「卵管炎」は、その名のとおり、卵巣と子宮をつなぐ卵管が炎症を起こす病気です。卵管炎は、下腹部痛の原因となるだけではなく、不妊症の原因になる恐れもあるので、早期治療が大切です。今回は、卵管炎を発症したときにきちんと対処ができるように、その原因や症状、治療法についてご説明します。
卵管炎とは?
卵管は、左右にある卵巣と子宮をつなぐ器官です。卵巣から排卵された卵子を卵管采でピックアップして、精子と受精した受精卵を子宮まで運ぶ役割をもっています。
この卵管が炎症を起こしてしまった状態が卵管炎です。卵管の炎症が卵巣まで広がることも多く、ひとくくりに「子宮付属器炎」と呼ばれることもあります。
卵管炎の原因は?
卵管炎は、細菌などの病原体に感染することで発症します。
一般細菌(雑菌)であるブドウ球菌や大腸菌などが増殖することもあれば、クラミジアや淋菌などの性感染症が原因で卵管炎を起こすこともあります(※1)。
本来、腟の中はデーデルライン桿菌(乳酸桿菌)の自浄作用によって細菌の侵入を防いでいますが、体力が落ちているときなどは細菌が侵入しやすく、卵管まで到達すると炎症を起こしてしまうのです。
卵管炎になると、卵巣にも炎症が及んで「卵巣炎」を起こすことが多く、さらにはお腹全体が炎症を起こす「骨盤腹膜炎」につながる恐れもあるので、注意が必要です(※2)。
卵管炎の症状は?病院へ行く目安は?
急性卵管炎を起こすと、痛みの程度は様々ですが、下腹部痛を感じることが多くあります。
症状が進行すると、発熱や吐き気、嘔吐を伴うこともあります。また、おりものの量が増え、排便・排尿時に痛みを感じる人もいます(※1)。
このとき、卵管の中が腫れてしまい、重症化すると、炎症によって分泌される浸出液や膿(うみ)などが溜まって「卵管留水腫」や「卵管留膿腫」を併発することもあります(※1)。
卵管が細菌感染すると、周囲にある卵巣や子宮、直腸、膀胱などの器官や、それらを覆っている骨盤腹膜と癒着を起こす恐れもあるので、下腹部痛などの自覚症状に気づいた時点で、婦人科を受診することが大切です(※1)。
また、急性卵管炎の状態が続いたり繰り返したりすると、慢性卵管炎となることがあります。
慢性卵管炎は自覚症状があまりないことも多いのですが、不妊症などの原因となることがあるため、慢性化する前に治療することが大切です。
卵管炎の治療方法は?
卵管炎の治療法は、原因になっている病原体に効く抗菌薬を投与するのが基本です。
症状が軽ければ経口薬のみ処方されることもありますが、下腹部痛が激しかったり、骨盤腹膜炎まで進展してしまっていたりするケースでは、入院して点滴治療を受けます(※1)。
膿などが溜まっている場合は、腟から管を入れて膿を体外に排出する「ドレナージ」を行う必要があります(※1,3)。
卵管留水腫や卵管留膿腫を併発してしまった場合は、消炎剤などで炎症が治まったあとに、腹腔鏡下手術などで卵管を摘出しなければならなくなることもあります(※1,4)。
卵管炎になると不妊を引き起こす?
卵管は卵子と子宮をつなぐ重要な臓器なので、ここが炎症を起こすと妊娠しにくくなる可能性があります。卵管が癒着で塞がれると、卵子と精子が受精できない、受精卵が子宮へと到達できないといったことが起こり得るからです。
また、受精はできても子宮に運ばれずに、卵管などに受精卵が着床してしまう「異所性妊娠(子宮外妊娠)」を起こす可能性も高まります。
子宮外妊娠の場合は妊娠を継続できなくなるだけではなく、受精卵の成長によって卵管が破裂するなどの危険がともないます。
なお、卵巣と卵管は左右に1つずつあるため、片方が塞がったり、摘出されたりしても、もう一方が機能していれば妊娠できる可能性はあります。
しかし、できるだけ両方の卵管を健康な状態に保っておくためには、早めに卵管炎を治療することが大切です。
卵管炎を予防するには?
卵管が病原体に感染するのを完全に防ぐのは難しいですが、腟内で雑菌が繁殖しないよう、タンポンや子宮内避妊具(IUD)を長期間入れたままにするのは避けましょう。
また、腟の奥まで洗浄しすぎると、腟内の自浄作用が低下してしまうこともあるので、お風呂に入ったときにシャワーでやさしく洗い流す程度にしてください。
腟内の環境は、体力が落ちていたり、体調が悪かったりするときに崩れやすいので、十分な睡眠をとり規則正しい生活を送るよう、心がけましょう。
また、クラミジアや淋菌は性交渉を通じて感染するため、コンドームを装着することが予防につながります。
卵管炎は重症化する前に治療しましょう
卵管は炎症が起こりやすいだけでなく、卵巣やほかの臓器にも波及することが多いので、早期治療が大切な病気です。おりものや下腹部に違和感があるという場合には、早めに婦人科を受診しましょう。
特にこれから妊娠を望むのであれば、生理用品や避妊具を清潔に使うのはもちろんのこと、クラミジアや淋菌などによる性感染症にかかっている可能性があれば、検査を受けておくことが大切です。