先天性の「子宮奇形」は、生殖可能な年齢の女性のうち約3.8~6.7%に見られます(※1)。自覚症状がない場合が多く、子宮は体の外から見えるものでもないので、妊娠や手術の際に判明することがほとんどです。子宮奇形だと、妊娠や出産にどんな影響があるのでしょうか?また、治療は必要なのでしょうか?今回は、子宮奇形についてご説明します。
子宮奇形とは?原因は?
子宮奇形とは、子宮の形が正常と異なる状態のことを指します。
本来、赤ちゃんがお腹の中で成長する過程で、ミュラー管と呼ばれる臓器が左右からくっついて子宮が作られ、最終的には洋梨が反対向きになったような形になります。
しかし、ママの胎内で体が作られる過程で、左右どちらか、または両方のミュラー管が十分に発育しない、うまく閉じないことなどが原因で、奇形が生じることがあります。
後述のとおり、1950~1960年代にアメリカで切迫早産の治療薬として広く使われた「DES」が子宮奇形を引き起こすことが報告されています。しかし、この薬は日本では一般的に使用されていないため、国内で見つかった子宮奇形の原因としてはまれです(※2)。
妊娠を機に子宮奇形が判明することも多いですが、妊娠・出産が原因で子宮奇形が生じるわけではありません。
子宮奇形の種類は?
米国不妊学会のASRM分類によると、子宮奇形は大きく次の7種類に分けられます(※3)。
1. 無形成・低形成、欠損
子宮が完全に作られていない、または欠けている
2. 単角子宮
左右のミュラー管のうち、一方に障害があり、子宮の片側が不完全である
3. 重複子宮
両方のミュラー管に障害があり、子宮体部と腟がともに完全に独立して、2つの子宮が存在している
4. 双角子宮
左右のミュラー管が完全にふさがらなかったため、子宮頸部と体部はつながっているが、子宮の中は二手に分かれており、子宮底部の上面がへこんでいる
5. 中隔子宮
ミュラー管が融合したときの真ん中の壁が、吸収されずに子宮内に残っているため、子宮内部が仕切られている
6. 弓状子宮
ミュラー管の真ん中の壁が少し残っており、子宮底部が中に突き出ている
7. DES製剤由来奇形
胎内でDESという切迫早産治療薬の影響を受けたことにより、子宮内部がT字型に変形している
子宮奇形になる割合は?
記事冒頭で触れたとおり、子宮奇形が見られる割合は、生殖可能年齢の女性の3.8~6.7%程度と、それほど高くないといえるかもしれません(※2)。
しかし、不妊症の女性のうち、子宮奇形がある割合は約10%弱、2回以上の流産または死産を経験している、いわゆる「不育症」の患者については、うち約20%弱に子宮奇形が見られます(※3,4)。
妊娠を希望しているのに、なかなか赤ちゃんを授からない、もしくは、妊娠はするものの、流産を繰り返してしまう、という妊婦さんが検査によって子宮奇形に気づく、ということもあります。
子宮奇形の自覚症状はあるの?
先天的に子宮奇形があっても、多くは無症状です。
しかし、単角子宮や重複子宮、双角子宮の場合、月経血がスムーズに排出されず、子宮内に溜まることで重い月経困難症を引き起こします。また、慢性的な骨盤痛が見られることもあります(※2)。
子宮奇形の診断方法は?
自覚症状だけで子宮奇形と診断することは難しく、不妊検査や妊婦健診、病気による手術のための検査などで判明することがほとんどです。より正確に奇形の状態を調べ、適切な治療方針を決めるため、複数の検査方法を組み合わせて診断を行います。
「子宮卵管造影法」による画像診断のほか、子宮内膜だけでなく外観も見ることができる「超音波断層法(エコー検査)」や「骨盤MRI検査」も子宮奇形の診断に有効です(※3)。
また、子宮奇形の種類によっては尿管や腎臓などの欠損も合併していることがあるため、その検査も合わせて行われることがあります。
子宮奇形でも妊娠できるの?
子宮奇形は不妊の原因になることもありますが、全てのケースで妊娠しにくくなるわけではありません。
「中隔子宮」の場合、不妊症の発生率が約20%で、子宮内膜ではなく、子宮内部を隔てている部分に受精卵が着床してしまい、うまく育たないことが原因と考えられています(※3,4)。
しかし、他のタイプの子宮奇形の場合は、今のところ妊娠率が低下するとは認められていません。子宮奇形だとわかっても悲観的になりすぎず、婦人科の医師と相談しながら、対応方法を検討してください。
子宮奇形による流産・早産リスクは?
子宮奇形のうち、最も多く見られる「弓状子宮」は、約6~7%の確率で中期流産を引き起こすことがわかっています(※3)。
続いてよく見られる「中隔子宮」「双角子宮」「単角子宮」は、初期流産につながるリスクが高いとされますが、その確率は約20~40%とまちまちです(※3)。
また、早産については、「弓状子宮」以外の全ての子宮奇形において発生率が高くなっています(※3)。
子宮奇形は手術による治療が必要?
子宮奇形は自然に治るわけではないので、形を整えるには手術をするしかありませんが、子宮奇形の女性の全てに手術が必要というわけではありません。先述のとおり、子宮奇形があっても無事に妊娠、出産できるケースもあります。
しかし、子宮奇形以外に不妊症・不育症の原因が考えられない場合や、子宮奇形が月経困難症や性交痛などを引き起こしている場合は、医師から手術を勧められることもあります。
特に「中隔子宮」については、子宮内を隔てている壁を切除する「子宮中隔切除術」によって、妊娠率が高まり、流産率が大幅に下がったという研究報告もあります(※1,3)。
また、「弓状子宮」「中隔子宮」「双角子宮」の3つについては、「開腹子宮形成術」も有効とされています(※1)。
子宮奇形とわかったら、パートナーや医師とよく相談を
自分の子宮が「奇形」だとわかると、多くの人は驚くと思います。しかし、子宮奇形でも妊娠、出産ができないとは限らないので、あまり心配しすぎないようにしましょう。
子宮奇形と判明したら、妊娠をどう進めるか、手術する必要があるのかなど、パートナーや信頼できる産婦人科医とよく相談・検討してみてくださいね。