「皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)」は卵巣にできる腫瘍の一種です。基本的には良性の腫瘍ですが、まれに悪性化することもあるので注意が必要です。今回は皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の原因や症状、治療法などをご説明します。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)とは?原因は?
卵巣にできる腫瘍の種類は様々あり、腫瘍に含まれる組織や成分によって分類されます。
「皮様嚢腫(ひようのうしゅ)」は、赤ちゃんの元になる生殖細胞が卵胞内で細胞分裂を始め、中途半端に成熟することでできた良性腫瘍です。腫瘍の中には、黄色の皮脂や髪の毛などが含まれることが多くあります。
成熟した奇形の細胞が含まれ、中身が液状であることから、「成熟嚢胞性奇形腫」とも呼ばれます。精子と受精していない卵子が単独で増殖することでつくられると考えられていますが、はっきりした原因はわかっていません。
20~30代の女性に多く見られる腫瘍で、基本的にはどちらか一方の卵巣にだけ発症しますが、約10〜20%は両方の卵巣で同時に発症します(※1)。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の症状は?
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)は、卵胞内の細胞がゆっくり成長していくので進行が遅く、初期症状はほとんどありません。ただし、時間の経過とともに腫瘍が大きくなると、周辺の臓器や血管を圧迫するようになって腰痛や腹痛、便秘などの症状が現れることがあります。
そして、腫瘍のサイズが約5cmを超え、卵巣が大きくなりすぎると、「卵巣茎捻転」によってねじれた卵巣がうっ血を起こし、激しい腹痛や吐き気を起こすこともあります。治療が遅れると卵巣が壊死し、生殖機能を失ってしまう恐れがあるので、早期治療が必要です。
また、35歳以上の女性は約1%の確率で皮様嚢腫が悪性化、つまり「癌(がん)」に変わります(※1)。無症状とはいえ、発見され次第すぐに治療をすることが大切です。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の検査方法は?
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)を自覚症状で早期発見するのは難しいことです。多くの場合、自覚症状のないまま、妊娠した後の妊婦健診や婦人科検診などを受けた際に、卵巣が大きくなっていることから判明します。
検査で卵巣が大きくなっていることがわかったら、超音波検査や腹部のCT検査などで、卵巣内に毛髪や脂肪のかたまりなどがないかどうかを確認し、診断されます。悪性に転化している疑いがあれば、血液検査の腫瘍マーカー検査を行うこともあります。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の治療法は?手術は必要?
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)は、主要部分だけを取り除く「卵巣腫瘍核出術」という手術を行うのが基本です。腫瘍がそれほど大きくなければ、術後の早い回復が見込める腹腔鏡手術で腫瘍部分だけを切除できます。
ただし、大きさの目安として10cmを超えている、あるいは悪性に変わっている疑いがある場合には、開腹手術が必要になることがあります。腫瘍の大きさや、周囲の臓器との癒着などの状態によっては、卵巣と卵管を切除しなければならなくなります(※2)。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の手術費用は?
手術にかかる時間や費用は、症状や手術方法によって異なりますが、開腹手術であれば5〜7日程度の入院で、費用は健康保険が適用されて15〜20万円ほどになります。腹腔鏡手術の場合、それよりも入院期間が短くなることが多いですが、費用は少し高くなります。
ただし、高額療養費制度を申請すれば、1ヶ月あたりの自己負担限度額を超える分は後日戻ってきます。詳しくは医療機関で相談してみましょう。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)の手術後は妊娠できる?
腫瘍部分だけを取り除いたのであれば、卵巣の機能は維持されるので、その後に妊娠することはできます。また、腫瘍が大きくなりすぎたために片方の卵巣自体を切除したとしても、もう一方の卵巣が機能していれば、妊娠できる場合も多くあります。
ただし、皮様嚢腫の状態によっては、ごく稀に手術で両側の卵巣と卵管を摘出するケースもあり、その場合は残念ながら術後の自然妊娠は望めません。妊娠・出産の希望がある場合は、医師やパートナーとよく相談のうえ、治療方法を選択しましょう。
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)は早めの治療を
皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)は、若い女性に多く見られる卵巣腫瘍です。皮脂や髪の毛が卵巣の中にできる、と聞くと驚く人もいるかもしれませんが、ほとんどの場合は良性で、腫瘍だけを取り除くことができれば治療後に自然妊娠できる可能性もあります。
ただし、稀に悪性化(がん化)してしまうこともあるので、油断はできません。これから妊娠を考えている人は、定期的に婦人科検診を受けることをおすすめします。卵巣にできる腫瘍は初期に自覚症状がほとんどなく、早期発見が難しい病気ですが、婦人科検診で発見できる可能性もあります。