合、チョコレート嚢胞の可能性もあります。
卵巣の腫れを検査する方法は?
内診や超音波検査だけでは、卵巣の腫れの具体的な原因を特定することはできません。そのため、他の検査も組み合わせて、卵巣の腫れが生理的なものか、腫瘍なのかを見分ける必要があります。
CTやMRIといった画像検査のほか、悪性腫瘍の疑いがある場合は「腫瘍マーカー」と呼ばれる血液検査を行うこともあります。
卵巣の腫れの原因を特定した上で、医師と相談しながら治療法を決めていきます。
卵巣の腫れの原因が良性腫瘍だったときの治療法は?
卵巣にできる腫瘍のうち、多くは良性の卵巣腫瘍です。これは、卵巣内に液体や脂肪が溜まってできるやわらかい腫瘍で、「漿液性嚢腫」「粘液性嚢腫」「皮様性嚢腫」の3種類が多くを占めますが、原因ははっきりしていません(※2)。
卵巣嚢腫はほとんどが良性なので、小さければ経過観察で済むこともあります。目安として5~6cm以上に大きくなった場合は、腫瘍や卵巣自体の摘出手術が必要になる場合もあります。
良性腫瘍でも、大きくなると腹痛や腰痛、頻尿や便秘などが生じたり、卵巣の根元がねじれて激痛をともなう「茎捻転(けいねんてん)」を起こしたりする可能性があるためです(※1)。
患者の妊娠の希望や症状などを総合的に考慮して、治療方法を検討し、開腹手術か腹腔鏡手術のいずれかで手術が行われます。
卵巣の腫れの原因が悪性腫瘍だったときの治療法は?
卵巣にこぶのような硬いかたまりができている場合、悪性腫瘍(卵巣がん)の可能性があります。悪性腫瘍である癌は、病状が進行すると他の部位へ転移してしまう恐れがあるため、できるだけ早く手術を行います。
悪性であっても、卵巣腫瘍が小さいうちはほとんど自覚症状がなく、お腹のふくらみや腹痛・腰痛、便秘・頻尿などの自覚症状が現れたときには、病状がかなり進行していることが多くあります。
そのため、卵巣がんと診断されたら、手術でできるだけ腫瘍組織を取り除く必要があります。患者の年齢や妊娠の希望があるかどうかも踏まえて、卵巣や子宮をどれだけ摘出するのかを決めます。
卵巣の腫れは妊娠に影響するの?
排卵などに伴う一時的な卵巣の腫れであれば、それだけで妊娠への影響があるとはいえません。
ただし、卵巣の腫瘍が原因で、両側の卵巣や子宮の摘出を行うことになった場合は、妊娠に影響が出てしまいます。卵巣腫瘍は早期発見が難しい病気ですが、できるだけ早く治療を始めることが大切です。
卵巣がんであっても、症状次第では、子宮と片方の卵巣を温存する「妊孕性温存手術」という手術法を採用することができる可能性もあります。利点とリスクの両方について主治医からしっかり説明を受け、家族とも相談の上、慎重に決定してください。
卵巣の腫れを定期的な検査で早期発見
卵巣は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、病気になっても自覚症状が現れにくい臓器です。そのため、気づいたときには腫瘍が進行していて、卵巣や子宮を摘出しなければならない可能性もあります。
卵巣腫瘍を早期発見することは困難ですが、定期的に婦人科検診を受けることで、発見できる可能性があります。
腫瘍が見つかるのが早いほど、健康な卵巣や卵管、子宮を残して治療できる可能性も高まります。他人事ではなく、自分にも起こりえることだと思って、婦人科検診を受けるようにしてください。