卵巣に腫瘍ができると、手術による治療が必要になることがあります。症状によっては、卵巣そのものを切除する「卵巣摘出手術」を行わなければならないことも。治療のために手術が必要なことはわかっていても、「卵巣を摘出しても大丈夫なの?」と不安を感じますよね。そこで今回は卵巣摘出手術とはどういうものか、その方法や費用、手術の期間、術後に現れる症状などをご説明します。
卵巣摘出手術とは?
卵巣は、子宮の左右に1つずつ付いている、親指大のたまごのような形の臓器です。卵巣内には「原始卵胞」と呼ばれる卵子の元の細胞がたくさんあり、それが発育して排卵が起こります。つまり、卵巣は、卵子を生み出すという生殖活動の重要な役割を担っています。
「卵巣摘出手術」とは、その名のとおり、卵巣を切除する手術です。生殖器官にメスを入れる手術としては、卵巣と卵管を一緒に切除する「付属器切除術」や、子宮を切除する「子宮全摘出術」などもあります。
卵巣摘出手術はどんなときに受けるの?
卵巣摘出手術をする必要があるのは、基本的に卵巣に腫瘍ができているケースです。ただし、卵巣腫瘍には様々な種類があり、良性か悪性か、また大きさはどのくらいかによって、卵巣そのものを摘出するべきかについて検討されます。
卵巣腫瘍が「良性」の場合
一般的に、卵巣嚢腫など良性の腫瘍で、まだ小さい場合は、経過観察となることもあります。ただし、たとえ良性であっても、腫瘍の重さで卵巣がねじれてしまう「卵巣茎捻転」を起こす恐れがあるので、目安として大きさが6cm以上の場合は手術を勧められます(※1)。
卵巣腫瘍が6~10cm程度であれば、卵巣は残したまま腫瘍部分だけを切除する「卵巣嚢腫核出術」を行うことが多くなります。しかし、腫瘍が10cm以上の大きさになっている場合などには、卵巣摘出手術や片側付属器切除術をしなければならないこともあります(※1)。
卵巣腫瘍が「悪性」の場合
悪性腫瘍(卵巣がん)である場合、卵巣以外への転移の可能性があり、できるだけ腫瘍組織を少なくする必要があるため、卵巣だけではなく卵管や子宮などの付属器も一緒に切除するのが一般的です。
がんの進行がまだ初期段階で、片方の卵巣にしか腫瘍がない場合は、片側付属器切除術を行うこともありますが、がんが両側の卵巣にある場合は、両側付属器切除術をする必要があります(※1)。
ただし、患者の年齢がまだ若く、妊娠・出産の強い希望がある場合、腫瘍ができていない方の卵巣を残し、化学療法を併用する「妊孕性(にんようせい)温存手術」や、卵子の保存などの方法が選択できる場合もあります。
将来的に赤ちゃんを授かりたいという女性は、治療前に医師に相談しましょう。
卵巣摘出手術の方法は?
卵巣を摘出する手術には2通りの方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります(※1)。下記のことを考慮したうえで、医師やパートナーとよく話し合って手術方法を検討しましょう。
開腹(腹式)手術
卵巣を摘出するために、お腹を切り開く手術法です。医師が広い視野を確保できるので、卵巣の状態を確認しやすく、激しい癒着が起きている場合にもすぐ対応ができます。また、腹腔鏡下手術と比べると費用がやや安く済むというメリットもあります。
一方で、お腹を大きく切り開くので手術跡が大きくなります。また、術後の痛みが強いので入院日数が長くなるというデメリットもあります。
腹腔鏡下手術
お腹を切り開かずに、2〜3ヶ所の穴を開けてそこから腹腔鏡と呼ばれる器具を入れて摘出する方法です。開腹手術に比べると、手術跡が目立ちにくいのが特長です。また、術後の痛みや癒着が比較的軽く、術後の回復が早いので入院日数が少なくて済むというメリットもあります。
一方で、腹腔鏡下手術を受けられる病院が限られ、費用も高くなるデメリットがあります。また、腫瘍が大きかったり、ひどい癒着が予想されたりする場合には適用できないなど、対象が限定的です。
卵巣摘出手術の費用はどれくらい?入院期間は?
卵巣摘出手術にかかる日数や費用は、症状や術後の状態、医療機関によっても異なります。事前に医師に確認しておきましょう。
目安として、開腹手術の場合は10日前後の入院が必要で、健康保険の適用により15万円程度かかります。一方、腹腔鏡下手術の場合は4〜6日程度の入院で、保険適用で20万円ほどです。なお、差額ベッド代や個室使用料は別途かかります。
手術費は高額ですが、高額療養費制度の利用を申請すれば、自己負担限度額を超えるお金は後日戻ってきます。費用のことを心配しすぎず、きちんと治療に専念してください。
また、「できるだけ早く退院したい」という人もいるかもしれませんが、術後はまだ痛みがあり、体力が落ちているので、仕事復帰などのタイミングについては医師と相談し、焦らずゆっくり休みましょう。
卵巣摘出手術後の後遺症や生理への影響は?
卵巣摘出手術後は、2つのうちどちらかの卵巣が残っていれば、後遺症が現れることはほとんどなく、妊娠も可能です。
ただし、卵巣が正常に機能しないことも稀にあり、その場合は女性ホルモンが正しく分泌されず、生理不順になったり、体調不良を引き起こしたりすることもあるので、症状がひどいときや続くときは婦人科を受診しましょう。
また、両方の卵巣を摘出した場合には、卵巣で分泌される女性ホルモンがなくなってしまうので、排卵はなくなり、閉経前後に現れる更年期障害のような症状が見られることがあります。
ほてりやのぼせ、頭痛、めまい、冷え性などが現れることがありますが、通常は時間の経過とともに徐々に消えていきます。
卵巣摘出手術について不安があれば医師に相談を
医師から「卵巣摘出が必要です」と診断されたら気が動転してしまうと思います。しかし、片方の卵巣だけを摘出するのか、それとも両方取る必要があるのかは、腫瘍の大きさや性質によって異なります。まずは、自分の卵巣がどういう状態で、なぜ切除が必要なのかなどをきちんと尋ね、不安なことがあれば医師に相談しましょう。
また、卵巣を温存して治療できる可能性もあるので、妊娠の希望がある場合は医師にしっかり伝えましょう。自分にとって最適な治療法を選択できるといいですね。