「癌(がん)」には色々な種類がありますが、女性特有のものとして、生殖器にできる癌がいくつかあります。そのうちの1つが「外陰癌(がん)」です。いわゆるデリケートゾーン周辺に生じる皮膚がんで、初期症状がない人も多く、気づかないうちに進行することも多い病気です。
今回は、外陰がんのリスクが高まる要因や症状、診断方法や治療法についてまとめました。
外陰癌(がん)とは?
外陰がんの多くは、女性の腟口など、外陰部周辺に生じる皮膚がんです。
外陰部とは、性器の外側のいわゆる「デリケートゾーン」と呼ばれる部分を指し、恥丘(ちきゅう)、陰核、大陰唇(だいいんしん)、小陰唇、大前庭(だいぜんてい)腺、腟前庭、会陰(えいん)の総称です。
外陰がんは、婦人科で扱われる悪性腫瘍(がん)のなかでは約3%を占める、比較的まれな病気です。外陰がん患者の多くは閉経を迎えた50歳以上の人ですが、40歳以下の女性でも多く見られるようになってきました(※1)。女性の寿命が長くなるにつれて、外陰がんの発生数も増えていくと考えられています(※2)。
なお、外陰がんとは別に、「外陰パジェット病(外陰ページェット病)」という皮膚がんがあります。
これは、乳頭部に発生する「乳房パジェット病」と、それ以外の部位に発生する「乳房外パジェット病」の2種類に分けられ、乳房外パジェット病は外陰部に最も多く発生することがわかっています(※3)。
今回の記事では、「外陰がん」について説明していきます。
外陰癌(がん)の原因は?
外陰がんが発生する直接的な原因は明確にわかっていません。しかし、発生リスクが高まる要因として、以下のことが考えられています(※2)。
- ヒトパピローマウイルス(HPV)感染
- 硬化性苔癬(たいせん):外陰部に生じる炎症性の皮膚疾患
- 外陰部の組織の形成異常
- 腟がん、子宮頸がん
- 慢性肉芽筋腫:免疫力を低下させる遺伝性の疾患
- 高齢
- 大量の喫煙
外陰癌(がん)の症状は?
外陰部に見られる白色や茶色、赤色の斑点は、外陰がんを発症する兆候と考えられています。外陰がんのうち約90%が表皮に生じる「扁平上皮癌」で、5%が「黒色腫」、残りの5%が乳房外パジェット病を含むそのほかのまれな皮膚がんです。
症状として、生理とは関係のない出血やおりもの、外陰部の焼けるような痛みやかゆみが出ます。
また、外陰部の異常な「しこり」や、平らな赤い「ただれ」として現れ、ただれがうろこ状になったり、その部分だけ皮膚の色が白っぽく変わったりすることもあります。
周りの皮膚に引きつれや、しわが生じるのも外陰がんの症状のひとつです。黒色腫の場合、青みがかった黒色や茶色の「ただれ」や「いぼ」のようなものが生じます。
外陰がんにかかった女性の約5人に1人は、少なくとも初期には症状がないといわれています(※2)。
多くの場合、外陰がんはゆっくりと増殖し、何年も表面にとどまっていますが、なかには悪性黒色腫のように進行や転移のスピードが速いがんもあるので注意が必要です。
治療を受けないまま放置してしまうと、やがて腟、尿道、肛門などに広がり、それぞれの部位のリンパ節へと転移する恐れがあります。
外陰がんが進むと、しこりやただれの部分から出血したり、水っぽい分泌物が出たりするようになります。このような症状があれば、すぐに婦人科で診察を受けましょう。
外陰癌(がん)の検査・診断方法は?
上で紹介したような症状が外陰部に見られる場合、婦人科にかかります。
まず医師が外陰部をよく観察し、触診を行います。外陰がんの疑いがあると診断された場合には、局部麻酔をして患部の皮膚サンプルを採取し、検査(生検)します。
この生検により、外陰部に生じている症状が癌性のものなのか、感染症や炎症によるものかを判断します。
また、癌の場合、その種類を特定することが治療計画を立てるうえで重要です。
皮膚に異常が発生している領域がはっきりしていない場合、生検用サンプルの採取位置を決めるため、患部を染色することもあります。
また、双眼の拡大鏡を使って外陰部の表面を観察する「腟拡大鏡検査」を行うケースもあります(※2)。
外陰癌(がん)の治療法は?ステージで異なるの?
外陰がんと診断されたら、がんが他の部位に転移しているかどうか確認し、がんの病期(ステージ)に合わせた治療を行います(※1、2)。
ステージが初期の場合
がんの範囲や種類に応じて、外陰部の一部もしくは全体を手術により切除します。これを「外陰切除術」と呼びます。また、患部近くのリンパ節も切除します。初期であれば、必要な治療は通常はこれだけです。
がんが進行している場合
進行したがんでは、外陰切除術を実施する前に、放射線療法と、抗がん剤を使用した化学療法を併用します。これらの治療により、がんがきわめて大きい場合でも縮小し、切除しやすくなります。
外陰がんは、離れた部位には転移しにくいため、手術では基本的にがんの部分のみを切除します。
ただし、がんが大きく広がっている場合には、外陰部全体を切除することになります。
もし、がんが外陰を越えていたり、ほかの器官にも転移したりしている場合には、陰核や骨盤内にあるほかの臓器も切除する「骨盤内臓摘出術」を行います。
がんを切除したあとは、体のほかの部位から皮膚などを移植する場合や、人工の外陰や腟を形成するための形成外科手術を実施することもあります。この再建手術により、手術で切除する部位の見た目や機能が改善します。
通常、外陰を切除したあとも性交は可能です。術後のことについては、よく医師に相談してくださいね。
外陰癌(がん)の予後・生存率は?
外陰がんが早期に発見され、治療を行った場合、4人のうち約3人では、診断後5年間にがんの兆候がまったく現れないというデータがあります。
また、がんの診断と治療から5年後に生存している人の割合は、がんがリンパ節に転移していたかどうかによって異なり、転移がない場合の生存率は96%ですが、転移していた場合には66%まで下がるとされています(※2)。
ただし、外陰がんの予後(経過の見通し)は、がんのタイプや患者の年齢、合併症の有無などの影響を受けるため、目安としてとらえてください。
外陰癌(がん)の治療は、早期発見がカギ
本人や家族が「がん」と診断されると、誰しもショックを受けますし、「どうしてがんにかかってしまったのだろう」と考えてしまうものです。また、予後についても気になりますよね。
今回の記事でご紹介したとおり、外陰がんの発見と治療開始が早ければ早いほど、手術後の経過は良く、生存率が上がります。デリケートゾーンに違和感を覚えたらすぐに婦人科にかかることが大切です。
万が一、外陰がんと診断された場合には、医師や家族と充分に話し合い、がんの状態や本人に合った治療計画を立てましょう。