「胎児性アルコール症候群」という言葉を聞いたことがありますか?妊娠中に母親が飲酒をすることによって、胎児に引き起こされる障害の総称です。「妊娠中のアルコール摂取はダメ」ということは聞いたことがあっても、具体的なリスクについては詳しく知らない人もいるかもしれませんね。今回は、胎児性アルコール症候群のリスクや、赤ちゃんへの影響などについてご紹介します。
胎児性アルコール症候群とは?
胎児性アルコール症候群とは、アルコールを過剰摂取した妊婦さんから生まれた赤ちゃんに見られる、先天性疾患です。
母親の飲酒量に比例して、胎児性アルコール症候群のリスクは増えるとされており、アルコール依存症の女性から生まれた子供を調査したところ、妊娠中に飲酒したケースの30%に胎児性アルコール症候群が見られたという報告があります(※1)。
胎児性アルコール症候群の原因は?治療できるの?
妊娠中にママが口にした栄養は胎盤を通して赤ちゃんに送られます。胎盤は風邪を引いた場合などにウイルスなど体に悪いものを通さない役割も果たしていますが、飲酒によるアルコールはそのまま胎盤を通って胎児に送られてしまいます。
未熟な胎児の肝臓ではアルコールをうまく分解することができず、アルコールが残った状態が続くことによって、発育に色々な問題を引き起こしてしまうと考えられています。
残念ながら胎児性アルコール症候群は治療法がありません。そう聞くと怖く感じるかもしれませんが、妊娠中に飲酒をしなければ予防できる疾患です。普段よくお酒を飲む人も、妊娠したら必ず断酒しましょう。
胎児性アルコール症候群になる飲酒量はどれくらい?
先ほど触れたとおり、母親の飲酒量と、胎児性アルコール症候群のリスクは比例します。
しかし、少量しか飲酒しなかった場合でも胎児性アルコール症候群の報告例はあり、妊娠中に飲酒しても安全なアルコールの量は医学的に明らかになっていません(※1)。
厚生労働省によると、アメリカで「胎児性アルコール症候群の危険性がない」とされる飲酒量は「1日1ドリンク、週に7ドリンク以下」(1ドリンク:ビール250ml程度)ですが、日本人は体格が小さいため、この飲酒量をもって「安全」とすべきではないとしています(※2)。
ただし、お酒を飲んだからといって、必ず赤ちゃんに胎児性アルコール症候群が見られるとは言い切れません。また、妊婦さんの体型や飲酒の量・時期など、条件によって発症の有無や程度も異なります。
発症リスクをゼロにするためには、お酒を完全にやめるしかありません。
胎児性アルコール症候群が起きる確率は?
各国の出生人数に対する胎児性アルコール症候群の発生率は、アメリカでは0.2~2.0人/1,000人、フランスでは0.5~3.0人/1,000人、日本では0.1人以下/1,000人という調査結果が出ています(※1,3)。
しかし、若い女性の飲酒量が増加していることから、発症率も今後増加する可能性があると見られています。
日本における出生数は、2015年時点では年間約100万人なので、単純に計算すると胎児性アルコール症候群を持って生まれてくる赤ちゃんは年間100人以下ということになります。
そう聞くと少なく感じるかもしれませんが、次に説明するとおり様々な症状が現れる病気なので、妊娠したら油断せずに禁酒を続けましょう。
胎児性アルコール症候群の症状は?
胎児性アルコール症候群は軽度から重度まで様々ですが、大きく分けると3つの症状に分かれます。
1. 発育の遅れ
妊娠中にアルコールを摂取した女性から生まれた赤ちゃんは、低体重や低身長など、お腹の中や生まれたあとの発育が悪くなる傾向があります。
厚生労働省によると、1日60g(ビール1.5リットル相当)以上のアルコールを妊娠初期に飲酒していた母親から生まれた子供は、体重や頭位が明らかに小さいとされています(※1)。
2. 中枢神経障害
精神発達の遅れやADHD(注意欠陥多動性障害)などの中枢神経障害が見られることがあります。これらの障害は、子供が大きくなるにつれて徐々に現れることも。
精神疾患として、うつ病が見られることもあり、学習・衝動コントロール・対人関係などの障害となっていく可能性があります。
3. 容姿への影響
胎児性アルコール症候群で特徴的なのが、顔つきです。個人差はありますが、生まれてくる赤ちゃんに下記のような特徴が見られることがあります(※1)。
● 全体的に平たい顔つきになる
● 鼻が小さく低い
● 耳が小さく下の方に付いていて反り返りが目立つ
● 上唇が薄い
● 鼻と上唇の間隔が狭く、縦溝(人中)が浅い
● 頭が小さい(小頭症)
● 顎が小さい
● 目が小さい
妊娠超初期も胎児性アルコール症候群の危険あり?
妊娠検査薬で陽性が分かる前に、「妊娠に気づかずお酒を飲んでしまった」という人は多いものです。飲んでしまったものは変えられないので、過度に心配しすぎず、妊娠が分かった時点で飲酒をやめましょう。
妊娠超初期(妊娠0~4週)のアルコール摂取は、胎児への影響は少ないとされますが、大量飲酒は胎児性アルコール症候群や流産を引き起こす危険性があります(※2)。妊活中の人は、妊娠判明前から飲酒を控えておくと安心ですよ。
妊娠初期(妊娠4~15週)は赤ちゃんの器官や脳などができる大切な時期なので、お酒を飲まないのが基本です。
妊娠中期・後期(妊娠16週以降)になると、ママの体調が安定してきて少し気が緩むかもしれませんが、お腹の赤ちゃんは日々成長しています。その成長を妨げないためにもアルコールの摂取は引き続き控えましょう。
また、出産後のアルコール摂取は母乳に影響があります。妊娠中に禁酒していた分、息抜きで飲みたいときもあるかもしれませんが、卒乳するまでは我慢してくださいね。
胎児性アルコール症候群は妊娠中の禁酒で防ごう
妊娠中のアルコール摂取は、流産や死産の原因にもなる可能性があるので厳禁。胎児性アルコール症候群の治療法はありませんが、妊娠中に飲酒をしなければ予防できる疾患です。お酒好きな妊婦さんも、妊娠中は我慢して、かわいい赤ちゃんに出会える日を待ってくださいね。