先天的な病気は予防することが難しく、子供が生まれてしばらくしてから、初めて気がつく場合もあります。「心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)」も先天的な疾患の一つで、赤ちゃんのお世話をする中で異変に気づくことがあります。先天的な疾患の中では比較的よく見られる病気ですが、心臓の病気なので「子供にどんな影響があるのか」と、とても心配になりますよね。今回は、心室中隔欠損症の原因や症状、治療方法などについてご説明します。
心室中隔欠損症とは?原因は遺伝?
心臓は、4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれており、右心室と左心室の間は「心室中隔」という筋肉の壁で隔てられています。通常、心室中隔は赤ちゃんがママのお腹の中にいる妊娠4~8週目頃に作られます。
心室中隔欠損症とは、この心室中隔の形成が不十分で、生まれつき穴が開いている先天性の病気です。発症率は比較的高く、1000人に3人の割合で心室中隔欠損症を持った赤ちゃんが生まれてきます(※1)。
また、原因が遺伝によるものかどうかは、完全に明らかになっていませんが、親が先天性心疾患を持つ場合、その子供も先天性心疾患になる確率は若干高くなります。父親に心疾患があれば3~5%、母親の場合は5~10%の割合で、何らかの心疾患を持つ赤ちゃんが生まれます。また、兄弟姉妹で同じ病気を持って生まれる確率も少し高くなります(※2,3)。
また、ダウン症候群や18トリソミーなどの染色体異常がある場合、心室中隔欠損症が発生する頻度が高いことが知られています(※4)。
心室中隔欠損症の症状は?
心室中隔欠損症は、外見だけで診断することはできないため、新生児健診や乳児健診のときに、心音に雑音が混じることで判明するケースがあります。
心室中隔欠損症の症状は、穴の大きさや場所によって違います。分厚い筋肉で囲まれたところにできた小さな穴であれば、目立った症状は現れず、体重増加や母乳・ミルクの飲み具合にもほとんど影響がありません。
日本小児外科学会によると、2~3mm以下の穴がある赤ちゃんのうち、20~25%は2~3年以内に自然に穴がふさがります(※1)。ただし、2歳を過ぎても穴が閉じない場合、自然閉鎖することは稀です。また、心臓の房室弁や大動脈弁、肺動脈弁などに接している穴も、自然に閉じないことがほとんどです。
しかし、穴が中等度以上の大きさになると、生後1~2ヶ月で「脈が速い」「呼吸が荒くて回数が多い」「母乳やミルクをなかなか飲まない」「手足が冷たい」「寝汗をかきやすい」などの症状が見られ、赤ちゃんの身長が正常範囲であっても体重があまり増加しなくなります(※5)。
さらに大きな穴を持つ赤ちゃんだと、そのような症状がさらに悪化したり、肺高血圧を合併してチアノーゼを起こしたりするので、すぐに専門医の診察を受けることが必要です。
心室中隔欠損症の治療法は?手術の方法は?
心室中隔欠損症は、聴診と胸部レントゲン、心電図、心エコー検査などによって診断されます。穴が小さければ自然に治る可能性を考えて経過観察になりますが、ある程度の大きさになっていれば手術が必要になります。
心不全の症状が重いケースでは1歳未満でも手術を行い、症状が重くなければ2歳になるのを待ってから手術するのが一般的です。
人工心肺装置を使って酸素や血液の体外循環を確立したうえで、一時的に心拍を止めて手術します。心臓の一部を切り開き、心室中隔にできた穴を人工布などでふさぎます。人工布は時間が経つにつれて心臓構造の一部に組み込まれていくため、子供が成長したあとも取り替える必要はありません。
大掛かりな手術ではありますが、日本小児外科学会によると、成功率は95%以上とされています(※1)。退院後もしばらくは強心剤や利尿剤を飲み続ける必要がありますが、定期検査で心肺機能の改善が確認できれば、投薬を中止します。
心室中隔欠損症の手術にかかる費用は?
子供が心室中隔欠損症だとわかると、「その費用は高額になるのでは?」という心配があるかもしれません。しかし、子供が心疾患の治療を受ける場合、次のような公費負担制度があり、自己負担がほとんどかからなくて済みます。
なお、これらは健康保険の自己負担分について補助する制度であり、差額ベッド代など健康保険外の費用については適用されません。
自立支援医療(育成医療)
18歳未満の心臓病患者の手術費用について、自己負担分を補助する制度です(※6)。利用者は、所得に応じた医療費負担の軽減を受けられます。申請の窓口は、住んでいる市区町村です。
小児慢性特定疾患治療研究事業
心室中隔欠損症は厚生労働省が定める「小児慢性特定疾患治療研究事業」の対象疾患に指定されています(※7)。18歳未満であれば、所得に応じて内科的な治療費の自己負担分に特別な補助がつき、入院中の食事代も支給される場合があります。
ただし、疾患ごとに認定基準が定められており、経過観察や症状が軽い場合には適用されないケースもあるので確認が必要です。申請の窓口は、住んでいる市区町村の保健所です。
乳幼児医療費助成制度
各都道府県ごとに実施している助成制度で、主に小学校に上がる前の年齢の子供に対して、医療機関で診察や治療を受けたときにかかる医療費の一部、または全額を援助してもらえます。
自治体によってはさらに上乗せの補助を出しているところもあったり、補助の条件や対象年齢が異なったりするので、お住まいの市区町村で確認してください。
心室中隔欠損症の手術後は慎重に
小さな赤ちゃんに「先天的な心臓の病気がある」と診断を受けたら、とても不安ですよね。しかし、心室中隔欠損症は手術をしなくても自然に治ることも多い病気です。
また、もし手術となっても成功率が高い病気なので、過度に心配しすぎず、医師の指示に従って治療を受けましょう。
ただし、心臓の手術を受けた後は運動などに制限がかかります。それでも子供は元気に走り回ってしまうことも多いので、パパやママが注意して見ていてあげてくださいね。
かかりつけ医と相談しながら、経過観察をしていきましょう。